転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第33話 ランクが上がってしまった

 バートンさんに腕を掴まれたまま解体場へ到着すると、椅子に腰かけて休憩していた男性が私達に気がついて立ち上がる。
 彼もなかなか立派な体格をしており、さっきまで腰を下していた椅子が、その重みから解放されるのと同時に軋む音がした。
 厳つい顔のバートンさんとは違い、彼は人の良さそうな顔で大股で歩いて近寄ると、白い歯を見せて嬉しそうに言った。

「おお、バートンじゃねぇか!こんな所に顔を出すなんて珍しいな」

「デリック、久しいな。実は一つ仕事を頼まれて欲しいんだが、今、大丈夫か?」

 だいぶ頭が寂しくなったデリックさんと会話をし始めたバートンさん。
 大柄な二人が並ぶと、それだけで圧を感じてしまう。
 私は、バートンさんの陰に隠れて二人の様子を窺った。
 二人が会話をしている間、解体場を興味深げに眺める。
 まだ午前中ということもあってか大きなテーブルの上は綺麗に片付いており、作業員の姿も少ない。
 長年この場所で解体をしていれば、血がこびり付いたり生臭かったりしてもおかしくないはずなのに、どういうわけか全くそんな気配はなかった。
 意外にも清潔に保たれていたことに驚きを覚えてしまう。
 不意に、頭上からバートンさんの低い声が降りかかって顔を上げる。

「ユーリ、さっそくで悪いが魔物を出してもらえるか」

 そう口にするなり、バートンさんに腕を引かれて大きなテーブルの前に連れて行かれた。
 このテーブルに魔物を出せば良いのね。
 頷いた私は、バートンさんに言われるまま斜め掛けのバッグから魔物を取り出してテーブルに置いていく。
 だが、思っていたよりブラッディホーンボアが大き過ぎて、他の魔物の置き場所が無い。
 困り果てた私は、床に並べて置くことにした。
 それを見たバートンさんが、大きく目を見開いて覗き込んできた。

「お、おいおいおい……。これだけの魔物を冒険者になって僅か三日の坊主が仕留めたってぇのか?とてもじゃねぇが信じられん……」

 茫然としながらバートンさんの呟きを耳にしたデリックさんが、大きな声で間の抜けた声をあげた。

「はぁ!?冒険者になってまだ三日だって!?マジかよ!」

 茫然とする二人を前に、私は何か間違ってしまったかと不安になり無言で見守っていた。
 ようやく我に返ったバートンさんが口を開いた。

「ユーリ、ランクを上げるぞ。お前は今日から銅級冒険者だ」

 バートンさんから言い放たれた言葉に、今度は私の方が驚愕に目を見開いてしまう。

「えぇっ!?」

 冒険者登録をしてまだ三日目だというのに、もうランクを上げるの!?
 私、十歳の子供なんですけどっ!
 ついでに言わせてもらえれば、この世界の常識すら碌に知らない中身は平和ボケした異世界人なんですが!?
 たった三日で鉄級から銅級にランクを上げられた私の気持ちは吹き荒れていた。
 私の気持ちが表情に出ていたのだろう。
 バートンさんは大きな体を屈めて目線を合わせると、申し訳なさそうに眉尻を下げて語り始めた。

「あ―。その、だな。俺としても経験不足のお前のランクを上げるのは悩んだ。だがな、実力があると分かっている者を低いランクのままにしておくのは勿体ないと思ってな。……本当なら銀級でも問題ないと思ったんだが……。ランクを一つ上げるだけに留めておいた」

 ふぇ!?
 銀級!?
 考えることを放棄してしまった私の脳は、そこで思考を止めてしまう。
 私と視線を合わせて、申し訳なさそうにしながら頬をぽりぽりと掻いていた手を止めたバートンさんが徐に立ち上がった。

「デリック。これらの魔物の解体はいつまでに終わりそうだ?」

 唐突に声をかけられたデリックさんだったが、さっきまでの呆けた顔から急に職人の顔になってテーブルに置かれた魔物に視線を向けた。

「……そうだな。急いでも昼過ぎになる。なんせ、こんな大きなブラッディホーンボアは久しぶりだからなぁ」

 デリックさんは瞳を輝かせて楽しげに言った。
 どうやら職人魂に火がついたようだ。

 そんなデリックさんを残して、私達は一旦個室へと戻ることにした。

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