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第三章
第178話 ヒデさんの決意
しおりを挟む荷解きが済んだのは、六時を知らせる鐘の音が聞こえて暫く経った頃だった。
「ふぅ~。ようやく終わったぁ……」
痛む腰を軽く叩きながら背筋を伸ばして呟いた私に、ヒデさんが申し訳なさそうに口を開く。
「こんな時間まで手伝ってもらってすみません。僕自身、魔道具関連のものがこんなにあるとは思ってもみなかったよ。自分でも驚いているよ」
私は自分の腰を魔法で癒しながらヒデさんに言葉を返す。
「謝らないでよ。手伝いたくて手伝ったわけだし、私は結構楽しかったよ。それに、魔道具を造るのにこれだけの道具が必要だなんて知らなかったわ。おかげで良い勉強になった」
実は、作業工程を今まで見たことがなかった私は、魔道具を造るのに色んな道具が必要だとはこれっぽっちも考えていなかった。
だから今回、荷運びを手伝った時に魔道具造りが大変だろうことをようやく理解したのだ。
だって、ラノベでは魔法やスキルでパパッと造っていたし、簡単なのかと思っていたんだもん。
自分がどれだけ魔道具造りを軽視していたのか反省した。
私の言葉に、ヒデさんははにかんだ様子でポツリポツリと語り出した。
「……僕、魔道具ってもっと簡単に造れるものだと思っていたんだよね。でも、実際は魔石を加工しなきゃいけないし他の鉱石や魔物の素材を組み合わせたり……調合が難しいし何もかもが手探り状態で投げ出したくなることもあった。だけど、苦労して出来上がった魔道具を見たら嬉しくて疲れが吹き飛んじゃったんだよね。僕、造るのが楽しいって、そう思えたんだ」
そう言って顔を上げたヒデさんの表情は、どこか誇らしげに見えた。
彼は冒険をするより、もの造りの方が性に合っているのだろう。
それなら、彼には魔道具造りに専念出来る環境を整えておいた方が、この街の発展にも繋がるのではないだろうか。
当然、そこには私の思惑も含まれている。
「そう。だったら尚更、その魔道具を皆に使ってもらえるように広めなきゃね。ヒデさんが魔道具造りに専念出来るように私も陰ながら応援するから」
「ありがとう。ユーリさんにはお世話になりっぱなしで本当に申し訳ないと思ってる。頑張って便利な魔道具を造るからよろしくお願いします」
素直にお礼の言葉を述べるヒデさんには悪いが、ヒデさんにはもっと便利な魔道具を造ってもらいたいと考えている。
前世と同じようにとはいかなくても、あの便利で快適な生活を知っている私としては、もっともっと便利になるのならいくらでも手助けしたいと少し前から考えていた。
だから、お礼を言われるのは心苦しいと思っていた。
きっと、今まで以上に忙しくなるだろう。
それは私だけでなくヒデさんもよくわかっているはずだ。
私は最後に確認した。
「……これからは今まで以上に忙しくなると思う。それでもいいの?」
私の問いかけにヒデさんは間髪入れずに答えた。
「うん。いずれ人を雇って技術を教えればいいだけだし、そこから技術が広がって皆の暮らしが豊かになるのなら多少忙しくても我慢出来るよ」
ヒデさんはヒデさんなりに考えていたようだ。
技術を独占してしまえばお金は儲かるけど、その分技術の発展は見込めない。
しかし、技術を教えて広めれば、その分だけ技術は広がり発展する見込みがあるということだ。
その言葉に感心していると、ヒデさんが笑顔で話を続けた。
「それにね、僕は魔法がある世界だからこそ、もっと色んな魔道具が身近で便利なものであってほしいんだ。魔法を使えるといってもピンキリだし、庶民は生活魔法が使えれば御の字でしょ?それって不公平じゃない?庶民の生活が豊かになってこそ真の豊かな暮らしだと僕は思うんだ。だから、僕の知りうる知識を、魔道具を通して広めていきたいと考えている」
笑顔で話していたヒデさんの表情は、いつしか真剣なものへと変わっていた。
そこには、ヒデさんの強い決意が込められているようで、私はただ黙って話を聞くことしか出来なかった。
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