転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第三章

第174話 いつもの朝の光景

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 カミール領に来て初めての冬がやってきた。
 比較的温暖で気候が安定しているとはいえ、やはり寒いものは寒い。
 今朝は、あまりの寒さにいつもより早く目が覚めてしまった。

「うぅ……寒い」

 両腕で体を擦りながら急いで厚手の服に着替えて一階へと降りる。
 階下は二階よりひんやりとしており、慌てて暖炉に火をくべる。

「本格的に寒くなってきたなぁ。そろそろ冬支度しなきゃ」

 パチパチと薪が燃える音を聞きながら朝食の支度に取りかかる。
 今日は、薄くスライスしておいた魔物肉をベーコンに見立てた日本では定番の朝食だ。
 スープは玉ねぎを塩と胡椒で味付けしただけの簡単なものだが、朝食ならあっさりとした味の方が良いだろうと思ってのことだ。
 あとはふわっふわの柔らかいパンがあれば完璧なのだが、残念ながらここにはフランスパンのような硬いパンしかなかった。

 朝食の支度を終えて椅子に腰を下ろして休憩していると、二階からブロンの元気な声が聞こえてきた。

『いいにおいがする――!あっ!おねえちゃん、おはよう!』

 愛らしい鼻をヒクヒクとさせて転がるように階段を降りてきたブロンが、目ざとく私を見つけるなり飛び込んできた。
 咄嗟にブロンを抱きとめて頭を優しく撫でる。

「おっと。おはようブロン。今日も元気だね」

 元気なのは良いことだ。
 見ているこちらまで気持ちが明るくなる。
 頭を撫で撫でしていると、ブロンの大きな声で目が覚めたのか、ヒデさんが寝ぐせをつけたまま目を擦りつつ階段を降りてきた。

「ヒデさん、おはよう」

 私が声をかけると、寝ぼけ眼のままヒデさんが応える。

「……おはよう」

 ポチの魔道具が完成してからも、ヒデさんは色んな魔道具造りに没頭しているようだ。
 しかし、いくらスキルがあるとはいえ、それがすぐに成功に結びつくわけではない。
 魔法はイメージだと言うが、魔道具造りにおいてはイメージだけでは造れないらしい。
 やはり、ファンタジーな世界だといってもそう簡単に魔道具は造れないようだ。
 実に奥が深い。
 大変なんだなと感慨深げに頷いていると、不意に肩からメイスの低い声がした。

『ユーリ、おはよう。美味そうな匂いがしているが今朝は何だ?』

 突然のことに一瞬驚いたが、それもいつもの朝の光景の一つとなっていたため、私はすぐにニッコリと笑みを浮かべて応えた。

「今朝はね、ベーコンもどきとオニオンスープもどきにしたよ。多めに作っておいたからお代わりは自由にしていいよ」

 そう応えた私の真向かいに腰を下ろしたヒデさんが、ベーコンもどきを見て嬉しそうに語る。

「へぇ……。言われて見ればベーコンぽいな。美味しそう。朝はこれくらいの量がちょうど良いんだよね」

 ホント、私もそう思う。
 亜空間並みの胃袋を持つメイスとブロンにはわからないだろうけど、朝からガッツリと肉を食べようなんて人間はあまりいない。
 私はテーブルに料理を並べながら頷き返す。

「朝はやっぱりあっさりとした食事が良いよね。毎朝肉料理ばかりだと胃もたれしちゃうもん」

 そこへメイスが会話に加わってきた。

『そうか?俺は毎食肉でも構わんが』

 メイスは本当に肉が好きなのね。
 呆れ顔をしていると、ブロンの弾んだ声が聞こえた。

『ぼくもお肉大すき!でも、おねえちゃんがつくってくれるものなら何でもすき!』

 なんて嬉しいことを言ってくれるのだろう。
 例えお世辞だったとしても、そんなことを言われたら俄然やる気が出てくるってもの。
 私はブロンを抱きしめて、もふもふの頭や背中を思いっきり撫でまくる。

「ブロン!なんていい子なの!これからもたっくさん作るから楽しみにしててね」

『あはは!おねえちゃん、くすぐったいよぉ』

 そう言いながらも、ブロンは尻尾をパタパタと振って大人しく撫でられている。
 そこへメイスがポツリと呟く。

『……俺もお前が作るものなら何でも美味いと思っているぞ』

 う~ん、このツンデレさんめ。
 私はメイスの頭を軽く撫でて言葉を返した。

「ふふ。ありがとう。じゃあ、そろそろ朝ご飯にしよう。皆、お腹空いたでしょ?」

 私の言葉にいち早く反応したのはブロンだった。

『ごはん!ごはん!』

 器用に椅子を引いて飛び乗ったブロンは、目の前の食事を凝視したままお座りの姿勢をして待つ。
 うん、待てが出来るようになったのは素直に嬉しい。
 でも、涎が滝のように出ているので私は急いで席に着き手を合わせた。

「いただきます」

 その声にブロンの元気な声が室内に響き渡る。

『いただきま―す!』

 いつもと変わらない朝の光景に、私は柔らかく目を細めた。


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