転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第二章

第71話 杉野 秀幸

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 無事宿泊の手続きを終えて部屋に入った私達は、おどおどと不安気に瞳を揺らす少年に声をかけた。

『立ったままだと落ち着かないでしょ。適当に座って』

 日本語で話しかけられた少年は驚愕の瞳で私を見つめた後、崩れ落ちるように椅子に腰を下ろすと独り言のように呟いた。

『……やっぱり日本語だ。どうして君は日本語が話せるの?ここは異世界なの?どうして僕が……』

 状況が理解出来ないのか、動揺を隠しもせずに青ざめた顔色で呟いた彼の真向かいに腰を下ろして、その呟きに答えた。

『自己紹介がまだだったね。はじめまして。私はユーリ。どうして日本語が話せるのかってことだけど、実は私、日本人だったんだよね』

 この重苦しい空気をどうにかしたくてわざと明るく言ってみた。
 すると、少年は目を大きく見開いた後、興奮した様子で前のめりになって話し始めた。

『えっ!?それって、もしかして転生?あっ!僕は杉野すぎの 秀幸ひでゆきです!十六歳です!ユーリさんは七歳か八歳ですか?それにしては随分と大人びていますね。やっぱり前世の記憶が蘇ったのがきっかけですか?ラノベみたいなことって本当にあるんですね。びっくりしたけど、ユーリさんに会えて良かったです!』

 うん?
 今、さらっと聞き逃してはならないこと言わなかった?
 この数か月、メイスが用意してくれた料理を食べて肉付きが良くなったはずだけど、彼の目から見てもまだ私って小さいの?
 自己紹介をしたけど、名乗っただけで年齢は言ってなかったなと気がついて少年に視線を向ける。

『そう言えば、年齢を言ってなかったね。私、これでも十歳だから。あと、こんななりだけど女の子だから』

『えぇぇぇぇぇ!?』

 少年改め杉野さんに笑顔で答えると、目と口をこれ以上開けられないくらいに開けて驚かれてしまった。
 その驚き方はどっちに反応してのことかな?
 年齢?それとも性別?
 精神は大人でも、さすがにちょっと傷ついちゃうよお姉さん。
 杉野さんの声に反応したメイスが脳内に語りかけてきた。

『どうした?あの男は何を驚いている?』

 そう言って、膝の上で寛いでいるブロンの背に乗ってきたメイスに視線を向けて笑みを浮かべる。

「ん?ああ、彼ね、杉野 秀幸さんって言って日本人なの。私の年齢と性別を教えたら驚かれちゃって」

『……二ホン人か。それにしてもお前、年齢はともかく性別を教えても良かったのか?』

 メイスの問いかけに、膝の上で寛ぐブロンを見ながら答えた。

「同郷だし、彼が悪い人には見えないから。悪い人ならブロンが反応しているでしょう?でも、ブロンが反応していないから話しても大丈夫だと思ったの」

 そう答えた私の顔を見上げたメイスは、ブロンを一瞥すると再び私の目を見て言った。

『ふむ。そのようだな。なら、この俺がこの世界の言葉を理解出来るようにしてやろう。そうすれば、お前を介して会話をする煩わしさが無くなるだろう。何より、この俺が会話に加われないというのは腹が立つ』

 ふふ。メイスったら話しに加われないのが寂しいのね。
 でも、この世界の言葉を理解出来るような魔法があるなんて知らなかったわ。
 メイスは本当に魔法に関しては超一流なのね。

「言語理解ってこと?それは助かる。彼も喜ぶんじゃないかな」

 そう返事をして杉野さんに視線を向けると、彼はキョトンとした顔でこちらを眺めていた。
 私は杉野さんと視線を合わせたまま、先ほどメイスとした会話の内容を伝えた。

『あのね、この子はメイスって言うの。一応従魔として登録しているけど、メイスは私の師匠であり大事な家族なの。魔法の知識と技術に長けていて私もたくさん教わったんだ。で、今からこっちの世界の言葉を話せるようにしてくれるんだって。魔法をかけるけど構わないかな?』

 私の言葉に杉野さんは一瞬呆けた顔を浮かべたが、すぐに瞳をキラキラと輝かせて興奮し始めた。

『従魔!?てことは、ユーリさんは従魔と会話が出来るんですか?しかも魔法が使えるって、凄いじゃないですか!……僕、異世界に来たら言語理解は特典でついているものだと思っていました。メイスさん!ありがとうございます!ありがとうございます!』

 椅子から立ち上がった杉野さんが、床に膝を折り曲げて深々と頭を下げた。
 所謂、土下座だ。

『何を言っているか分からん。が、ちょうどいい。そのままでいろ』

 ブロンの背中から飛び降りたメイスは、床に手をつき頭を下げたままの杉野さんに向かって行くと頭に肉球を押し当てた。
 ほんの一瞬、肉球から淡い光が放たれてすぐに収束すると、メイスが私に振り返って言った。

『ユーリ、あいつに何か話しかけてみろ』

「うん。え~と、杉野さん。私の言葉、分かりますか?」

 杉野さんはバッと勢いよく顔を上げると、目を大きく見開いて私を見上げた。



 その時の彼の表情を見て、人ってこんなに大きく目を開けられるものなんだなと感心したのは私だけの秘密である。
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