転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第34話 模擬戦の提案

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「ほらよ。これが新しいカードだ。失くすんじゃねぇぞ」

 そう言ってバートンさんから渡されたのは、赤銅しゃくどう色の真新しい冒険者カードだった。
 カードを手に取り、じっくりと眺める。
 ランクが上がりカードを更新する度に血を一滴垂らさないといけないのは苦痛だが、ランクが上がれば報酬も上がるため文句なんて言っていられない。
 ちなみに、預け入れた報酬を確認したい場合は、カード裏の硬貨が描かれた絵を触れば残高を確認出来るらしい。
 態々ATMエーティーエムに行って記帳する手間が省けるのはありがたい。
 今時はスマホで確認出来るようだが、アナログだった私は結局使わずじまいだった。
 過ぎた話しは頭の隅に追いやり、ピカピカの真新しいカードを斜め掛けのバッグにさっさと仕舞い、向かいに座るバートンさんに視線を向けた。
 カードを仕舞ったのを見届けたバートンさんが、質問を投げかけてきた。

「昼まで時間が出来たが、それまでどうするつもりだ?」

 あ、そうだった。
 魔物の解体にかかる時間を考慮していなかったから、すぐにでも街を発つつもりでいたんだっけ。
 それまでの時間をどうやって潰したものか。
 腕を組んで考えていると、バートンさんが提案してきた。

「だったら俺と模擬戦をしてみないか?」

 模擬戦?
 バートンさんと?
 いやいやいや、体格差があり過ぎて模擬戦にすらならないでしょ。
 ボコボコにされる私の姿を想像してプルプルと頭を振った。
 すると、膝の上に移動して目を閉じていたメイスが脳内に語りかけてきた。

『面白そうじゃないか。受けろ』

 悪戯を思いついた子供のような楽し気な声に、私も念話でメイスに返す。

『いやいやいや、体格差があり過ぎるって。どう見ても無理だよぉ』

 いくら剣と魔法の腕を磨いたからと言っても、そもそも体格差が圧倒的に違う。
 腕や足の長さが違うだけで、こと近接戦において私の方が不利なことは明白だ。
 それに、人と闘うなんて想像もしていなかったため、模擬戦とは言え心の準備をする必要がある。
 どうにか断れないものかと考えていると、再び脳内にメイスの声が響いた。

『これは模擬戦だ。対人戦は経験がないだろう。今後は人間と戦闘になる機会も増えるだろう。いい機会だ。あの人間から色々と学んでおけ』

 おぅ……。
 これは断れないやつだった。
 でも、メイスの言うことにも一理ある。
 旅を続けるには体力や知識はもちろんのことながら、人、例えば盗賊を討伐しなければいけないことだってある。
 低ランクであれば薬草採取や簡単な清掃活動が主で、魔物や盗賊に関わることはない。
 現に私も、ついさっきまでは低ランクだったから気楽に構えていた。
 たった三日で銅級に上がるなんて誰が想像していただろう。
 私は覚悟を決めて頷いた。

「……はい。模擬戦をお願いします。対人戦は初めてなので、お手柔らかにお願いします」

 返答を聞いたバートンさんの笑みが深くなる。

「ああ、ちゃんと手加減はしてやる。対人間との闘い方ってぇのをみっちりと叩き込んでやるから、しっかりと覚えろよ」

 片方の口の端を上げて笑みを浮かべるバートンさんの顔は、どこからどう見ても悪人のような顔をしていた。
 ……本当に手加減してくれるのだろうか。
 急に不安が押し寄せてきた。
 無意識のうちにメイスの背中を撫でて気持ちを落ち着かせる。
 温かみのあるもふもふの毛並みを撫でていたら、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。
 ふっ、と小さく息を吐き出した私を見て、バートンさんが声をかけてきた。

「そろそろいいか?今なら鍛練場が空いているから、とっとと模擬戦をしよう」

 そう告げて立ち上がるバートンさんの表情は、心なしか楽し気に見えた。
 お尻に根っこが生えて立ち上がれない、もとい立ち上がりたくない私は、再びバートンさんに腕を掴まれて鍛練場へ向かうため個室を後にした。

 一方、膝の上から移動して肩に飛び乗ったメイスは、私の気持ちとは裏腹に尻尾を機嫌良く振っていた。
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