転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第5話 ……はじめまして?

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 帰る素振りを見せない黒猫に、私は困り顔をしながら見つめていた。
 綺麗に手入れされた毛並みに金色の耳飾りをつけていることから、野良猫ではないのは容易に想像がつく。
 私が飼い主の下に連れて行っても良いのだが、体力が無さすぎることと夕食までに飼い主を見つけ出せるのか自信がなかった。
 いくら考えても今の私では無理な気がして答えを出せずにいた。
 座り込んだまま目を閉じて腕を組んで悩んでいると、柔らかい物が膝を叩いていることに気がついた。
 視線を向けると、お座りした黒猫が前足で膝をぽふぽふと叩いていた。
 お腹が空いたのかな?
 そう思って黒猫に問いかけた。

「お腹が空いたの?……ごめんね。食べられそうな物、持ってないの……」

 元々、体力作りを兼ねて食料を確保するために外に出たのだ。
 何も持っていないのは当たり前のことなのだが。
 それでも、お腹を空かせた猫が居るというのに何もしてあげられないことを申し訳なく思った。

「にゃう~」

 そんな私に構うことなく―鳴ひとなきした黒猫が膝の上に飛び乗って来ると、額に柔らかい肉球を押しつけてきた。
 額に当てられた肉球から、温かい何かが流れ込んできて目を瞠った。
 何が起きたのか分からずに目を白黒させていると、脳内に腰に響くような重低音の男性の声が聞こえた。

『おい、小娘。俺の声が聞こえるか?聞こえたなら返事しろ』

 近くに大人の男性が居るのかと辺りをキョロキョロと見渡すが、目の前の黒猫以外に人の気配はなかった。
 頭上にいくつもの疑問符を浮かべていると、再び脳内に男性が話しかけてきた。

『ここだ、ここ。目の前に居るだろう。お前の目は節穴なのか?』

 呆れたような声に馬鹿にされた気がして、思わずムッと口を尖らせた。

「……節穴って。ちょっと失礼じゃない?隠れてないで出て来なさいよ!」

 周囲を見渡しながら声を荒げると、またぽふぽふと膝を叩かれて視線を落とした。

『隠れてなどいない。今、お前に話しかけているのはこの俺だ』

 琥珀色の瞳を真っ直ぐに向けられて、私はようやく声の主に気がついた。

「ええええっ!?」

 思った以上に大きくなった叫び声に、目の前の黒猫の瞳が愉快そうに細められた……ように見えた。

『はははっ!お前、面白いな。これは念話だ。声に出さずとも話したい相手を思い浮かべれば会話は出来る。慣れれば問題ない』

 ……念話?
 動物と意思疎通出来るのはありがたいけど、本当に会話を交わせるの?
 私は好奇心が抑えられずにすぐに実行に移した。

『えっと……はじめまして?』

 何を話そうかと考えた結果、思いついた言葉がコレである。
 自分の語彙力の無さに苦笑を漏らした。

『ぶはっ!なぜ疑問形なんだ。今更挨拶とか、お前本当に面白いな』

 その言葉と合わせて黒猫の体がプルプルと震えている。
 間違いない。
 声の主は目の前の黒猫だ。

 ……それにしても、随分と俺様な黒猫だな。
 見た目はもの凄く可愛いのに、とても残念だ。
 そんな気持ちが顔に出ていたのか、黒猫が言った。

『……お前、失礼なこと考えていないか?』

 ジトッとした琥珀色の瞳を向けられて、私は咄嗟に頭を左右に振って答えた。

「か、考えてない!可愛いのになぁ、と思っただけだよ!」

『……考えているじゃないか』

 黒猫に指摘されて口を閉じる。
 これ以上口を開けば、ますます墓穴を掘ると思ったから。
 黒猫は、はぁ……とため息を零した後、自己紹介をし始めた。

『まあ、その件はこの際どうでもいい。先ず、俺に飼い主はいない。お前が気にいったから着いて行く。これは決定だ。俺の名前は……そうだな、メイスと呼んでくれ。で、お前は何て言うんだ?』

 え!?
 決定なの!?
 有無を言わせない圧を感じて、私も名乗ることにした。

「……ユリ―シュカだよ。でも、ユ―リって呼んで」

 お母様がつけてくれたこの名前は気に入っている。
 だけど、平民になる予定の私が「ユリ―シュカ」と名乗っても良いのかと思っていた。
 だから、「ユ―リ」と呼んでくれるよう言った。

『ふむ。ユ―リか。これからはこの俺が居るから安心しろ。よろしくな、ユ―リ』

 そんな私の思いを余所に、メイスは特に気にした様子もなく「ユ―リ」と呼んでくれた。
 見た目は可愛い黒猫だが、その心強い言葉になぜか安心感を覚えたのだった。
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