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第二章
第84話 初めての乗り合い馬車
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無事、乗り合い馬車を見つけた私達は、一路国境を目指して馬車に揺られていた。
「うわぁ。これが馬車。ちょっと座り心地はアレだけど、なんか新鮮だなぁ」
そう口にしたのはヒデさんだ。
目を輝かせて一面緑の草原を眺めているが、何の変哲もない景色にもヒデさんは一喜一憂している。
確かに、王都で時折見かけた豪華な馬車とは違い見た目も乗り心地も良くはないが、ゆっくりと歩く馬の蹄の音を聞きながら街道を進むのは新鮮で楽しい。
国境まで二日という距離をずっと馬車で過ごすのは辛いが、幸いにも私には回復魔法がある。
こっそり私とヒデさんのお尻に回復魔法をかければ問題はないだろう。
馬車での旅を楽しんでいると、向かいに座っていた中年男性に声をかけられた。
「君達。馬車は初めてかい?」
突然男性に話しかけられて顔を向けると、男性はニコニコと微笑んで私達を見つめていた。
突然のことに返事を返せないでいたら、私に代わりヒデさんが笑顔で応えた。
「はい。初めて乗りました。意外と揺れますね」
ヒデさんの返事に男性は微笑んだまま尋ねた。
「そうだねぇ。初めてなら馬車酔いはきついだろう。君達は酔い止めの薬は持っているのかい?」
そう尋ねられてヒデさんと私は顔を見合わせた。
どうしよう。回復魔法があるからと薬を買うのを忘れていた。
顔を見合わせたまま返答に困っていたら、男性は大きな荷袋から葉を一枚取り出して説明をし始めた。
「この葉はね、酔い止めの葉でナテンという。喉の痛みや咳止めにも使われるが、酔い止めの効果もある。こうして生の葉を噛むんだ」
男性はナテンという葉を口に含むと噛んだ。
それから、私とヒデさんに一枚ずつナテンの葉を渡すと噛むように促した。
ナテンの葉を渡された私達は互いの顔を見合わせた後、男性がしたように葉を口に含んだ。
「っ!?」
葉独特の味と香りが口腔内に広がり眉間に皺が寄る。
隣では、ヒデさんが声も出せずに口を両手で押さえて悶絶していた。
私達のその様子に男性が笑い声をあげた。
「はははっ!君達には少々きつかったようだね。しかし、これから馬車に乗る機会が増えるなら、ナテンは常備しておいた方が良いだろうね。もっとも回復魔法が使えるのならナテンは必要ないのだろうけど、そうはいかないだろうからね」
男性が言ったように、回復魔法が使えるならナテンを常備する必要はない。
しかし、回復魔法といってもその差はピンキリである。
例えば、小さな傷を癒すだけで魔力の大半を使ってしまうとか、重病者を治すには複数の術者が必要だとか実に様々だ。
これらは旅をしているうちに自然と耳に入ってきた情報の一部だが、その内容から回復魔法を使える人間が少ないであろうことは容易に想像出来た。
だから、私はこっそりと回復魔法を使おうと考えていた。
私はナテンの葉を口に含んだまま男性にお礼の言葉を述べた。
「……そうなんですね。大変勉強になりました。……それにしても、この匂いと味は慣れる気がしませんね」
若干目尻に涙を浮かべた私に、男性は柔らかく目を細めて再び荷袋から木箱を取り出して蓋を開けると言った。
「これはショコラーダといって甘い菓子だ。私の祖国の菓子でね、旅に出る時は必ず持ち歩いているものだ」
そう言って開けられた木箱の中を覗いた私は、目を大きく見開いた。
茶色い四角の塊は、甘い物好きにはたまらないチョコレートだった。
甘い匂いに気がついたヒデさんが木箱を覗いて声をあげる。
「うわっ!チョコだ!」
ヒデさんの声に顔を上げた男性が、ヒデさんに視線を向けて木箱を差し出す。
「……ショコラーダを知っているのかい?なら、話しは早い。口直しにショコラーダをどうぞ」
木箱を差し出されたヒデさんが、困惑の表情を浮かべて私を見る。
そんな目をされても私も返答に困ってしまう。
チョコレートは日本でも高額な物はあった。
もちろん、安価な物だってあった。
しかし、この世界ではどうなのだろうか?
