84 / 180
第二章
第84話 初めての乗り合い馬車
無事、乗り合い馬車を見つけた私達は、一路国境を目指して馬車に揺られていた。
「うわぁ。これが馬車。ちょっと座り心地はアレだけど、なんか新鮮だなぁ」
そう口にしたのはヒデさんだ。
目を輝かせて一面緑の草原を眺めているが、何の変哲もない景色にもヒデさんは一喜一憂している。
確かに、王都で時折見かけた豪華な馬車とは違い見た目も乗り心地も良くはないが、ゆっくりと歩く馬の蹄の音を聞きながら街道を進むのは新鮮で楽しい。
国境まで二日という距離をずっと馬車で過ごすのは辛いが、幸いにも私には回復魔法がある。
こっそり私とヒデさんのお尻に回復魔法をかければ問題はないだろう。
馬車での旅を楽しんでいると、向かいに座っていた中年男性に声をかけられた。
「君達。馬車は初めてかい?」
突然男性に話しかけられて顔を向けると、男性はニコニコと微笑んで私達を見つめていた。
突然のことに返事を返せないでいたら、私に代わりヒデさんが笑顔で応えた。
「はい。初めて乗りました。意外と揺れますね」
ヒデさんの返事に男性は微笑んだまま尋ねた。
「そうだねぇ。初めてなら馬車酔いはきついだろう。君達は酔い止めの薬は持っているのかい?」
そう尋ねられてヒデさんと私は顔を見合わせた。
どうしよう。回復魔法があるからと薬を買うのを忘れていた。
顔を見合わせたまま返答に困っていたら、男性は大きな荷袋から葉を一枚取り出して説明をし始めた。
「この葉はね、酔い止めの葉でナテンという。喉の痛みや咳止めにも使われるが、酔い止めの効果もある。こうして生の葉を噛むんだ」
男性はナテンという葉を口に含むと噛んだ。
それから、私とヒデさんに一枚ずつナテンの葉を渡すと噛むように促した。
ナテンの葉を渡された私達は互いの顔を見合わせた後、男性がしたように葉を口に含んだ。
「っ!?」
葉独特の味と香りが口腔内に広がり眉間に皺が寄る。
隣では、ヒデさんが声も出せずに口を両手で押さえて悶絶していた。
私達のその様子に男性が笑い声をあげた。
「はははっ!君達には少々きつかったようだね。しかし、これから馬車に乗る機会が増えるなら、ナテンは常備しておいた方が良いだろうね。もっとも回復魔法が使えるのならナテンは必要ないのだろうけど、そうはいかないだろうからね」
男性が言ったように、回復魔法が使えるならナテンを常備する必要はない。
しかし、回復魔法といってもその差はピンキリである。
例えば、小さな傷を癒すだけで魔力の大半を使ってしまうとか、重病者を治すには複数の術者が必要だとか実に様々だ。
これらは旅をしているうちに自然と耳に入ってきた情報の一部だが、その内容から回復魔法を使える人間が少ないであろうことは容易に想像出来た。
だから、私はこっそりと回復魔法を使おうと考えていた。
私はナテンの葉を口に含んだまま男性にお礼の言葉を述べた。
「……そうなんですね。大変勉強になりました。……それにしても、この匂いと味は慣れる気がしませんね」
若干目尻に涙を浮かべた私に、男性は柔らかく目を細めて再び荷袋から木箱を取り出して蓋を開けると言った。
「これはショコラーダといって甘い菓子だ。私の祖国の菓子でね、旅に出る時は必ず持ち歩いているものだ」
そう言って開けられた木箱の中を覗いた私は、目を大きく見開いた。
茶色い四角の塊は、甘い物好きにはたまらないチョコレートだった。
甘い匂いに気がついたヒデさんが木箱を覗いて声をあげる。
「うわっ!チョコだ!」
ヒデさんの声に顔を上げた男性が、ヒデさんに視線を向けて木箱を差し出す。
「……ショコラーダを知っているのかい?なら、話しは早い。口直しにショコラーダをどうぞ」
木箱を差し出されたヒデさんが、困惑の表情を浮かべて私を見る。
そんな目をされても私も返答に困ってしまう。
チョコレートは日本でも高額な物はあった。
もちろん、安価な物だってあった。
しかし、この世界ではどうなのだろうか?
