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第一章
第31話 ギルドマスター
しおりを挟む待つこと数分。
扉の向こうから、複数の足音が聞こえた。
一人は受付の女性だろう。
コツコツと軽やかな足音が近づいて来る。
もう一人は、歩く度に板張りの廊下が軋むくらい重量を感じさせる歩き方をしている。
足音がこの個室の前で止まると、控えめに扉が叩かれて女性が室内に入ってきた。
「失礼します。お待たせして申し訳ございません。こちらはギルドマスターのバートンです」
扉を開けて室内に入って来るなり、女性が隣の大柄な男性を手で指し示して言った。
私はメイスを抱えて立ち上がると、緊張しながら挨拶をした。
「ユ、ユーリです。初めまして」
ペコッと頭を下げた私を見て、ギルドマスターと紹介された男性がソファに腰を下して応えた。
「バートンだ。堅苦しい挨拶は要らねぇ。まあ、座ってくれや」
バートンさんに促されるままソファに腰を下ろす。
胸元の開いたシャツの間から見事な胸筋が覗いている。
ボタンが今にも弾けそうで、つい気になって目が釘付けになる。
そんな私の視線を知ってか知らずかバートンさんは話しを続けた。
「坊主は珍しい草を持っているそうだな。見せてもらえるか?」
その言葉を受けて、傍らに立つ女性がテーブルに布を広げた。
斜め掛けのバッグから取り出した『ホーリー草』をその布の上に置くと、片眼鏡を手にしたバートンさんがじっくりと眺め始めた。
隅から隅まで眺めていたバートンさんは『ホーリー草』を布の上に置いた後、鋭い眼差しを向けて質問を投げかけた。
「この草は間違いなく『ホーリー草』だ。こんな希少な草をどこで見つけた?」
あまりにも鋭い眼差しを向けられて緊張が全身に走ったが、ここは正直に話した方が良いだろうと判断して口を開いた。
「……街道沿いに生えていました」
質問に正直に答えたのだが、その答えを聞いたバートンさんの口から間の抜けた声が漏れた。
「……は?」
厳つい顔をしていても、ポカンと口を開けた今のバートンさんは何だか可愛らしい。
ちゃんと聞こえていなかったのかなと思った私は、今度ははっきりと詳しく説明をした。
「ロージスの街を出て二日目に、偶然街道沿いに生えていた『ホーリー草』を見つけました」
ようやく私の言葉を理解したバートンさんは、それでも信じられないというような素振りを見せながら独り言のように呟いた。
「『ホーリー草』が街道沿いに生えていたなんて信じられない。あんな希少な草が誰の目にも留まらなかったことも不思議だ。……だが、鑑定の結果『ホーリー草』だと証明されている」
納得がいかないのかバートンさんはしばらくぶつぶつと呟いていたが、そのうちハッと顔を上げて私を見て言った。
「ああ、すまねぇな坊主。『ホーリー草』ってぇのは滅多にお目にかかれない希少な草なんだ。その希少な草を街道沿いで見つけたのが到底信じられなくてな。だが、坊主の目を見ても噓をついているようには見えねぇ。……信じられないが信じるしかないな。疑って悪かった」
ああ、そういうことか。
希少な『ホーリー草』を子供である私が摘んできたことと、生えていた場所が街道沿いだったのが疑われた原因だったのか。
悲しいけど、元の世界でも子供の言う事を信用してくれる大人は多くなかった。
肩を落とした私に、バートンさんは慌てたように話し始めた。
「あ、いや、疑って本当にすまねぇ。偶に偽物を本物だと偽って売りに来る輩が居てな。こっちも信用に関わるから慎重に対応をしなきゃならねぇんだ。そこんとこ理解してもらえると助かるんだが。何も端から坊主が怪しいとは思ってねぇから、そんなに悲しそうな顔をするな。な?」
ソファから腰を浮かせて所在無さげに手を彷徨わせるバートンさんを見ていたら、急に笑いがこみ上げてきた。
「ふふ。はい、もう大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
その返事に安堵の息を漏らしたバートンさんは、安心してソファに体を預けた。
傍らに立ったままの女性は、申し訳なさそうに静かに頭を下げた。
その後、改めて『ホーリー草』五本全てを買い取ってくれることになったのだが、目玉が飛び出そうな報酬を前にした私は、只々言葉を失くして固まってしまった。
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