83 / 180
第二章
第83話 感覚のズレ
しおりを挟む
朝食を済ませて宿を出た私達は、街の出口を目指して歩き始めた。
宿の女将さんの話しによると、国境までは徒歩で二日ほどの距離らしい。
「徒歩で二日かぁ……。て、え?もしかして……移動手段って徒歩?」
宿を出た瞬間、そう声にしたのはヒデさんだ。
そう呟いたヒデさんに、メイスが飄々と答える。
『そうだ。たった二日歩くだけだ。問題ないだろう』
「いやいやいや!問題あるでしょ!一日でどれくらいの距離を歩くつもりなの!?てか、今まで歩いて来たの!?」
ヒデさんに問いかけられて私は考える。
徒歩での移動が当たり前のことだと思っていたのだが、元の世界では移動手段はバスや電車などの公共交通機関が充実しており、一日中歩くことなんてなかった。
メイスの指導のおかげで身体強化すれば時間を短縮出来るし、何より全身に感じる風が心地良すぎて乗り合い馬車があったことすらすっかり忘れていた。
「ねぇ、メイス。すっかり忘れていたんだけど、乗り合い馬車があったよね?徒歩での移動も良いけど、偶には乗り合い馬車でのんびりと行くのも良いんじゃない?私、まだ乗り合い馬車に乗ったことがないから乗ってみたいな」
「ユーリさん……」
助け舟を出したつもりではなく純粋に乗り合い馬車に乗ってみたかっただけだったのだが、ヒデさんは目を潤ませて私を見つめている。
そこまで感動するほど歩きたくなかったのかな?
それもそうか。公共交通機関が充実していた日本で長い距離を歩くことなんて、余程の酔狂な人でもない限り歩こうなんて思わないよね。
以前、とある掲示板で関東から九州まで徒歩で縦断した人のスレッドを読んだけど、一日平均五十キロ歩けるなんて狂気の沙汰じゃないと当時の私は驚いたんだっけ。
徒歩で移動するのが当たり前になっていた私は、改めてヒデさんとの感覚のズレに軽くカルチャーショックを受けた。
前世の記憶に思いを馳せていたら、メイスは、ふむ、と呟いて考える素振りを見せた後、口を開いた。
『そうだな。ここまで来たら急ぐこともないだろう。俺も乗り合い馬車とやらに興味がある。のんびり国境を目指すのも悪くはないな』
どうやらメイスも乗り合い馬車に興味を持っていたようだ。
私は皆に視線を向けて他に意見がないか尋ねた。
「それじゃあ、乗り合い馬車で国境に向かうってことで良いかな?」
私の問いかけに真っ先に答えたのはヒデさんだった。
「うん!賛成!こっちに来てからのんびりと景色を見る余裕がなかったから、せめて国境まではのんびりとしたいな。……それに、この国も見納めかもしれないし」
見納め……。ヒデさんの口から出てきた言葉に体がピクリと反応する。
私はヒデさんから視線を逸らして辺りを見渡した。
あの家を飛び出してからというもの、目まぐるしい毎日で一欠けらも思い出すことはなかった。
メイスに加え、今ではブロンとヒデさんが仲間に加わって毎日が充実している。
だからなのか、あの離れでの辛かった記憶は随分と薄れていた。
たった数か月前のことなのに、私の中で上手く気持ちを消化出来ていたことに今更ながら驚いた。
元々、お母様以外の家族と会ったことがないのだから恨みようがないのだけれど。
それでも、もし、私とお母様を家族として迎え入れてくれていたなら、もし、家族として愛情を注いでくれたなら今の「私」は目覚めなかったかもしれない。
たらればを言っても今更かと気づいて苦笑する。
「……そうだね。また、いつこの国に寄るか分からないし旅は始まったばかりだからね。こうしてヒデさんに出会えたんだし忘れないように目に焼き付けておかなきゃね」
私の言葉に、ヒデさんは遠くを見つめて答えた。
「……うん。僕にとって忘れられない出会いだから記憶に焼き付けておきたい。きっと、忘れたくても忘れられないけどね」
ああ、異世界に来て奴隷にさせられちゃったんだっけ。
それは忘れたくても忘れられないだろう。
せめて、これから良い思い出を増やして、辛い嫌な記憶が思い出せないくらい上書きしていってほしい。
私には祈ることしか出来ないけど、彼の心の傷が少しでも癒えるように願った。
そんなヒデさんに対して、私は殊更明るい声で話しかけた。
「さて、意見もまとまったし乗り合い馬車を探そう。乗り遅れたら大変だよ」
「うん、乗り合いってことは座席が埋まったら出発しちゃうんだよね?早く行こう」
ヒデさんの言葉を聞いて途端に不安が押し寄せてきた。
この世界の移動手段である乗り合い馬車の仕組みはよく分からないが、言葉通りならきっとそういうことなのだろう。
焦りを滲ませながら私は咄嗟にヒデさんの手を掴むと、乗り合い馬車を探すため足早にその場を後にした。
宿の女将さんの話しによると、国境までは徒歩で二日ほどの距離らしい。
「徒歩で二日かぁ……。て、え?もしかして……移動手段って徒歩?」
宿を出た瞬間、そう声にしたのはヒデさんだ。
そう呟いたヒデさんに、メイスが飄々と答える。
『そうだ。たった二日歩くだけだ。問題ないだろう』
「いやいやいや!問題あるでしょ!一日でどれくらいの距離を歩くつもりなの!?てか、今まで歩いて来たの!?」
ヒデさんに問いかけられて私は考える。
徒歩での移動が当たり前のことだと思っていたのだが、元の世界では移動手段はバスや電車などの公共交通機関が充実しており、一日中歩くことなんてなかった。
メイスの指導のおかげで身体強化すれば時間を短縮出来るし、何より全身に感じる風が心地良すぎて乗り合い馬車があったことすらすっかり忘れていた。
「ねぇ、メイス。すっかり忘れていたんだけど、乗り合い馬車があったよね?徒歩での移動も良いけど、偶には乗り合い馬車でのんびりと行くのも良いんじゃない?私、まだ乗り合い馬車に乗ったことがないから乗ってみたいな」
「ユーリさん……」
助け舟を出したつもりではなく純粋に乗り合い馬車に乗ってみたかっただけだったのだが、ヒデさんは目を潤ませて私を見つめている。
そこまで感動するほど歩きたくなかったのかな?
