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第二章
第83話 感覚のズレ
朝食を済ませて宿を出た私達は、街の出口を目指して歩き始めた。
宿の女将さんの話しによると、国境までは徒歩で二日ほどの距離らしい。
「徒歩で二日かぁ……。て、え?もしかして……移動手段って徒歩?」
宿を出た瞬間、そう声にしたのはヒデさんだ。
そう呟いたヒデさんに、メイスが飄々と答える。
『そうだ。たった二日歩くだけだ。問題ないだろう』
「いやいやいや!問題あるでしょ!一日でどれくらいの距離を歩くつもりなの!?てか、今まで歩いて来たの!?」
ヒデさんに問いかけられて私は考える。
徒歩での移動が当たり前のことだと思っていたのだが、元の世界では移動手段はバスや電車などの公共交通機関が充実しており、一日中歩くことなんてなかった。
メイスの指導のおかげで身体強化すれば時間を短縮出来るし、何より全身に感じる風が心地良すぎて乗り合い馬車があったことすらすっかり忘れていた。
「ねぇ、メイス。すっかり忘れていたんだけど、乗り合い馬車があったよね?徒歩での移動も良いけど、偶には乗り合い馬車でのんびりと行くのも良いんじゃない?私、まだ乗り合い馬車に乗ったことがないから乗ってみたいな」
「ユーリさん……」
助け舟を出したつもりではなく純粋に乗り合い馬車に乗ってみたかっただけだったのだが、ヒデさんは目を潤ませて私を見つめている。
そこまで感動するほど歩きたくなかったのかな?
それもそうか。公共交通機関が充実していた日本で長い距離を歩くことなんて、余程の酔狂な人でもない限り歩こうなんて思わないよね。
以前、とある掲示板で関東から九州まで徒歩で縦断した人のスレッドを読んだけど、一日平均五十キロ歩けるなんて狂気の沙汰じゃないと当時の私は驚いたんだっけ。
徒歩で移動するのが当たり前になっていた私は、改めてヒデさんとの感覚のズレに軽くカルチャーショックを受けた。
前世の記憶に思いを馳せていたら、メイスは、ふむ、と呟いて考える素振りを見せた後、口を開いた。
『そうだな。ここまで来たら急ぐこともないだろう。俺も乗り合い馬車とやらに興味がある。のんびり国境を目指すのも悪くはないな』
どうやらメイスも乗り合い馬車に興味を持っていたようだ。
私は皆に視線を向けて他に意見がないか尋ねた。
「それじゃあ、乗り合い馬車で国境に向かうってことで良いかな?」
私の問いかけに真っ先に答えたのはヒデさんだった。
「うん!賛成!こっちに来てからのんびりと景色を見る余裕がなかったから、せめて国境まではのんびりとしたいな。……それに、この国も見納めかもしれないし」
見納め……。ヒデさんの口から出てきた言葉に体がピクリと反応する。
私はヒデさんから視線を逸らして辺りを見渡した。
あの家を飛び出してからというもの、目まぐるしい毎日で一欠けらも思い出すことはなかった。
メイスに加え、今ではブロンとヒデさんが仲間に加わって毎日が充実している。
だからなのか、あの離れでの辛かった記憶は随分と薄れていた。
たった数か月前のことなのに、私の中で上手く気持ちを消化出来ていたことに今更ながら驚いた。
元々、お母様以外の家族と会ったことがないのだから恨みようがないのだけれど。
それでも、もし、私とお母様を家族として迎え入れてくれていたなら、もし、家族として愛情を注いでくれたなら今の「私」は目覚めなかったかもしれない。
たらればを言っても今更かと気づいて苦笑する。
「……そうだね。また、いつこの国に寄るか分からないし旅は始まったばかりだからね。こうしてヒデさんに出会えたんだし忘れないように目に焼き付けておかなきゃね」
私の言葉に、ヒデさんは遠くを見つめて答えた。
「……うん。僕にとって忘れられない出会いだから記憶に焼き付けておきたい。きっと、忘れたくても忘れられないけどね」
ああ、異世界に来て奴隷にさせられちゃったんだっけ。
それは忘れたくても忘れられないだろう。
せめて、これから良い思い出を増やして、辛い嫌な記憶が思い出せないくらい上書きしていってほしい。
私には祈ることしか出来ないけど、彼の心の傷が少しでも癒えるように願った。
そんなヒデさんに対して、私は殊更明るい声で話しかけた。
「さて、意見もまとまったし乗り合い馬車を探そう。乗り遅れたら大変だよ」
「うん、乗り合いってことは座席が埋まったら出発しちゃうんだよね?早く行こう」
ヒデさんの言葉を聞いて途端に不安が押し寄せてきた。
この世界の移動手段である乗り合い馬車の仕組みはよく分からないが、言葉通りならきっとそういうことなのだろう。
焦りを滲ませながら私は咄嗟にヒデさんの手を掴むと、乗り合い馬車を探すため足早にその場を後にした。
