転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

文字の大きさ
92 / 180
第二章

第92話 しょうちゃんと英雄ショータ

しおりを挟む
「……しょうちゃん?」

 驚きと困惑を滲ませたヒデさんの声を耳にして視線を向ける。
 ヒデさんは驚愕に目を見開いて、唇を震わせて銅像を凝視していた。
 ヒデさんのただならぬ雰囲気に、私は彼の背中を擦りながら声をかけた。

「ヒデさん?どうしたの?大丈夫?」

 驚かさないように優しく声をかけたのだが、彼にはその声が耳に届かなかったようで、銅像を見つめたままふらふらと吸い寄せられるように近づいて行った。
 ヒデさんは銅像の前まで行くと、顔を上げてジッと一点を見つめている。
 アレースさんと私は何が起きたのか分からずに、お互いの顔を見合わせて首を傾げた。
 しばらく銅像を見上げていたヒデさんの瞳から、一筋の涙が頬を伝うのが見えた。
 私は慌ててヒデさんのもとに駆け寄り、腕を引っ張って名前を呼んだ。

「ヒデさん!ヒデさん?」

 腕を引っ張られて我に返ったヒデさんは、のろのろとこちらに振り返ると、流れる涙に気がつかないまま口を開いた。

「……ユーリさん。しょうちゃんだよ。少し顔つきが大人っぽいけど、あの銅像はしょうちゃんだ。……どうして……」

 それだけ口にすると、ヒデさんは膝から崩れ落ちた。
 私はヒデさんの隣に膝をついて落ち着かせるように背中を擦りながら、ヒデさんが発した言葉の意味を考える。

 ヒデさんが言った「しょうちゃん」と「英雄ショータ」は同一人物だった?
 だとしたら、なぜ三百年も時間のズレがあるのだろうか。
 きっと、ヒデさんは「しょうちゃん」に会えるかもしれないという微かな希望を胸に頑張ってきたはずだ。
 非情な現実を突き付けられたとしたら、私なら現実を受け止められないだろう。
 かける言葉が見つからずにひたすらヒデさんの背中を擦っていると、少し離れた場所から見守っていたアレースさんが心配そうな表情をして声を投げかけてきた。

「ユーリ。ヒデがどうかしたのか?具合でも悪いのか?」

 返答に困っていると、メイスが脳内に語りかけてきた。

『ユーリ。あいつらとはここで別れよう。あの状態のヒデを連れて行けないだろう?ギルドの場所だけ聞いておけ』

 両膝をついて銅像を見上げながら静かに涙を流すヒデさんを見て、気持ちを落ち着ける時間が必要だと考えた私は、メイスの助言に素直に頷いた。

「ちょっと疲れが出たみたい。少し休めば大丈夫だと思うから、アレースさん達はギルドに行ってください。その前にギルドの場所を教えてもらえるとありがたいのですが。ご心配をおかけしてすみません。色々とありがとうございました」

 心配そうな面持ちのアレースさんに事情を説明して感謝の気持ちを伝えると、アレースさんは安堵の表情を浮かべて答えた。

「……そうか。それなら良かった。俺達が居てもかえって気が休まらないだろう。何かあったら俺達を頼ってくれ」

 アレースさんはそう答えると、冒険者ギルドの場所を教えてくれた。
 乗り合い馬車で偶々乗り合わせただけの関係なのに、同じ冒険者というだけでここまで心を砕いてくれるとは、アレースさんは本当に優しい人だ。

 アレースさん達と別れた私達は、一旦広場の隅に移動することにした。
 未だ、静かに涙を流すヒデさんの体を支えてベンチに座らせる。
 心ここにあらずといった様子ではあったが、私の声が全く聞こえていないわけではないようだ。

 しかし、英雄が私のご先祖様でヒデさんの親友だったなんて、あまりにも偶然が重なりすぎていない?
 まるで、見えない何かの力が働いたのではと勘ぐってしまうほどには不自然過ぎる。

 まさか、本当に神様が存在する……とか?

 でも、私、神様に会った記憶がないのよね。
 そんなことを悶々と考えていたら、膝の上に飛び降りてきたメイスが顔を覗き込んで言った。

『どうした?お前も具合が悪いのか?』

 その声にハッとしてメイスに視線を向ける。
 足元には、ブロンが耳と尻尾を垂れて心配そうに私を見上げていた。
 私は、慌てて笑みを浮かべると答えた。

「ううん。そうじゃなくて、ちょっと考え事をしていたの。具合が悪いわけじゃないから安心して」

 メイスとブロンに安心するように告げて、隣に座るヒデさんの様子を窺う。
 泣き腫らした目は真っ赤に充血していたものの、先ほどよりは若干落ち着きを取り戻したように見えた。
 それからしばらくの間、私達はベンチに腰を下ろしたまま静かに銅像を眺めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。 ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。 攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。 そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。 ※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。 ※ごくまれに残酷描写を含みます。 ※【小説家になろう】様にも掲載しています。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル
ファンタジー
※本作は改題・改稿をして場所を移動しました。 現在は 『従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々』 として連載中です。2026.1.31 どうして、魔獣と呼ばれる存在は悪者扱いされてしまうんだろう。 あんなに癒しをくれる、優しい子たちなのに。 そんな思いを抱いていた俺は、ある日突然、命を落とした――はずだった。 だけど、目を開けるとそこには女神さまがいて、俺は転生を勧められる。 そして与えられた力は、【嫌われ者とされる子たちを助けられる力】。 異世界で目覚めた俺は、頼りになる魔獣たちに囲まれて穏やかな暮らしを始めた。 畑を耕し、一緒にごはんを食べて、笑い合う日々。 ……なのに、人々の噂はこうだ。 「森に魔王がいる」 「強大な魔物を従えている」 「街を襲う準備をしている」 ――なんでそうなるの? 俺はただ、みんなと平和に暮らしたいだけなのに。 これは、嫌われ者と呼ばれるもふもふな魔獣たちと過ごす、 のんびり?ドタバタ?異世界スローライフの物語。 ■小説家になろう、カクヨムでも同時連載中です■

処理中です...