転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第二章

第70話 * 黒髪の少年

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 解体場を後にして通りに出る。
 陽はだいぶ傾きかけているが、辺りはまだ明るい。
 明るいうちに宿を確保しておこうと考えた私は、メイスとブロンに声をかけた。

「用事は済んだし宿を探そうと思うんだけど、メイスとブロンはどこか行きたい所はある?」

『おねえちゃんと一緒ならどこでもいいよ~』

 そう返事をしたのはブロン。
 なんて嬉しいことを言ってくれるのだろう、この子は。
 あまりの嬉しさに、ころころとしたブロンの体を抱きしめて頬ずりする。

『あははっ!くすぐったいよ、おねえちゃん』

 頬ずりをされてくすぐったかったのか、ブロンは身を捩っている。
 すると、今まで静かにしていたメイスが口を開いた。

『そいつも俺も人間の暮らしには興味は無い。お前が行きたい所に着いて行くだけだ。それよりも、おにぎりとミソスープをしょくしたい。早く宿を探そう』

 メイスは街を散策するよりも、おにぎりとミソスープの方が大事みたい。
 以前は肉にしか興味を示さなかったのに、事あるごとにおにぎりとミソスープが口をついて出ることが増えた。
 まぁ、悪い気はしないから別に構わないのだけど。
 そんなわけで、私達はさっさと宿を探すことにした。









 宿を探して通りを歩いていると、男性の怒鳴り声と共に突き飛ばされた黒髪の少年が、勢いよく尻餅をつくのが視界に飛び込んできた。
 少年を突き飛ばしたであろう薄茶色の髪の厳つい顔をした男性が建物から現れて、イライラとした表情を隠しもせずに少年を睨みつけて言い放つ。

「てめぇは何をさせても鈍くせぇ!安く買えても何も出来ねぇんじゃ意味が無えんだよ!ったく、とんだ穀潰しを掴ませられたぜ!」

 男性はそう吐き捨てた後、黒髪の少年に向かって歩いて行くと、胸ぐらを掴んで乱暴に立ち上がらせた。
 少年は抵抗もせずに俯いたままよろよろと立ち上がる。
 なぜ、少年は何も抵抗しないのだろうか。
 困惑したまま様子を窺っていると、男性は大きく手を振り上げて少年の頬を叩いた。

「っ!!」

 見るからに無抵抗の人間に手を上げる男性に怒りがこみ上げてくる。
 私は怒りのまま男性に近づくと声を荒げた。

「ちょっとおじさん!無抵抗の人間になにやってんの!」

 そう男性に怒鳴りつけた後、俯いたままの少年に向かって声をかけた。

「大丈夫?あなたも、どうして抵抗しないの?」

 そう声をかけて服についた埃を払っていたら、随分と汚れていたが前世で見慣れた学生服だと気がついた。

『……学生服?あなた、もしかして日本人?』

 無意識に日本語が口をついて出ていた。
 日本語に反応したのか、少年は顔を上げてぼんやりとした表情のまま小さく呟いた。

『日本語?この世界にも日本語を話せる人が居るの……?』

 少年の瞳は生きる希望を失っているのか虚ろなままだったが、アジア人特有の目鼻立ちは紛れもなく日本人だった。
 まだ幼さが残る顔立ちは、日本人にしては整っている部類に入るだろう。
 それにしても、どうして少年が異世界に来たのか分からないが、同胞をこのまま放っておく訳にはいかない。
 私は、薄茶色の髪の男性が言い放った言葉を思い出して顔を顰める。
 脳裏に子鹿亭のご主人の言葉が過ったからだ。

 この国には奴隷制度があり、強靭な肉体を持つ亜人を奴隷にして働かせていると言っていた。
 ご主人の口ぶりから推測するに、違法な奴隷商人も居るのではと思っていたのだが……。
 私が色々と思考を巡らせていたら、薄茶色の髪の男性が怒りを露に怒鳴り声を上げた。

「おいっ!こいつは俺の奴隷だ!俺がこいつをどう扱おうがてめぇには関係ないだろう!おい、お前!とっととこっちに来い!」

 男性は、怒鳴り声を上げながら少年の腕に手を伸ばす。
 私は咄嗟に少年を庇うように男性の前に立つと、言い返していた。

「あなたは彼を安く買ったのですよね。だったら僕が彼を買います!おいくらですか?」

 そう言い放った私に男性は一瞬キョトンと目を見開いた後、ニヤリと醜悪な笑みを浮かべて答えた。

「あんた、こいつを買い取るって言ったな。こいつを買い取ってもらえるなら俺としてもありがてぇ。こいつは役に立たねぇくせに飯はいっちょ前に食いやがる。そうだなぁ……金貨十枚でどうだ?」

 金貨十枚か。結構高いな。
 値切っても大丈夫だろうかと考えていたら、メイスが地を這うような低い声で呟いた。

『足元を見て吹っ掛けてきたな。二度と口が聞けないように心をへし折ってやろう』

 そう呟いたメイスに続いて、ブロンも牙を剝きだして唸り声を出す。

『あいつきらい!いやなにおいがする!あいつかみころす!』

 足元を見られたのは分かっていたし二人の怒りはごもっともだが、それでは逆に問題が増えてしまう。
 私は二人に視線を向けて制すると口を開いた。

「わかりました。金貨十枚ですね。お支払いしますので契約書も渡してください。構いませんよね?」

 私に尋ねられた男性は、微妙な表情を浮かべて答えた。

「あ、ああ。当然だ。契約違反で捕まりたくねぇからな」

 なるほど、契約書を交わしていれば無下に出来ないということか。
 それは助かる。


 その後、金貨十枚を男性に支払い契約書を受け取ってその場を後にすると、赤く腫れた少年の頬に治癒魔法をかけて宿を探した。
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