宿の女将さんの話しによると、国境までは徒歩で二日ほどの距離らしい。
「徒歩で二日かぁ……。て、え?もしかして……移動手段って徒歩?」
宿を出た瞬間、そう声にしたのはヒデさんだ。
そう呟いたヒデさんに、メイスが飄々と答える。
『そうだ。たった二日歩くだけだ。問題ないだろう』
「いやいやいや!問題あるでしょ!一日でどれくらいの距離を歩くつもりなの!?てか、今まで歩いて来たの!?」
ヒデさんに問いかけられて私は考える。
徒歩での移動が当たり前のことだと思っていたのだが、元の世界では移動手段はバスや電車などの公共交通機関が充実しており、一日中歩くことなんてなかった。
メイスの指導のおかげで身体強化すれば時間を短縮出来るし、何より全身に感じる風が心地良すぎて乗り合い馬車があったことすらすっかり忘れていた。
「ねぇ、メイス。すっかり忘れていたんだけど、乗り合い馬車があったよね?徒歩での移動も良いけど、偶には乗り合い馬車でのんびりと行くのも良いんじゃない?私、まだ乗り合い馬車に乗ったことがないから乗ってみたいな」
「ユーリさん……」
助け舟を出したつもりではなく純粋に乗り合い馬車に乗ってみたかっただけだったのだが、ヒデさんは目を潤ませて私を見つめている。
そこまで感動するほど歩きたくなかったのかな?
それもそうか。公共交通機関が充実していた日本で長い距離を歩くことなんて、余程の酔狂な人でもない限り歩こうなんて思わないよね。
以前、とある掲示板で関東から九州まで徒歩で縦断した人のスレッドを読んだけど、一日平均五十キロ歩けるなんて狂気の沙汰じゃないと当時の私は驚いたんだっけ。
徒歩で移動するのが当たり前になっていた私は、改めてヒデさんとの感覚のズレに軽くカルチャーショックを受けた。
前世の記憶に思いを馳せていたら、メイスは、ふむ、と呟いて考える素振りを見せた後、口を開いた。
『そうだな。ここまで来たら急ぐこともないだろう。俺も乗り合い馬車とやらに興味がある。のんびり国境を目指すのも悪くはないな』
どうやらメイスも乗り合い馬車に興味を持っていたようだ。
私は皆に視線を向けて他に意見がないか尋ねた。
「それじゃあ、乗り合い馬車で国境に向かうってことで良いかな?」
私の問いかけに真っ先に答えたのはヒデさんだった。
「うん!賛成!こっちに来てからのんびりと景色を見る余裕がなかったから、せめて国境まではのんびりとしたいな。……それに、この国も見納めかもしれないし」
見納め……。ヒデさんの口から出てきた言葉に体がピクリと反応する。
私はヒデさんから視線を逸らして辺りを見渡した。
あの家を飛び出してからというもの、目まぐるしい毎日で一欠けらも思い出すことはなかった。
メイスに加え、今ではブロンとヒデさんが仲間に加わって毎日が充実している。
だからなのか、あの離れでの辛かった記憶は随分と薄れていた。
たった数か月前のことなのに、私の中で上手く気持ちを消化出来ていたことに今更ながら驚いた。
元々、お母様以外の家族と会ったことがないのだから恨みようがないのだけれど。
それでも、もし、私とお母様を家族として迎え入れてくれていたなら、もし、家族として愛情を注いでくれたなら今の「私」は目覚めなかったかもしれない。
たらればを言っても今更かと気づいて苦笑する。
「……そうだね。また、いつこの国に寄るか分からないし旅は始まったばかりだからね。こうしてヒデさんに出会えたんだし忘れないように目に焼き付けておかなきゃね」
私の言葉に、ヒデさんは遠くを見つめて答えた。
「……うん。僕にとって忘れられない出会いだから記憶に焼き付けておきたい。きっと、忘れたくても忘れられないけどね」
ああ、異世界に来て奴隷にさせられちゃったんだっけ。
それは忘れたくても忘れられないだろう。
せめて、これから良い思い出を増やして、辛い嫌な記憶が思い出せないくらい上書きしていってほしい。
私には祈ることしか出来ないけど、彼の心の傷が少しでも癒えるように願った。
そんなヒデさんに対して、私は殊更明るい声で話しかけた。
「さて、意見もまとまったし乗り合い馬車を探そう。乗り遅れたら大変だよ」
「うん、乗り合いってことは座席が埋まったら出発しちゃうんだよね?早く行こう」
ヒデさんの言葉を聞いて途端に不安が押し寄せてきた。
この世界の移動手段である乗り合い馬車の仕組みはよく分からないが、言葉通りならきっとそういうことなのだろう。
焦りを滲ませながら私は咄嗟にヒデさんの手を掴むと、乗り合い馬車を探すため足早にその場を後にした。
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