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第二章
第86話 やっぱり朝はご飯と味噌汁が最高だね
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翌朝、凝り固まった体を解して身支度を整えてテントから出ると、すでに身支度を整えたヒデさんとメイスがテーブルを置いて椅子に腰かけていた。
微かに味噌の香りが漂っているが、テーブルの上にはまだ何も置かれていなかった。
私は、メイスとヒデさんに視線を向けて朝の挨拶をした。
「おはよう。二人共、早起きだね」
「おはよう。いやぁ、初めての野宿で緊張しちゃって……。なかなか寝付けずにいたらメイスさんが僕の話し相手になってくれたんだ。おかげでだいぶ緊張が解れたよ。ありがとう。メイスさん」
恥ずかしそうに頭を掻きながら説明をするヒデさんに、メイスはぷいっとそっぽを向いて答えた。
『……別に感謝されるほどのことはしていない。俺は寝なくても平気だからな』
相変わらずメイスの口調は俺様だけど、その声音は照れているように聞こえた。
メイスったら本当に素直じゃないんだから。
でも、そのさり気ない気遣いに私は何度も救われたのだ。
ここはスルーしておこう。
そう考えて私は違う話題を振った。
「良い匂いね。今朝は何を用意したの?」
話題を振られたメイスはテーブルに飛び乗ると、ご機嫌な様子で尻尾をゆらりと揺らして口を開いた。
『聞いて驚け。ヒデは料理の心得があってな、お前が王都で仕入れた米と味噌で手早く朝飯を作ったんだ。味見をしたが、なかなかのものだったぞ』
メイスはそう言いながら、出来立てのほかほかご飯と味噌汁を亜空間から出してテーブルに並べた。
そう言えば、王都を出発する前にメイスに米と調味料を半分ほど渡していたんだっけ。
大量におにぎりを作り置きしていたから、お米の出番がなくてすっかり忘れていたわ。
「わぁ……!ご飯と味噌汁だぁ!やっぱり朝はご飯と味噌汁が最高だよね!」
目を輝かせて弾んだ声を出した私に、ヒデさんが満面の笑みを浮かべてこくこくと頷く。
「だよね!僕ん家、両親が共働きでさ、朝は早くから夜は遅くまで働いていたからおばあちゃんの手料理を食べて育ったんだ。だから、朝はご飯と味噌汁じゃないと元気が出なくてさ。ユーリさんからおにぎりを貰った時にこの世界にもお米があるって知って嬉しかったんだ。そのことをメイスさんに話したらお米と味噌、他にも調味料を預かっているから作ってみろって言ってくれて」
感動したのか一気にまくし立てるように話したヒデさんは、そこで一旦話しを区切って小さく息を吐き出した後ポツリと呟いた。
「まさか、異世界で日本の料理が食べられるなんて想像していなかったから凄く嬉しい」
そうだった。
あの頃はヒデさんと出会ったばかりでバタバタとしていたから、グローブフォレスト商会で米や味噌、醬油など私達に馴染みのある調味料を購入していたことをヒデさんに伝えていなかったのを思い出した。
同じ日本人なのに、そこまで配慮していなかった自分が情けない。
「……なんか、ごめんね。バタバタしていたからそこまで気が回らなかった。言い忘れていたけど、この世界にも日本と同じ食材を取り扱っているお店があるよ。説明するのを忘れてしまってごめんね」
謝罪の言葉を口にした私に、ヒデさんは困惑した表情を浮かべて慌てて話し始めた。
「え?どうしてユーリさんが謝るの?だって、あの時は右も左も分からない僕のためにメイスさんもユーリさんも色々と助けてくれたでしょ。僕はおにぎりが食べられただけで十分感謝しているよ。僕の方こそ助けてくれてありがとう。それと、我儘言ってごめん」
どこら辺が我儘なのか分からないが、すでに助けたことに対して感謝の言葉は貰っているし、その話しはもう終わっている。
それに、ヒデさん自身が冒険者として自分のことは自分で稼いだお金で武具と防具を買い揃えたのだから、これ以上引け目に感じる必要はない。
どう返事をしたら良いのか困っていると、痺れを切らしたメイスが口を開いた。
『話しはそれくらいにして朝飯にするぞ。せっかく用意した飯が冷めてしまう。ヒデ、お前は無駄に悩むクセを何とかしろ。そんな調子だと、いつまでたっても独り立ち出来ないぞ』
メイスの言うことはもっともだ。
魔法にしても仕組みを理解しようと考えだしたらキリがないのと同じで、この世界は色んな不思議で満ち溢れている。
あと、この世界においてある程度の割り切った考えが出来なければ、冒険者なんて続けられない。
優しさや思いやりの気持ちだけで生きていけるほど、この世界は甘くはないのだ。
「そうそう。色々と悩んでも仕方ないんだから、もっと気楽に構えた方が良いよ。あっ、でも、魔物や盗賊には十分気をつけてね。それじゃあ、朝ご飯にしよう」
