転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

文字の大きさ
70 / 180
第二章

第70話 * 黒髪の少年

 解体場を後にして通りに出る。
 陽はだいぶ傾きかけているが、辺りはまだ明るい。
 明るいうちに宿を確保しておこうと考えた私は、メイスとブロンに声をかけた。

「用事は済んだし宿を探そうと思うんだけど、メイスとブロンはどこか行きたい所はある?」

『おねえちゃんと一緒ならどこでもいいよ~』

 そう返事をしたのはブロン。
 なんて嬉しいことを言ってくれるのだろう、この子は。
 あまりの嬉しさに、ころころとしたブロンの体を抱きしめて頬ずりする。

『あははっ!くすぐったいよ、おねえちゃん』

 頬ずりをされてくすぐったかったのか、ブロンは身を捩っている。
 すると、今まで静かにしていたメイスが口を開いた。

『そいつも俺も人間の暮らしには興味は無い。お前が行きたい所に着いて行くだけだ。それよりも、おにぎりとミソスープをしょくしたい。早く宿を探そう』

 メイスは街を散策するよりも、おにぎりとミソスープの方が大事みたい。
 以前は肉にしか興味を示さなかったのに、事あるごとにおにぎりとミソスープが口をついて出ることが増えた。
 まぁ、悪い気はしないから別に構わないのだけど。
 そんなわけで、私達はさっさと宿を探すことにした。









 宿を探して通りを歩いていると、男性の怒鳴り声と共に突き飛ばされた黒髪の少年が、勢いよく尻餅をつくのが視界に飛び込んできた。
 少年を突き飛ばしたであろう薄茶色の髪の厳つい顔をした男性が建物から現れて、イライラとした表情を隠しもせずに少年を睨みつけて言い放つ。

「てめぇは何をさせても鈍くせぇ!安く買えても何も出来ねぇんじゃ意味が無えんだよ!ったく、とんだ穀潰しを掴ませられたぜ!」

 男性はそう吐き捨てた後、黒髪の少年に向かって歩いて行くと、胸ぐらを掴んで乱暴に立ち上がらせた。
 少年は抵抗もせずに俯いたままよろよろと立ち上がる。
 なぜ、少年は何も抵抗しないのだろうか。
 困惑したまま様子を窺っていると、男性は大きく手を振り上げて少年の頬を叩いた。

「っ!!」

 見るからに無抵抗の人間に手を上げる男性に怒りがこみ上げてくる。
 私は怒りのまま男性に近づくと声を荒げた。

「ちょっとおじさん!無抵抗の人間になにやってんの!」

 そう男性に怒鳴りつけた後、俯いたままの少年に向かって声をかけた。

「大丈夫?あなたも、どうして抵抗しないの?」

 そう声をかけて服についた埃を払っていたら、随分と汚れていたが前世で見慣れた学生服だと気がついた。

『……学生服?あなた、もしかして日本人?』

 無意識に日本語が口をついて出ていた。
 日本語に反応したのか、少年は顔を上げてぼんやりとした表情のまま小さく呟いた。

『日本語?この世界にも日本語を話せる人が居るの……?』

 少年の瞳は生きる希望を失っているのか虚ろなままだったが、アジア人特有の目鼻立ちは紛れもなく日本人だった。
 まだ幼さが残る顔立ちは、日本人にしては整っている部類に入るだろう。
 それにしても、どうして少年が異世界に来たのか分からないが、同胞をこのまま放っておく訳にはいかない。
 私は、薄茶色の髪の男性が言い放った言葉を思い出して顔を顰める。
 脳裏に子鹿亭のご主人の言葉が過ったからだ。

 この国には奴隷制度があり、強靭な肉体を持つ亜人を奴隷にして働かせていると言っていた。
 ご主人の口ぶりから推測するに、違法な奴隷商人も居るのではと思っていたのだが……。
 私が色々と思考を巡らせていたら、薄茶色の髪の男性が怒りを露に怒鳴り声を上げた。

「おいっ!こいつは俺の奴隷だ!俺がこいつをどう扱おうがてめぇには関係ないだろう!おい、お前!とっととこっちに来い!」

 男性は、怒鳴り声を上げながら少年の腕に手を伸ばす。
 私は咄嗟に少年を庇うように男性の前に立つと、言い返していた。

「あなたは彼を安く買ったのですよね。だったら僕が彼を買います!おいくらですか?」

 そう言い放った私に男性は一瞬キョトンと目を見開いた後、ニヤリと醜悪な笑みを浮かべて答えた。

「あんた、こいつを買い取るって言ったな。こいつを買い取ってもらえるなら俺としてもありがてぇ。こいつは役に立たねぇくせに飯はいっちょ前に食いやがる。そうだなぁ……金貨十枚でどうだ?」

 金貨十枚か。結構高いな。
 値切っても大丈夫だろうかと考えていたら、メイスが地を這うような低い声で呟いた。

『足元を見て吹っ掛けてきたな。二度と口が聞けないように心をへし折ってやろう』

 そう呟いたメイスに続いて、ブロンも牙を剝きだして唸り声を出す。

『あいつきらい!いやなにおいがする!あいつかみころす!』

 足元を見られたのは分かっていたし二人の怒りはごもっともだが、それでは逆に問題が増えてしまう。
 私は二人に視線を向けて制すると口を開いた。

「わかりました。金貨十枚ですね。お支払いしますので契約書も渡してください。構いませんよね?」

 私に尋ねられた男性は、微妙な表情を浮かべて答えた。

「あ、ああ。当然だ。契約違反で捕まりたくねぇからな」

 なるほど、契約書を交わしていれば無下に出来ないということか。
 それは助かる。


 その後、金貨十枚を男性に支払い契約書を受け取ってその場を後にすると、赤く腫れた少年の頬に治癒魔法をかけて宿を探した。

あなたにおすすめの小説

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

この状況には、訳がある

兎田りん
ファンタジー
 どうしてこんなことになったのか…    ファルムファス・メロディアスは頭を抱えていた。  居なくてもいい場所に、しなくてもいい装いをしている事の居心地の悪さといったら!  俺の関係ない所でやってくれ!  ファルムファスの握りしめた拳の行方はどこに ○更新状況○ 2023/2/15投稿開始 毎週水曜20時頃次回投稿の予定

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました! ※完結後、三人称一元視点に変えて全話改稿する予定です。規約を確認してから決めますが、こちらも残したいと思っています。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。