転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

文字の大きさ
13 / 180
第一章 

第13話 今後のこと

 日射しに反射してキラキラと輝く湖面を眺めながらティ―カップに口をつける。
 大自然に囲まれた場所で摂るスイ―ツは実に贅沢だ。
 まるで、この世界にはメイスと私しか居ないような錯覚を覚え、景色を独占した気になって自然と頬が緩む。
 頬にあたる風が心地良くて瞼を閉じる。
 こんな穏やかな気持ちで過ごすのはいつ以来だろう。
 目を閉じて風を感じていたら、メイスが質問を投げかけてきた。

『ところで、お前は今後どうしたい?』

 唐突に投げられた質問の意味が分からずに目を開けた。

「……ん?どうって?」

 ティ―カップを置いてジッと綺麗な琥珀色の瞳を見つめると、メイスも同じように見つめ返して言った。

『このままここで暮らすのか、それともここを出て行くのかってことだ』

 それなら答えは決まっている。

「もちろん、ここを出て行くつもりだよ。……だけど、外の世界を知らないから迷っているの」

 お母様から一通り教わったとは言っても、口頭で説明されただけで実務経験は無いに等しい。
 それに、私のような子供がいきなり外の世界に出て生きていけるとは思えないし、安全な日本とは違い何が起きるのか想像もつかなかった。
 そういった不安もあって決断しきれずにいた。
 中身が純粋な子供ではないため、どうしても一歩踏み出す勇気が出せずに考えることを放棄していた。
 そんな私の葛藤を知ってか知らずか、少しの沈黙の後メイスが口を開いた。

『なんだ、そんなことか。そんなもの外に出てから覚えれば良いだろう。それに、この俺がついているのだ。お前は一人じゃない。心配はいらん』

 メイスの言葉に私の中でくすぶっていたもやもやとした気持ちが一気に霧散した。
 そうか、私には頼もしいメイスが傍に居る。
 部屋に閉じ籠って悶々と悩むより、先ず一歩足を踏み出してみよう。
 メイスの一言で前向きになれた私は、笑顔で答えた。

「うん!メイスの言う通りだね!悩むだけで行動しないよりも、行動して悩んだ方がマシだわ!人間は失敗をして成長していくのだから!」

 メイスに返事をしたというよりは、自分自身に向けた言葉だった。
 返答するかのように尻尾をゆらりと振って琥珀色の瞳を柔らかく細めたメイスは、満足そうに頷いて言った。

『俺のしごきに耐えてついて来たお前なら外界に出ても問題ない。基本的なものは大体教えたし、ある程度の事ならお前一人でも対処出来るだけの実力はある。あとは実践を積むだけだ』

 なるほど、メイスはメイスなりに考えてくれていたのか。
 口には出さなかったけど、鬼教官だなんて言って悪かったわ。
 申し訳ないと反省しつつ、ケ―キスタンドからショ―トブレッドを手に取る。
 口に含んだ瞬間、サクッとした食感とともにバタ―の濃厚な味が口腔内に広がり目尻が下がる。

「ぅんまぁ!こんな濃厚なバタ―風味のショ―トブレッド、生まれて初めて食べた!ほぅ……。幸せ」

 頬に手をあててうっとりと目を細めた。
 前世以来に食べたショ―トブレッドは久しぶりということもあり、非常に美味しく感じた。
 テ―ブルの上でごろんと横になったメイスが、ふふんと鼻を鳴らして言った。

『そうだろう。ふんだんに砂糖とバタ―を使用しているからな。遠慮せずにしょくせ』

 ん?
 もしかして、メイスが作ったの?
 色々と疑問符が頭上を飛び交うが、一々気にしていたら味わって食べていられない。
 今日は私の十歳の誕生日だから、存分に食べていいってこと?
 それなら遠慮なくいただこう。
 いつもとは違う甘々な態度のメイスに戸惑いながらも、ケ―キスタンドに伸びる手が止まらない。
 食べ方に作法があったような気がするが、平民になる予定だから作法を無視して食べたいものを次々と胃袋に収めていった。

「ふぅ……。満腹。これ以上は無理」

 ぽっこりと膨らんだお腹をさすって背もたれに体を預ける。
 ふと、雲一つない青空を見上げた。
 前世でも経験したことがない開放感のある大自然を前にして、私の悩みが取るに足らないちっぽけな事だと気づかされた。

 きちんと家族の一員として受け入れてもらえていたなら、きっと「私」が目覚めることはなかっただろう。
 漠然とだが、それだけは理解した。
 それなら、目覚めた「私」が生きたいように生きれば良いのではないかと思ってしまった。
 メイスに今後のことを問いかけられた時、ようやく私の気持ちが固まったように思う。

(お母様もそう願ってくれたのよね?……自由に生きていいよね?)

 雲一つない青空を見上げたまま、お母様に問いかけた。
 その問いかけに答えるように、風が頬を撫でるように吹いた。

あなたにおすすめの小説

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

この状況には、訳がある

兎田りん
ファンタジー
 どうしてこんなことになったのか…    ファルムファス・メロディアスは頭を抱えていた。  居なくてもいい場所に、しなくてもいい装いをしている事の居心地の悪さといったら!  俺の関係ない所でやってくれ!  ファルムファスの握りしめた拳の行方はどこに ○更新状況○ 2023/2/15投稿開始 毎週水曜20時頃次回投稿の予定

祓い屋の俺は異世界で魔法剣士となって金髪碧眼美少女と旅をしながら無双する

ぽとりひょん
ファンタジー
祓い屋の仕事中、異世界に迷い込んでしまった熊野つなは、金髪碧眼美少女の清音と出会う。異世界は彼女を忌み人として差別している。つなはそんな世界に反発するが、旅をしていくうちにいろいろな人に出会い2人の景色は変わってゆく。そして2人は成り上がっていく。

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。