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第一章
第32話 ホーリー草の価値
しおりを挟む目を限界まで開けて固まっていると、バートンさんが笑いを堪えながら話し始めた。
「んんっ。あのな、『ホーリー草』は熟練の者でも見つけ出すのが難しい草なんだ。それを街道沿いに生えていたからと言って、五本も摘んで来るなんて普通は有り得ねぇことだ。まあ、せいぜい月に一本、多くて二本見つかれば上出来ってところだな」
バートンさんはそう言って一旦話しを止めた後、テーブルに置かれた金色に輝く硬貨が積まれたトレーを私の前に押し出した。
そうして再び話しを続けた。
「『ホーリー草』は万病の薬と言われていてな、それ一本で数十人が助かるありがたい草なんだ。常に依頼を出してあるが、なかなか厳しい状況でなぁ。困っていた時にユーリが持ち込んでくれて助かった。感謝する。そういう訳だから、遠慮なく報酬を受け取ってくれ」
メイスから希少な草だと聞かされていたが、そんなに希少だとは思ってもみなかった。
目の前に積まれた金貨が『ホーリー草』たった五本分の報酬とは恐ろしい。
それだけ『ホーリー草』の価値が高いのだろう。
想像以上の高額な報酬に、全身が震えた。
尚も言葉を失くして金貨を凝視する私に、バートンさんが提案してくれた。
「なぁ、ユーリ。これだけの大金を持ち歩くのは不安だろ?冒険者カードには受け取った報酬を預かる機能がついている。もちろん、報酬じゃなくても預け入れは出来るし、ギルドと提携している店なら提示するだけで買い物も出来る。カードに血を一滴垂らしてあるから本人以外には扱えないし安全だ。そんな青い顔をするくらいならカードに預けたらどうだ?」
そう説明して苦笑を漏らしたバートンさんを見て、私は自分の顔色が青ざめていたのだと気がついた。
私は無意識のうちに勢いよく頭を縦に振っていた。
「は、はい!ぜひ、お願いします!」
ロージスの街の冒険者ギルドでも受付の女性が説明してくれたのに、目の前の報酬に驚き過ぎてすっかり忘れていた。
バートンさんは傍らの女性に指示を出すと、私に視線を向けて口を開いた。
「それじゃあ、カードに報酬を預けるからもう少し待ってくれ。……それと、ユーリ。お前、ブラッディホーンボアを討伐したと言ったそうだが、それは本当か?」
そう言えば、あの時受付の女性に伝えたけど、あの後個室に案内されて報告するのを忘れていた。
「はい。あと、他の魔物も討伐しました。……すみません。すっかり忘れていました」
「いや、それは『ホーリー草』の件で急かした俺達も悪い。いくら希少な草だと言っても、こちらの都合を押しつけてしまった。申し訳なかった」
大きな体を器用に折り曲げて頭を下げられた私は、慌てて立ち上がり声をあげた。
「頭を上げてください!新人で何も知らなかったわた、僕も悪かったのですから!」
思わず私と言いかけて、すぐに僕と言い直す。
半ば叫ぶような声を聞いたバートンさんが、頭を上げて呆気に取られた表情で見上げた。
「……新人?いつ登録した?」
私はバートンさんの質問の意味が分からないまま正直に答えた。
「え?えっと、今日で三日目ですけど?」
「……三日目」
呆けたままのバートンさんはボソッと小さく呟くと、腕を組んで唸り始めた。
そして、ようやく顔を上げたバートンさんは徐に立ち上がると口を開いた。
「とりあえず、裏の解体場に向かうぞ。話しはそれからだ」
困惑する私の腕をバートンさんが掴むのと同時に、メイスがヒョイと肩に飛び乗って来た。
腕を掴まれた私は、状況が読めずにバートンさんを見上げた。
私と視線が合ったバートンさんは、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべると話しかけてきた。
「いいからついて来い。ユーリが討伐した魔物を見せてくれ。ほら、行くぞ」
グイグイと引っ張られてソファから立ち上がる。
抵抗するつもりはないが、ごつごつとした大きな手は思いのほか痛くはなかった。
バートンさんに腕を掴まれたまま個室を出た私達は、途中すれ違った女性と二言三言会話を交わした後、引きずられるようにして解体場へと向かった。
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