転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

文字の大きさ
6 / 180
第一章 

第6話 頼もしい黒猫

しおりを挟む

『で?ユ―リは何をしていたのだ?』

 メイスに問いかけられて、私は正直に話した。

「体力作りと食料の確保だよ。ほら、見てよ。この筋張った腕。これじゃあ、家を出てもすぐに死んでしまうわ。だから、何か食べ物がないか探しに来たの」

 私は袖を捲って説明をしながら、細い腕をメイスに見せた。
 メイスは全身を眺めた後、口を開いた。

『……確かに細いな。吹けば飛びそうなくらい全体的に細い。……お前の親は何をしている?もしかして、親はいないのか?』

「……居るよ。でも、その人には生まれてから一度も会ったことがないから、実質的な親は亡くなったお母様だけだよ」

 意地でも父と呼びたくなかった私は「その人」と表現して言葉を濁した。
 たったそれだけの会話から何かを察したメイスは、金色の耳飾りを揺らして首を傾けた後、話し始めた。

『……ふむ。食料なら俺に任せろ。お前は先ず、食って太れ。なぁに、この俺がついているのだから大船に乗ったつもりで構えていれば良い。体力ならその内つくだろう』

 ふふんと鼻を鳴らして胸を張るメイスが、ドヤ顔をしたように見えた。
 異世界の猫はこんなにも表情が豊かなのだろうか?
 私には比較する相手がお母様しか居なかったこともあり、自然とそれが普通なのだと受け入れた。
 
 いや、そんなことよりも食料問題が呆気なく解決したのが信じられなくて、自分の耳を疑ってしまった。
 信じられないと言うように目を何度も瞬かせていたら、悪戯っ子のように琥珀色の瞳を細めて話しを続けた。

『この俺に出来ないことはない。だから、お前は体力作りに専念しろ。いいな』

 疑問形ではない命令口調に、自然と口元が緩む。
 言葉では言い表せないが、見えない大きな力に守られている気がしたのだ。
 理由は分からないが、メイスがそう言うのなら信じようと思えた。
 お母様が亡くなって以来に感じる優しさに胸が温かくなる。
 小さくて可愛いメイスは俺様だけど、非常に心強くて頼もしい黒猫だった。

「……うん。ありがとう、メイス」

 偶然メイスに出会えたことに、心の中で神に感謝の祈りを捧げた。
 それから体力作りを兼ねて裏庭を散歩した後、夕食に間に合うように家に戻ることにした。








 家に入る前に家を指差して言った。

「あそこが私の家だよ」

 「私」として目覚める前の記憶より随分とボロい、コホン、古めかしい家を指差すと、ポカンと口を開けて見上げたメイスがボソッと呟いた。

『……家?あのボロ小屋が?』

 さすが、俺様メイスだ。
 歯に衣着せぬ正直な感想を漏らしたメイスに、私は苦笑を浮かべて頷いた。

「ふふ。そう、あのボロ小屋が私の家だよ。朝、昼、晩と使用人が食事を運んで来る以外は誰も近寄らないから、比較的気楽なもんだよ。さあ、使用人が来る前に家に入ろう」

 言葉を失くしたのか、メイスは絶句したまま私の後についてボロ小屋、もとい家に入った。
 ギシギシときしむ廊下を歩いている間も、メイスの琥珀色の瞳は信じられないと言いたげに見開かれていた。
 建付けの悪い扉を開けて中に入るように促す。
 そこで私は、お母様が亡くなって以来、ろくに掃除していなかったことを思い出した。
 こんなことになるなら掃除しておけば良かったと後悔したが、あとの祭りである。
 申し訳なさそうに眉尻を下げてメイスに話しかけた。

「ちょっと汚いけど、ここが私の部屋よ。……後で掃除するから今は我慢してね」

 私の声にハッと顔を上げたメイスが、ばつが悪そうな声音で応えた。

『……ああ。ある程度お前の境遇を理解したつもりでいたのだが……想像以上で驚いた』

 あら、さすがの俺様メイスでも言葉を失くすほど酷いってことかしら?
 何だかその様子がおかしくて笑ってしまった。

「ふ、ふふ。メイスが気にならないのなら私は平気よ。だって、生まれた時からここが私の家だったもの。それに、お母様が居たから悲しくも辛くもなかったわ」

 この言葉は噓偽りのない私の気持ち。
 だから、悲しくないと言ったのも、辛くないと言ったのも本当だ。
 メイスの琥珀色の瞳が真偽を確かめようとジッと瞳を見据える。
 それに応えるように、私もメイスを見つめ返した。

『はぁ……。ユ―リがそう言うなら信じよう。俺は家がボロかろうが、部屋が汚かろうが別にどうでもいい。お前が健康になる手助けをするだけだ』

 ボロいとか汚いとか言われたけど、それでもメイスは私の傍に居てくれるようだ。
 その気持ちが嬉しくて満面の笑みを浮かべた。

「ありがとう!早く健康になってここから出て行けるように頑張る!」

 私の決意を聞いたメイスは、満足そうに頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

処理中です...