転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第50話 懐かしい味噌の味

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 そわそわと落ち着きなく、料理が運ばれて来るのを待つこと数分。
 目の前には、懐かしい匂いを放つブラッディホーンラビットのミソスープ仕立ての煮込みが置かれた。
 私は矢も楯もたまらず、料理を運んできた女性に質問を投げかけていた。

「あのっ!このミソスープってお味噌ですよね?もしかして『グローブフォレスト商会』で買いましたか?」

 私の必死な形相に圧されたのか、女性は頬を引きつらせながらも答えてくれた。

「え、えぇ、そうよ。お客様はミソを知っているの?」

「はい、実は醬油が欲しくて王都に寄りました。ある方が、醬油が欲しいなら『グローブフォレスト商会』へ行けと教えてくれました。まさか、お味噌まであるなんて驚きです!」

 私の話しに耳を傾けていた女性は驚いた表情をした後、感心したように声を弾ませて語ってくれた。

「まあ!ショーユも知っているのね。あの店の調味料はこの国では珍しくてね。このミソスープ仕立ての煮込みは、ある作り方を参考にした料理なの。作り方は教えられないけど、『グローブフォレスト商会』の場所なら教えるわよ」

 こんな偶然があるだろうか。
 偶然入った宿で、簡単に『グローブフォレスト商会』の情報が手に入ってしまった。
 作り方なら知っているし、場所さえ教えてもらえれば十分だ。
 私は満面の笑みを浮かべて感謝の気持ちを伝えた。

「ありがとうございます!助かります!」

「ふふ。場所を教えるくらい何てことはないわ。ここから西門に向かって大通りを歩いて行けば看板が出ているからすぐに目につくはずよ。それでも見つからなかったらまた私に聞いてちょうだい。それじゃあ、ごゆっくり」

 女性はお茶目に片目を瞑ると、他のテーブルへ向かって行った。
 それから、テーブルに置かれた料理に視線を向ける。
 ほかほかと湯気を立てている器に顔を近づけて匂いを嗅いだ。
 懐かしい味噌の匂いに思わず顔が綻ぶ。

「ん~。この香り。食欲が刺激されるぅ~」

 すっかりテンションが上がっていた私の脳内に、メイスが話しかけてきた。

『このミソスープとやらは何やら香ばしい匂いがするな。こんな茶色いスープは初めてだ。お前のその表情から美味いのは想像がつく。早くしょくしてみたい』

 テーブルに飛び降りたメイスは、尻尾を立てて興味深げに器を覗き込んだ。
 私は笑みを零しながら、取り皿に肉を多めによそってメイスの前に置いた。

「熱いから気をつけてね」

 その言葉に短く返事をしたメイスは、湯気を立てている器に顔を突っ込んだ。
 この光景に慣れた私は、特に慌てることもなく笑みを浮かべて見守った。

『あふっ!あふっ!……ほぉ。これは何とも表現し難い味だな。しかし、このクセになる味は堪らん。ユーリ、もっとくれ』

 どうやら味噌がお気に召したようだ。
 上品に且つあっという間に平らげると、器に前足を置いてメイスが催促してきた。
 空になった器を手に取った私は、笑みを浮かべたまま呟いた。
 
「ふふふ。ミソスープが気に入ったみたいね。お味噌も買っておくかな」

 この国では醬油は王都でしか手に入らないと事前に聞いていたため、ついでに味噌も買っておこうと決めた。
 空になった器に肉を多めによそってメイスの前に置くと、私も器に手を伸ばした。
 スプーンで汁を掬い口に運ぶ。
 鶏肉のような淡泊な肉が味噌と馴染んで胃に優しい。
 朝から肉料理は辛かったけど、このミソスープならお代わりしたいくらい口当たりがあっさりとしていた。

「ん~!肉の旨味が出て美味しい!肉もさっぱりしているからいくらでも食べられそう!」

『うむ。これだけでは足りんな。ユーリ、追加を頼む』

 確かに大食漢のメイスにはもの足りない量だろう。
 私は追加で同じ料理を注文した。
 懐かしい味噌の味に舌鼓を打ちながら、ふとメイスの言葉が脳裏をよぎる。
 メイスは、転生者に会ったことがあると言っていた。
 だとしたら、醬油や味噌も日本からの転生者がもたらしたものなのかもしれない。
 意外と転生者が多いことに驚きはしたが、事実、私もその転生者の一人だ。
 もしかしたら他の転生者に会えるかもしれないという期待が湧き上がる。


 僅かな期待を胸にミソスープをゆっくりと堪能した私は、一旦部屋へ戻ると斜め掛けのバッグを片手に街へと繰り出した。
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