それもそうか。公共交通機関が充実していた日本で長い距離を歩くことなんて、余程の酔狂な人でもない限り歩こうなんて思わないよね。
以前、とある掲示板で関東から九州まで徒歩で縦断した人のスレッドを読んだけど、一日平均五十キロ歩けるなんて狂気の沙汰じゃないと当時の私は驚いたんだっけ。
徒歩で移動するのが当たり前になっていた私は、改めてヒデさんとの感覚のズレに軽くカルチャーショックを受けた。
前世の記憶に思いを馳せていたら、メイスは、ふむ、と呟いて考える素振りを見せた後、口を開いた。
『そうだな。ここまで来たら急ぐこともないだろう。俺も乗り合い馬車とやらに興味がある。のんびり国境を目指すのも悪くはないな』
どうやらメイスも乗り合い馬車に興味を持っていたようだ。
私は皆に視線を向けて他に意見がないか尋ねた。
「それじゃあ、乗り合い馬車で国境に向かうってことで良いかな?」
私の問いかけに真っ先に答えたのはヒデさんだった。
「うん!賛成!こっちに来てからのんびりと景色を見る余裕がなかったから、せめて国境まではのんびりとしたいな。……それに、この国も見納めかもしれないし」
見納め……。ヒデさんの口から出てきた言葉に体がピクリと反応する。
私はヒデさんから視線を逸らして辺りを見渡した。
あの家を飛び出してからというもの、目まぐるしい毎日で一欠けらも思い出すことはなかった。
メイスに加え、今ではブロンとヒデさんが仲間に加わって毎日が充実している。
だからなのか、あの離れでの辛かった記憶は随分と薄れていた。
たった数か月前のことなのに、私の中で上手く気持ちを消化出来ていたことに今更ながら驚いた。
元々、お母様以外の家族と会ったことがないのだから恨みようがないのだけれど。
それでも、もし、私とお母様を家族として迎え入れてくれていたなら、もし、家族として愛情を注いでくれたなら今の「私」は目覚めなかったかもしれない。
たらればを言っても今更かと気づいて苦笑する。
「……そうだね。また、いつこの国に寄るか分からないし旅は始まったばかりだからね。こうしてヒデさんに出会えたんだし忘れないように目に焼き付けておかなきゃね」
私の言葉に、ヒデさんは遠くを見つめて答えた。
「……うん。僕にとって忘れられない出会いだから記憶に焼き付けておきたい。きっと、忘れたくても忘れられないけどね」
ああ、異世界に来て奴隷にさせられちゃったんだっけ。
それは忘れたくても忘れられないだろう。
せめて、これから良い思い出を増やして、辛い嫌な記憶が思い出せないくらい上書きしていってほしい。
私には祈ることしか出来ないけど、彼の心の傷が少しでも癒えるように願った。
そんなヒデさんに対して、私は殊更明るい声で話しかけた。
「さて、意見もまとまったし乗り合い馬車を探そう。乗り遅れたら大変だよ」
「うん、乗り合いってことは座席が埋まったら出発しちゃうんだよね?早く行こう」
ヒデさんの言葉を聞いて途端に不安が押し寄せてきた。
この世界の移動手段である乗り合い馬車の仕組みはよく分からないが、言葉通りならきっとそういうことなのだろう。
焦りを滲ませながら私は咄嗟にヒデさんの手を掴むと、乗り合い馬車を探すため足早にその場を後にした。
117
あなたにおすすめの小説
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
底無しポーターは端倪すべからざる
さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。
ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。
攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。
そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。
※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。
※ごくまれに残酷描写を含みます。
※【小説家になろう】様にも掲載しています。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化!
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。
ソラリアル
ファンタジー
※本作は改題・改稿をして場所を移動しました。
現在は
『従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々』
として連載中です。2026.1.31
どうして、魔獣と呼ばれる存在は悪者扱いされてしまうんだろう。
あんなに癒しをくれる、優しい子たちなのに。
そんな思いを抱いていた俺は、ある日突然、命を落とした――はずだった。
だけど、目を開けるとそこには女神さまがいて、俺は転生を勧められる。
そして与えられた力は、【嫌われ者とされる子たちを助けられる力】。
異世界で目覚めた俺は、頼りになる魔獣たちに囲まれて穏やかな暮らしを始めた。
畑を耕し、一緒にごはんを食べて、笑い合う日々。
……なのに、人々の噂はこうだ。
「森に魔王がいる」
「強大な魔物を従えている」
「街を襲う準備をしている」
――なんでそうなるの?
俺はただ、みんなと平和に暮らしたいだけなのに。
これは、嫌われ者と呼ばれるもふもふな魔獣たちと過ごす、
のんびり?ドタバタ?異世界スローライフの物語。
■小説家になろう、カクヨムでも同時連載中です■
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる