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第一章
第49話 子鹿亭
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扉を開けて中に足を踏み入れた瞬間、三十代くらいの女性が小走りで近寄って来る。
肩に乗っているメイスを一目見るなり女性は柔らかく目を細めると、朗らかに話しかけてきた。
「いらっしゃいませ!あら、可愛らしい従魔を連れているのね。お泊まりですか?」
女性の表情から忌避感はなく、従魔同伴でも問題は無さそうだ。
王都には醬油を求めて寄ったので、少し長めに滞在したいと考えていた。
すぐに見つかるか分からないし、ここは一週間くらい余裕をみておこう。
「はい。いっ、七日ほど滞在する予定なのですが構いませんか?」
思わず一週間と口に出しかけて七日と言い直す。
長期間の滞在は初めてだし、何より一週間と言って通じるのか自信がなかったためだ。
女性は朗らかに笑みを浮かべたまま答えた。
「ええ、もちろんよ。うちは従魔用の部屋も用意しているけど、その従魔なら一緒の部屋でも大丈夫よ。普段なら金貨二枚と銀貨八枚いただくのだけど、今回は特別に金貨二枚と銀貨一枚で構わないわ」
従魔用の部屋を利用しなくて済む分安くしてくれたのか。
今いち安いのか高いのか分からないけど、ここはありがたく受け取っておこう。
私が頷いたのを見た女性は、突然何かを思い出したかのように声を上げた後、話しを続けた。
「あ、その前に従魔登録をしているか確認させてもらうわね。これは義務だから悪く思わないでね」
なるほど、義務なら仕方ない。
私は頷いて、斜め掛けのバッグから冒険者カードを取り出して女性に手渡した。
私から手渡された冒険者カードを見つめた女性は、顔を上げて笑みを浮かべた。
「従魔登録の確認をしたわ。どうもありがとう。それじゃあ、前金で料金をいただくけど現金かカード、どちらにしますか?」
ほほぉ、このお店はカードでの支払いも出来るのか。
それなら遠慮なくカードで支払いをしてみよう。
私は笑みを浮かべて答えた。
「カードでお願いします」
即答した私を見て、女性は口元に手をあてて笑みを漏らした。
「ふふふ。はい、カードでのお支払い承りました。手続きが完了次第お部屋へご案内しますので、少々お待ちください」
女性はカードを手にカウンターへ向かうと、手続きをし始めた。
私も女性の後についてカウンターへと向かう。
手慣れた様子で手続きを済ませた女性は、カードと部屋の鍵をトレーに載せて目の前に差し出すと口を開いた。
「お待たせしました。カードをお返しします。それと、こちらがお部屋の鍵になります。夕食は鐘が五つ鳴ったら食堂までお越しください。改めて、ようこそ『子鹿亭』へ」
女性からカードと部屋の鍵を受け取り部屋の場所を教えてもらうと、その足で部屋へと向かった。
二階の日当たりの良い場所に部屋が用意されていた。
ベッドもふかふかでシーツもお日様の良い香りがした。
魔法がある世界だからなのか、壁に備え付けられた照明は魔石が埋め込まれており、手を触れると仄かに明かりが灯る仕組みとなっていた。
カントーリの宿に泊まった時は蠟燭に火を灯していたので、何だか不思議な気分だ。
文明の利器というものを初めてまともに見たような気がして、夕食を知らせる鐘が鳴るまで室内を見て回っていた。
五つ鐘が鳴り食堂へと向かう。
食堂ではすでに数名の客が席に着いており、食事が運ばれて来るのを待っていた。
私が空いている席に着いて間もなく、先ほど受付をしてくれた女性が、食事が乗ったトレーを抱えて厨房から現れた。
斜め前のテーブルに美味しそうな匂いを立てて料理が置かれていく。
何だか懐かしい匂いがして、客に説明する女性の話しに聞き耳を立てた。
「お待たせしました。こちらの料理は最近人気のブラッディホーンラビットのミソスープ仕立ての煮込みとなっております。お熱いですから気をつけてお召し上がりください」
ミソスープだって!?