私は、手を出せずに男性に尋ねた。
「……あの、ショコラーダって高いんじゃないですか?それをただ乗り合わせただけの僕達が頂いても良いのでしょうか?」
男性が悪い人には見えないが、用心するに越したことはない。
「ここで知り合ったのも何かのご縁。私はバイスアーデン国で商人をしております。もし、バイスアーデン国に来られた際はお立ち寄りください」
男性は商人だったのか。
ホッと胸を撫で下ろしながら私は口を開いた。
「ふふ。では、バイスアーデン国に寄った際は伺いたいと思います。ですが、ナテンとショコラーダの代金はお支払いします」
男性の気持ちは嬉しいけど、私としては貸し借りを作るのは好きではない。
「……しっかりとしていらっしゃる。私よりも商人に向いていそうだ」
男性は驚いた表情をして私を見つめていたが、諦めたのかすぐにショコラーダの金額を提示してきた。
思っていたよりも高くはなかったので、バイスアーデン国に行った際はショコラーダを買おうと決めた。
ちなみに、ナテンは今の時期であれば簡単に手に入るとのことで、男性の厚意に甘えることにした。
「うわぁ。これが馬車。ちょっと座り心地はアレだけど、なんか新鮮だなぁ」
そう口にしたのはヒデさんだ。
目を輝かせて一面緑の草原を眺めているが、何の変哲もない景色にもヒデさんは一喜一憂している。
確かに、王都で時折見かけた豪華な馬車とは違い見た目も乗り心地も良くはないが、ゆっくりと歩く馬の蹄の音を聞きながら街道を進むのは新鮮で楽しい。
国境まで二日という距離をずっと馬車で過ごすのは辛いが、幸いにも私には回復魔法がある。
こっそり私とヒデさんのお尻に回復魔法をかければ問題はないだろう。
馬車での旅を楽しんでいると、向かいに座っていた中年男性に声をかけられた。
「君達。馬車は初めてかい?」
突然男性に話しかけられて顔を向けると、男性はニコニコと微笑んで私達を見つめていた。
突然のことに返事を返せないでいたら、私に代わりヒデさんが笑顔で応えた。
「はい。初めて乗りました。意外と揺れますね」
ヒデさんの返事に男性は微笑んだまま尋ねた。
「そうだねぇ。初めてなら馬車酔いはきついだろう。君達は酔い止めの薬は持っているのかい?」
そう尋ねられてヒデさんと私は顔を見合わせた。
どうしよう。回復魔法があるからと薬を買うのを忘れていた。
顔を見合わせたまま返答に困っていたら、男性は大きな荷袋から葉を一枚取り出して説明をし始めた。
「この葉はね、酔い止めの葉でナテンという。喉の痛みや咳止めにも使われるが、酔い止めの効果もある。こうして生の葉を噛むんだ」
男性はナテンという葉を口に含むと噛んだ。
それから、私とヒデさんに一枚ずつナテンの葉を渡すと噛むように促した。
ナテンの葉を渡された私達は互いの顔を見合わせた後、男性がしたように葉を口に含んだ。
「っ!?」
葉独特の味と香りが口腔内に広がり眉間に皺が寄る。
隣では、ヒデさんが声も出せずに口を両手で押さえて悶絶していた。
私達のその様子に男性が笑い声をあげた。
「はははっ!君達には少々きつかったようだね。しかし、これから馬車に乗る機会が増えるなら、ナテンは常備しておいた方が良いだろうね。もっとも回復魔法が使えるのならナテンは必要ないのだろうけど、そうはいかないだろうからね」
男性が言ったように、回復魔法が使えるならナテンを常備する必要はない。
しかし、回復魔法といってもその差はピンキリである。
例えば、小さな傷を癒すだけで魔力の大半を使ってしまうとか、重病者を治すには複数の術者が必要だとか実に様々だ。
これらは旅をしているうちに自然と耳に入ってきた情報の一部だが、その内容から回復魔法を使える人間が少ないであろうことは容易に想像出来た。
だから、私はこっそりと回復魔法を使おうと考えていた。
私はナテンの葉を口に含んだまま男性にお礼の言葉を述べた。
「……そうなんですね。大変勉強になりました。……それにしても、この匂いと味は慣れる気がしませんね」
若干目尻に涙を浮かべた私に、男性は柔らかく目を細めて再び荷袋から木箱を取り出して蓋を開けると言った。
「これはショコラーダといって甘い菓子だ。私の祖国の菓子でね、旅に出る時は必ず持ち歩いているものだ」
そう言って開けられた木箱の中を覗いた私は、目を大きく見開いた。
茶色い四角の塊は、甘い物好きにはたまらないチョコレートだった。
甘い匂いに気がついたヒデさんが木箱を覗いて声をあげる。
「うわっ!チョコだ!」
ヒデさんの声に顔を上げた男性が、ヒデさんに視線を向けて木箱を差し出す。
「……ショコラーダを知っているのかい?なら、話しは早い。口直しにショコラーダをどうぞ」
木箱を差し出されたヒデさんが、困惑の表情を浮かべて私を見る。
そんな目をされても私も返答に困ってしまう。
チョコレートは日本でも高額な物はあった。
もちろん、安価な物だってあった。
しかし、この世界ではどうなのだろうか?
私は、手を出せずに男性に尋ねた。
「……あの、ショコラーダって高いんじゃないですか?それをただ乗り合わせただけの僕達が頂いても良いのでしょうか?」
男性が悪い人には見えないが、用心するに越したことはない。
「ここで知り合ったのも何かのご縁。私はバイスアーデン国で商人をしております。もし、バイスアーデン国に来られた際はお立ち寄りください」
男性は商人だったのか。
ホッと胸を撫で下ろしながら私は口を開いた。
「ふふ。では、バイスアーデン国に寄った際は伺いたいと思います。ですが、ナテンとショコラーダの代金はお支払いします」
男性の気持ちは嬉しいけど、私としては貸し借りを作るのは好きではない。
「……しっかりとしていらっしゃる。私よりも商人に向いていそうだ」
男性は驚いた表情をして私を見つめていたが、諦めたのかすぐにショコラーダの金額を提示してきた。
思っていたよりも高くはなかったので、バイスアーデン国に行った際はショコラーダを買おうと決めた。
ちなみに、ナテンは今の時期であれば簡単に手に入るとのことで、男性の厚意に甘えることにした。
あなたにおすすめの小説
若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
この状況には、訳がある
兎田りん
ファンタジー
どうしてこんなことになったのか…
ファルムファス・メロディアスは頭を抱えていた。
居なくてもいい場所に、しなくてもいい装いをしている事の居心地の悪さといったら!
俺の関係ない所でやってくれ!
ファルムファスの握りしめた拳の行方はどこに
○更新状況○
2023/2/15投稿開始
毎週水曜20時頃次回投稿の予定
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?
山咲莉亜
ファンタジー
ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。
だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。
趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?
ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。
※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!
※完結後、三人称一元視点に変えて全話改稿する予定です。規約を確認してから決めますが、こちらも残したいと思っています。
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。