私は、手を出せずに男性に尋ねた。
「……あの、ショコラーダって高いんじゃないですか?それをただ乗り合わせただけの僕達が頂いても良いのでしょうか?」
男性が悪い人には見えないが、用心するに越したことはない。
「ここで知り合ったのも何かのご縁。私はバイスアーデン国で商人をしております。もし、バイスアーデン国に来られた際はお立ち寄りください」
男性は商人だったのか。
ホッと胸を撫で下ろしながら私は口を開いた。
「ふふ。では、バイスアーデン国に寄った際は伺いたいと思います。ですが、ナテンとショコラーダの代金はお支払いします」
男性の気持ちは嬉しいけど、私としては貸し借りを作るのは好きではない。
「……しっかりとしていらっしゃる。私よりも商人に向いていそうだ」
男性は驚いた表情をして私を見つめていたが、諦めたのかすぐにショコラーダの金額を提示してきた。
思っていたよりも高くはなかったので、バイスアーデン国に行った際はショコラーダを買おうと決めた。
ちなみに、ナテンは今の時期であれば簡単に手に入るとのことで、男性の厚意に甘えることにした。
「うわぁ。これが馬車。ちょっと座り心地はアレだけど、なんか新鮮だなぁ」
そう口にしたのはヒデさんだ。
目を輝かせて一面緑の草原を眺めているが、何の変哲もない景色にもヒデさんは一喜一憂している。
確かに、王都で時折見かけた豪華な馬車とは違い見た目も乗り心地も良くはないが、ゆっくりと歩く馬の蹄の音を聞きながら街道を進むのは新鮮で楽しい。
国境まで二日という距離をずっと馬車で過ごすのは辛いが、幸いにも私には回復魔法がある。
こっそり私とヒデさんのお尻に回復魔法をかければ問題はないだろう。
馬車での旅を楽しんでいると、向かいに座っていた中年男性に声をかけられた。
「君達。馬車は初めてかい?」
突然男性に話しかけられて顔を向けると、男性はニコニコと微笑んで私達を見つめていた。
突然のことに返事を返せないでいたら、私に代わりヒデさんが笑顔で応えた。
「はい。初めて乗りました。意外と揺れますね」
ヒデさんの返事に男性は微笑んだまま尋ねた。
「そうだねぇ。初めてなら馬車酔いはきついだろう。君達は酔い止めの薬は持っているのかい?」
そう尋ねられてヒデさんと私は顔を見合わせた。
どうしよう。回復魔法があるからと薬を買うのを忘れていた。
顔を見合わせたまま返答に困っていたら、男性は大きな荷袋から葉を一枚取り出して説明をし始めた。
「この葉はね、酔い止めの葉でナテンという。喉の痛みや咳止めにも使われるが、酔い止めの効果もある。こうして生の葉を噛むんだ」
男性はナテンという葉を口に含むと噛んだ。
それから、私とヒデさんに一枚ずつナテンの葉を渡すと噛むように促した。
ナテンの葉を渡された私達は互いの顔を見合わせた後、男性がしたように葉を口に含んだ。
「っ!?」
葉独特の味と香りが口腔内に広がり眉間に皺が寄る。
隣では、ヒデさんが声も出せずに口を両手で押さえて悶絶していた。
私達のその様子に男性が笑い声をあげた。
「はははっ!君達には少々きつかったようだね。しかし、これから馬車に乗る機会が増えるなら、ナテンは常備しておいた方が良いだろうね。もっとも回復魔法が使えるのならナテンは必要ないのだろうけど、そうはいかないだろうからね」
男性が言ったように、回復魔法が使えるならナテンを常備する必要はない。
しかし、回復魔法といってもその差はピンキリである。
例えば、小さな傷を癒すだけで魔力の大半を使ってしまうとか、重病者を治すには複数の術者が必要だとか実に様々だ。
これらは旅をしているうちに自然と耳に入ってきた情報の一部だが、その内容から回復魔法を使える人間が少ないであろうことは容易に想像出来た。
だから、私はこっそりと回復魔法を使おうと考えていた。
私はナテンの葉を口に含んだまま男性にお礼の言葉を述べた。
「……そうなんですね。大変勉強になりました。……それにしても、この匂いと味は慣れる気がしませんね」
若干目尻に涙を浮かべた私に、男性は柔らかく目を細めて再び荷袋から木箱を取り出して蓋を開けると言った。
「これはショコラーダといって甘い菓子だ。私の祖国の菓子でね、旅に出る時は必ず持ち歩いているものだ」
そう言って開けられた木箱の中を覗いた私は、目を大きく見開いた。
茶色い四角の塊は、甘い物好きにはたまらないチョコレートだった。
甘い匂いに気がついたヒデさんが木箱を覗いて声をあげる。
「うわっ!チョコだ!」
ヒデさんの声に顔を上げた男性が、ヒデさんに視線を向けて木箱を差し出す。
「……ショコラーダを知っているのかい?なら、話しは早い。口直しにショコラーダをどうぞ」
木箱を差し出されたヒデさんが、困惑の表情を浮かべて私を見る。
そんな目をされても私も返答に困ってしまう。
チョコレートは日本でも高額な物はあった。
もちろん、安価な物だってあった。
しかし、この世界ではどうなのだろうか?
私は、手を出せずに男性に尋ねた。
「……あの、ショコラーダって高いんじゃないですか?それをただ乗り合わせただけの僕達が頂いても良いのでしょうか?」
男性が悪い人には見えないが、用心するに越したことはない。
「ここで知り合ったのも何かのご縁。私はバイスアーデン国で商人をしております。もし、バイスアーデン国に来られた際はお立ち寄りください」
男性は商人だったのか。
ホッと胸を撫で下ろしながら私は口を開いた。
「ふふ。では、バイスアーデン国に寄った際は伺いたいと思います。ですが、ナテンとショコラーダの代金はお支払いします」
男性の気持ちは嬉しいけど、私としては貸し借りを作るのは好きではない。
「……しっかりとしていらっしゃる。私よりも商人に向いていそうだ」
男性は驚いた表情をして私を見つめていたが、諦めたのかすぐにショコラーダの金額を提示してきた。
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