若干納得いかない表情をしていたヒデさんだったが、メイスと私の話しに頷き返すと居住まいを正した。
少し冷めてしまったが、ヒデさんが作ってくれた朝ご飯はとても優しい味をしていた。
微かに味噌の香りが漂っているが、テーブルの上にはまだ何も置かれていなかった。
私は、メイスとヒデさんに視線を向けて朝の挨拶をした。
「おはよう。二人共、早起きだね」
「おはよう。いやぁ、初めての野宿で緊張しちゃって……。なかなか寝付けずにいたらメイスさんが僕の話し相手になってくれたんだ。おかげでだいぶ緊張が解れたよ。ありがとう。メイスさん」
恥ずかしそうに頭を掻きながら説明をするヒデさんに、メイスはぷいっとそっぽを向いて答えた。
『……別に感謝されるほどのことはしていない。俺は寝なくても平気だからな』
相変わらずメイスの口調は俺様だけど、その声音は照れているように聞こえた。
メイスったら本当に素直じゃないんだから。
でも、そのさり気ない気遣いに私は何度も救われたのだ。
ここはスルーしておこう。
そう考えて私は違う話題を振った。
「良い匂いね。今朝は何を用意したの?」
話題を振られたメイスはテーブルに飛び乗ると、ご機嫌な様子で尻尾をゆらりと揺らして口を開いた。
『聞いて驚け。ヒデは料理の心得があってな、お前が王都で仕入れた米と味噌で手早く朝飯を作ったんだ。味見をしたが、なかなかのものだったぞ』
メイスはそう言いながら、出来立てのほかほかご飯と味噌汁を亜空間から出してテーブルに並べた。
そう言えば、王都を出発する前にメイスに米と調味料を半分ほど渡していたんだっけ。
大量におにぎりを作り置きしていたから、お米の出番がなくてすっかり忘れていたわ。
「わぁ……!ご飯と味噌汁だぁ!やっぱり朝はご飯と味噌汁が最高だよね!」
目を輝かせて弾んだ声を出した私に、ヒデさんが満面の笑みを浮かべてこくこくと頷く。
「だよね!僕ん家、両親が共働きでさ、朝は早くから夜は遅くまで働いていたからおばあちゃんの手料理を食べて育ったんだ。だから、朝はご飯と味噌汁じゃないと元気が出なくてさ。ユーリさんからおにぎりを貰った時にこの世界にもお米があるって知って嬉しかったんだ。そのことをメイスさんに話したらお米と味噌、他にも調味料を預かっているから作ってみろって言ってくれて」
感動したのか一気にまくし立てるように話したヒデさんは、そこで一旦話しを区切って小さく息を吐き出した後ポツリと呟いた。
「まさか、異世界で日本の料理が食べられるなんて想像していなかったから凄く嬉しい」
そうだった。
あの頃はヒデさんと出会ったばかりでバタバタとしていたから、グローブフォレスト商会で米や味噌、醬油など私達に馴染みのある調味料を購入していたことをヒデさんに伝えていなかったのを思い出した。
同じ日本人なのに、そこまで配慮していなかった自分が情けない。
「……なんか、ごめんね。バタバタしていたからそこまで気が回らなかった。言い忘れていたけど、この世界にも日本と同じ食材を取り扱っているお店があるよ。説明するのを忘れてしまってごめんね」
謝罪の言葉を口にした私に、ヒデさんは困惑した表情を浮かべて慌てて話し始めた。
「え?どうしてユーリさんが謝るの?だって、あの時は右も左も分からない僕のためにメイスさんもユーリさんも色々と助けてくれたでしょ。僕はおにぎりが食べられただけで十分感謝しているよ。僕の方こそ助けてくれてありがとう。それと、我儘言ってごめん」
どこら辺が我儘なのか分からないが、すでに助けたことに対して感謝の言葉は貰っているし、その話しはもう終わっている。
それに、ヒデさん自身が冒険者として自分のことは自分で稼いだお金で武具と防具を買い揃えたのだから、これ以上引け目に感じる必要はない。
どう返事をしたら良いのか困っていると、痺れを切らしたメイスが口を開いた。
『話しはそれくらいにして朝飯にするぞ。せっかく用意した飯が冷めてしまう。ヒデ、お前は無駄に悩むクセを何とかしろ。そんな調子だと、いつまでたっても独り立ち出来ないぞ』
メイスの言うことはもっともだ。
魔法にしても仕組みを理解しようと考えだしたらキリがないのと同じで、この世界は色んな不思議で満ち溢れている。
あと、この世界においてある程度の割り切った考えが出来なければ、冒険者なんて続けられない。
優しさや思いやりの気持ちだけで生きていけるほど、この世界は甘くはないのだ。
「そうそう。色々と悩んでも仕方ないんだから、もっと気楽に構えた方が良いよ。あっ、でも、魔物や盗賊には十分気をつけてね。それじゃあ、朝ご飯にしよう」
若干納得いかない表情をしていたヒデさんだったが、メイスと私の話しに頷き返すと居住まいを正した。
少し冷めてしまったが、ヒデさんが作ってくれた朝ご飯はとても優しい味をしていた。
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