転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第12話 十歳の誕生日

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 あれからハ―ドな日々を過ごすこと一ヶ月半。
 いつものように裏庭へ向かっていたら、肩でくつろいでいたメイスが口を開いた。

『ユ―リ。今日は少し遠出をしよう』

 私自身、少しでもキツい鍛錬から逃れられるならと思い、即答した。

「うん!」

 そんな私の心情を知らないメイスは、肩から飛び降りるとこちらを振り返って言った。

『ついて来い』

 メイスに言われるまま後をついて行く。
 普段足を運ばない場所に向かうのはとても新鮮で好奇心がくすぐられた。
 歩みを進めていくうちに、見晴らしの良い草原からぽつぽつと背の高い木が増えていく。
 木の間を縫うように進むと、視界が一気に開けてその光景に目を奪われた。
 少し小高くなったこの場所から視界に飛び込んできたのは、陽射しに反射してキラキラと輝きを放つ湖だった。

「わぁ……。湖面がキラキラして綺麗……」

 「私」がこの世界で目覚めて二ヶ月半が経ったが、毎日が鍛錬で息を吐く暇さえなかった。
 そのおかげで魔法とスキルの技術は上がったから、メイスには感謝している。
 ……結構ハ―ドな指導でキツかったけど。
 束の間の休息とは言え、こうして遠出に誘ってもらえたのは嬉しい。
 ここにきて初めてゆっくりと大自然と触れ合えて、無意識のうちに笑みを浮かべていた。
 立ち止まって湖に目を奪われていたら、メイスに声をかけられた。

『こっちだ』

 声がした方を向くと、湖に向かって丘を降りていくメイスの後ろ姿があった。
 私は置いて行かれないように慌てて後に続いた。







 湖の畔に到着すると、メイスが振り返って告げた。

『今日の鍛錬は休みだ。ちょっと待っていろ』

 そう告げられたかと思うと、何もなかった場所にテ―ブルと椅子が瞬時に現れた。
 二人用の白くて丸い小洒落たテ―ブルの上には三段のケ―キスタンドが置かれ、そこにはスコ―ンやタルトなど今世ではお目にかかれなかったスイ―ツが所狭しと並べられていた。
 テ―ブルの上のスイ―ツに引き寄せられるように、これまた白くて可愛らしいデザインの椅子に腰を下ろす。
 席に着いたのを確認したメイスが穏やかな口調で言った。

『ユ―リ、十歳の誕生日おめでとう』

「はぇ?」

 意味が分からずに首を捻っていると、呆れたようにため息を吐いてテ―ブルに飛び乗って言った。

『お前、自分の誕生日を覚えていないのか?』

 ……誕生日?
 そう言えば、お母様が亡くなるまでは毎年この時期に祝って貰ったような気がする。
 私は慌てて、最近覚えた鑑定のスキルで自分を鑑定した。

「っ!?」

 ついこの前まで九歳と表示されていたのに、今は十歳に変わっている。

「ほ、本当だ!十歳になってる!」

 驚きのあまり立ち上がったが、その勢いで椅子を倒してしまった。
 私は椅子が倒れたことに気がつかないまま、年齢の欄に表示された数字を凝視していた。
 「私」として目覚めメイスと出会ってからというもの、魔法にスキルと鍛錬に明け暮れていた。
 たった二ヶ月半なのに、あっという間の時間の流れに不意に笑みが零れる。

 不遇の転生だと絶望したのはほんの一瞬のことで、気がつけば頼もしいメイスが傍に居てくれた。
 メイスのおかげで忙しい毎日を過ごせて、辛いと思う暇もなかった。
 ……まぁ、違う意味で辛かったけど。
 だからメイスに言われるまで、誕生日を迎えたことに今の今まですっかり忘れていた。

「ふふ。ありがとう、メイス」

 メイスは照れくさいのか、ふんと鼻を鳴らして話し始めた。

『ふん、礼を言われるほどのことではない。人間の子供は十歳になると洗礼を受けると聞いていたが、お前は受けないのだろう?それなら今日はここでゆっくりとしよう』

 十歳になると洗礼を受けるのかぁ……。
 でも、私はあの人父親に疎まれているから今日が十歳の誕生日なんて覚えてもいないだろう。
 こちらとしても、このまま忘れたままでいてくれると助かる。
 それはそれとしてメイスの申し出はありがたいが、部屋を留守にしたままだとあの使用人が騒ぎ立てて大事おおごとにしそうで心配だ。
 返答に困っていると、心を読んだようにメイスの琥珀色の瞳が悪戯っ子のように輝いた。

『幻影魔法で誤魔化せるから、あの使用人のことなら心配しなくても良い。今日一日くらい羽目を外しても問題ないさ。改めて十歳の誕生日おめでとう』

 さすがメイス!
 普段は鬼教官だけど、時おり見せる優しさは有り得ないほどに甘い。
 ツンとデレの使い分けが絶妙で、チョロい私はすぐにメイスの手のひらで転がされてしまう。
 分かってはいても、その絶妙さが心地良い。

 テ―ブルに置かれた湯気を立てるティ―カップに手を伸ばすと、味わうようにゆっくりと喉に流し込んだ。
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