転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第35話 模擬戦開始

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 バートンさんに腕を掴まれたまま鍛練場に着いた私は、想像以上に大きな鍛練場を見て目を丸くした。
 広さは野球場と同じか、それより少し広いといった所か。
 地面は柔らかい土を使用しており、これなら地面に叩きつけられても死ぬことはないだろう。
 ……自分が地面に叩きつけられることしか想像していないことに苦笑を零す。
 私の腕を掴んでいた手を離したバートンさんが、鍛練場の中心部に向かって行き振り返ると口を開いた。

「昼まで貸し切りにした。これで心置きなく模擬戦を行える。遠慮はいらん。かかって来い」

 仁王立ちしたバートンさんが、手のひらを上にして煽るように誘う。
 誘いに乗るつもりはないが、剣を持たない丸腰のバートンさんに対して攻撃を加えても良いのだろうか。
 どうしたものかと躊躇ためらっていると、脳内にメイスが話しかけてきた。

『ユーリ、木剣を構えろ。あと、常時スキルを発動させておけ。それで体格差はある程度埋められる。これは模擬戦だ。アイツの胸を借りて戦闘方法を少しでも多く学べ。じゃあ、俺は向こうで見ているぞ』

 そう言うなりメイスは肩から飛び降りて鍛練場の隅へと走って行った。
 横目でメイスが走り去る姿を追って大きく深呼吸をして、仁王立ちするバートンさんを見据えた。
 ここまで来たら後戻りできない。
 斜め掛けのバッグから木剣を取り出して、バッグを邪魔にならない場所に置いて構える。
 スキルを発動させて、しばらく木剣を構えたまま様子を探る。
 隙がないか探ったものの、全く隙がない。
 攻めあぐねていたら、バートンさんが先に動いた。

「っ!!」

 一瞬で間合いを詰められて、突きだされた拳を避けるのが精一杯だった。
 頬を掠った風圧が強くて空気が振動しているのが伝わる。
 身体強化のおかげで、間一髪で避けられたが、速過ぎて反応が少し遅れてしまった。

「ほぉ……。なかなか良い反応だ。だったら、これはどうだ」

 バートンさんがそう口にしたのと同時に、再び間合いを詰めて攻撃を繰り出してきた。
 咄嗟に木剣で攻撃を受け流して対処する。

「……くっ」

 バートンさんから繰り出される攻撃の一撃一撃が重くて、木剣を持つ手がビリビリと痺れる。
 木剣を強化しておいて助かった。
 もし、そうでなければ最初の一撃で粉々に消し飛んでいたかもしれない。

「ほぉほぉ。この攻撃を防ぐのか。お前、本当に冒険者登録をして三日なのか?……これなら銀級でも良かったんじゃねぇか?」

 何か物騒なことを呟いているが、今の私には余裕がない。
 攻撃が緩んだ瞬間、バートンさんから距離をとって息を整える。
 一方のバートンさんは、汗一つ流さずに何事もなかったかのようにこちらを見つめていた。

「はっ、はぁ、はぁ……。バ、バートンさん。模擬戦ですよね?鍛練の一環で模擬戦を行っているんですよね?」

 私は確認のためバートンさんに尋ねたのだが、その問いに対してバートンさんは飄々ひょうひょうとした様子で答えた。

「ん~。まあ、そうだな。いつもは他のヤツが模擬戦を行うんだが、そいつに任せるのはつまんねぇだろぉ?暇だったし?偶には俺が相手をしてみても良いかって思ってな。お前なら俺の期待に応えてくれるんじゃねぇかと。だから、いつもとは違うだろうが、これはあくまでも模擬戦だ」

 なんですとぉ!?
 つまり、いつもは模擬戦を担当する者が別に居て、今回はバートンさんの暇つぶしに私が付き合わされることになったってこと?
 横暴だ!
 横暴!ダメ!絶対!

「……暇つぶしに付き合わされる身にもなってくださいよぉ。手加減してます?」

 呆れた私の質問に対して、バートンさんは悪気が無い様子で笑みを浮かべながら答えた。

「ああ、してるしてる」

 ……本当かなぁ。
 十歳の子供相手にあんな攻撃を繰り出してきたバートンさんの言葉は、今いち信用に欠けた。

「さあ、休憩は終わりだ。続けるぞ」

 そう告げたバートンさんの表情は、これ以上ないくらいに生き生きと輝いていた。
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