転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第36話 伝説の英雄と一緒にしないでほしい

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 さっきからメイスの声が脳内に響いている。

『受け身ばかりではいずれ動けなくなるぞ。攻撃に転じろ』

 鍛錬を再開したが、相変わらず私はバートンさんの攻撃をかわすだけで精一杯だった。
 攻撃しろと言われても魔物ならいざ知らず、対峙する相手が人間ともなれば躊躇ちゅうちょするのは当たり前だ。
 でも、メイスの言う通り受け身のまま反撃をしなければ、いずれこちらの体力が尽きてしまうのは明らかだった。
 加減が分からないまま攻撃をしても良いものか悩んだが、一向に止まない攻撃を受け流しながら段々と苛立ちが募る。
 なぜなら、攻撃を繰り出すバートンさんの表情が嬉々としていたのだ。
 いたいけな十歳の子供を痛めつけて何が楽しいのだろう。
 しかも、冒険者になって僅か三日目のド素人に対して配慮すらないなんて……。
 メイスに尻を叩かれたこともあり半ば苛立ち紛れに木剣を構え直すと、がら空きになったバートンさんの足元を狙って身を屈めて勢いよく足を払った。

「ぅおっ!?」

 不意を突かれたバートンさんが素っ頓狂な声を上げてよろめいた。
 その隙を見逃さずに強化した足でバートンさんの腹を蹴って尻餅をつかせると、喉元に木剣を突きつけた。
 一瞬、何が起きたのか理解不能といった表情のバートンさんだったが、額に手を当てて尻餅をついたまま豪快に笑い声を上げた。

「あっはっはっは!こりゃあ、一本取られちまった。あれだけの攻撃を受けてからの反撃とは大したもんだ。……やっぱり銅級に昇級させたのは失敗だったか?一足飛びに銀級に昇級させるか」

 バートンさんが何やら不穏な単語を口にしたので、食い気味に反論した。

「冒険者になって三日目ですし、銀級なんて無理です!短期間で銅級に昇級しただけでも驚いているのに、いきなり銀級だなんて……責任負えません。わ、僕には経験が圧倒的に足りていないので、お断りします!」

 また私と言いそうになってしまい、慌てて僕と言い直す。
 女性の冒険者も居ないわけではないが、単独で活動している者は少ない。
 しかも、私のような子供ともなれば、尚更性別を隠しておいた方が行動しやすいだろう。
 これは、事前にメイスから聞いた情報なのだが、この世界には魔物や盗賊の他に奴隷商人が存在しているそうだ。
 見た目が良い子供をさらっては、裕福な貴族や商人に奴隷として売っているらしい。
 さすがに貴族の子供をさらったら大問題になるため、狙うのは平民の子供が多いのだとか。
 特に女の子は需要があるらしく、成人を迎えるまでは両親や親戚が注意深く気をつけているそう。
 国によって奴隷商が無い国もあるらしいのだが、生憎あいにくこの国には奴隷商なんてものが存在するらしい。
 そんな訳で、この国を出るまでは性別をいつわるつもりだ。
 それに、余計なことをして目立つのは避けたい。
 私の必死な形相を見たバートンさんは、頭をガシガシと掻きながら立ち上がる。

「……まあ、それもそうか。隣国アルファイド王国には伝説の英雄が居たんだが、そいつはな、登録初日の模擬戦で銀級になったってぇ話しだ。その話しはこの国でも有名な話しでな、お前もそれくらいの実力があると俺は思っている。……本当に断るのか?」

 そんな伝説の英雄と一緒にしないでほしい。
 私は即答した。

「人には出来ることと出来ないことがあります。僕は周りに助けられて今の力を身につけました。だから、銅級で十分です。銅級でもまだ早いと思っているのに、銀級なんて考えられません!」

 周りと言ったが、もちろんメイスのことだ。
 鬼教官だ何だと文句を言っていたが、今となっては懐かしい思い出だ。
 決して誇張ではなく事実を述べたわけだが、私の話しを聞いたバートンさんが何故か感動したように目を潤ませていた。

「ユーリは謙虚なんだな。模擬戦を通してお前の実力は銀級に値すると判断したのだが、ま、経験を積んでからでも遅くはないだろう。しかし、その年でそこまで先のことまで考えられるとは……お前、苦労したんだな」

 苦労したのは確かだけど、その苦労もメイスと共にあったから別に辛くはなかった。
 それにしても、バートンさんは意外と涙もろいな。
 他人の立場で物事を考えて感動したり泣いたりと忙しそうだ。
 ……でも、それがむず痒くて嬉しい。

 その後、すぐに立ち直ったバートンさんに、昼を報せる鐘が鳴るまで鍛練に付き合わされることとなった。
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