ミソスープってみそ汁だよね?
俄然興味が湧いた私は、早くその料理が食べたくてそわそわと落ち着きなく料理が運ばれて来るのを待った。
肩に乗っているメイスを一目見るなり女性は柔らかく目を細めると、朗らかに話しかけてきた。
「いらっしゃいませ!あら、可愛らしい従魔を連れているのね。お泊まりですか?」
女性の表情から忌避感はなく、従魔同伴でも問題は無さそうだ。
王都には醬油を求めて寄ったので、少し長めに滞在したいと考えていた。
すぐに見つかるか分からないし、ここは一週間くらい余裕をみておこう。
「はい。いっ、七日ほど滞在する予定なのですが構いませんか?」
思わず一週間と口に出しかけて七日と言い直す。
長期間の滞在は初めてだし、何より一週間と言って通じるのか自信がなかったためだ。
女性は朗らかに笑みを浮かべたまま答えた。
「ええ、もちろんよ。うちは従魔用の部屋も用意しているけど、その従魔なら一緒の部屋でも大丈夫よ。普段なら金貨二枚と銀貨八枚いただくのだけど、今回は特別に金貨二枚と銀貨一枚で構わないわ」
従魔用の部屋を利用しなくて済む分安くしてくれたのか。
今いち安いのか高いのか分からないけど、ここはありがたく受け取っておこう。
私が頷いたのを見た女性は、突然何かを思い出したかのように声を上げた後、話しを続けた。
「あ、その前に従魔登録をしているか確認させてもらうわね。これは義務だから悪く思わないでね」
なるほど、義務なら仕方ない。
私は頷いて、斜め掛けのバッグから冒険者カードを取り出して女性に手渡した。
私から手渡された冒険者カードを見つめた女性は、顔を上げて笑みを浮かべた。
「従魔登録の確認をしたわ。どうもありがとう。それじゃあ、前金で料金をいただくけど現金かカード、どちらにしますか?」
ほほぉ、このお店はカードでの支払いも出来るのか。
それなら遠慮なくカードで支払いをしてみよう。
私は笑みを浮かべて答えた。
「カードでお願いします」
即答した私を見て、女性は口元に手をあてて笑みを漏らした。
「ふふふ。はい、カードでのお支払い承りました。手続きが完了次第お部屋へご案内しますので、少々お待ちください」
女性はカードを手にカウンターへ向かうと、手続きをし始めた。
私も女性の後についてカウンターへと向かう。
手慣れた様子で手続きを済ませた女性は、カードと部屋の鍵をトレーに載せて目の前に差し出すと口を開いた。
「お待たせしました。カードをお返しします。それと、こちらがお部屋の鍵になります。夕食は鐘が五つ鳴ったら食堂までお越しください。改めて、ようこそ『子鹿亭』へ」
女性からカードと部屋の鍵を受け取り部屋の場所を教えてもらうと、その足で部屋へと向かった。
二階の日当たりの良い場所に部屋が用意されていた。
ベッドもふかふかでシーツもお日様の良い香りがした。
魔法がある世界だからなのか、壁に備え付けられた照明は魔石が埋め込まれており、手を触れると仄かに明かりが灯る仕組みとなっていた。
カントーリの宿に泊まった時は蠟燭に火を灯していたので、何だか不思議な気分だ。
文明の利器というものを初めてまともに見たような気がして、夕食を知らせる鐘が鳴るまで室内を見て回っていた。
五つ鐘が鳴り食堂へと向かう。
食堂ではすでに数名の客が席に着いており、食事が運ばれて来るのを待っていた。
私が空いている席に着いて間もなく、先ほど受付をしてくれた女性が、食事が乗ったトレーを抱えて厨房から現れた。
斜め前のテーブルに美味しそうな匂いを立てて料理が置かれていく。
何だか懐かしい匂いがして、客に説明する女性の話しに聞き耳を立てた。
「お待たせしました。こちらの料理は最近人気のブラッディホーンラビットのミソスープ仕立ての煮込みとなっております。お熱いですから気をつけてお召し上がりください」
ミソスープだって!?
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