転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第二章

第109話 冒険の基本は体力

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 早朝ということもあり待ち時間もなく王都を出発した私達は、朝の涼しい時間のうちに出来るだけ距離を稼ごうと歩を進めていた。
 乗り合い馬車のように他人に気を遣う必要がないため、ブロンを自由にさせても咎められることもない。
 そのためなのか、ブロンは終始ご機嫌な様子で尻尾が左右に振りっぱなしである。
 ブロンの嬉しそうな後ろ姿を眺めていた私は、長時間窮屈な思いをさせていたことを反省した。

 舗装されていない道をひたすら歩いて行く。
 徒歩での移動は随分と久しぶりな気がして自然と笑顔になる。
 時折、ブロンが魔物の気配を察知しては魔物を狩りに行く以外は、概ね旅は順調に進んでいた。

 王都を発った日の夜。
 野営の準備を整えてようやく腰を落ち着けた私達は、作り置きしておいたおにぎりと味噌汁で軽く夕食を済ませた。
 満天に輝く星と月明かりの中、グローブフォレスト商会で購入したお茶を飲みながらカミール領までの旅程を話し合う。

「女将さんの話しによると、カミール領までは馬車だと六日から七日はかかるそうよ。でも、ここまで来たら目的地まであと少しなんだし別に急ぐこともないと思うのだけど、ヒデさんの意見はどうかな?」

 私は徒歩での移動に慣れているが、一日共に歩いているうちに、私とヒデさんでは体力の差があると気がついた。
 これは身体強化を掛けずに歩いた場合のみになるが、普段から徒歩で移動してきた私の足腰が自然と鍛えられていたことに関係がありそうだ。
 一方、公共交通機関が充実した日本での暮らしから、いきなりこの世界に飛ばされたヒデさんには非常に辛いことだったと思う。
 そんな考えもあり、遠回しにのんびりと行こうと提案したのだが、その提案を聞いたヒデさんの表情が明らかにホッと和らいだのを見逃さなかった。
 私の話しに耳を傾けていたヒデさんが、言い難そうに口を開いた。

「うん。僕もユーリさんの意見に賛成。……それに、今日一日歩いて思ったんだけど、メイスさんに鍛えられたといっても数日だし、ただ歩くだけで精一杯の僕にはこれ以上速く歩くのは厳しいかな。だから、ユーリさんの提案はすごく助かる。……冒険するには足腰も鍛えないといけないんだね。今更だけど、どれだけ恵まれた世界だったのか理解したよ」

 確かに、あの世界は飛行機に乗れば最低でも数時間で外国に行けた。
 インフラが整っていない国もあったが、それでも移動する手段は他にもあった。
 便利過ぎて当たり前だと思っていたからこそ、この世界の移動手段の少なさに驚くのも無理はない。
 
 元の世界に帰れる方法があるなら帰してあげたい。
 だけど、何となくだけど、彼を元の世界に帰せないだろうと気づいていた。
 ヒデさん自身気がついているのか分からないが、出会ってからというもの彼の口から「帰りたい」という言葉を聞いたことがなかった。
 もしかしたら、敢えて口にしないようにしているのかもしれない。
 前向きな彼の姿勢が健気で胸が締め付けられる。
 そんな私の思いを気取られないように笑みを浮かべると、努めて明るく振る舞った。

「そっか。なら、足腰をしっかり鍛えないといけないね。冒険の基本は体力だからね。何も魔物と闘うだけが冒険じゃないし逃げ延びるための脚力を鍛えるのは大事だよ。命大事に、てね」

 そう言ってお茶目に片目を瞑ってみせた。
 私の話しを真剣な眼差しで聞いていたヒデさんが、ぷっと吹き出した。

「ぷっ。ははっ。命大事に、か。確かにそうかも。この世界において足腰を鍛えるのは冒険者に必須条件なのは理解したよ。ユーリさんが言うと説得力があるよね」

 ヒデさんに言われて記憶を手繰り寄せる。
 そう言えば、街道沿いの魔物を討伐することはあっても自分から率先して倒そうとは考えていなかったな。
 最近ではブロンが魔物を狩ってくれるから、ますますそういった機会が減ったような気がする。
 ブロンが仲間に加わってから随分と楽をさせてもらっているけど、これも生存率を上げる一つの手段だと思えば問題ないはずだ。
 決してブロンに丸投げしたわけではない。
 自分に言い訳をしながら私は言葉を返す。

「そ、そう?足腰を鍛えるのは大事だからね。強い魔物が現れたらいつでも逃げ出せるくらい鍛えておかなきゃ」

 これは本音だ。
 いくらメイスが魔法に長けていても、いくらブロンが強くても、それ以上の存在が現れた場合、きっと私は二人の足手まといになってしまうだろう。
 だからせめて二人の邪魔にならないように足腰を鍛えておきたい。
 そう返したら、肩からメイスのため息交じりの呟きが漏れ聞こえた。

『はぁ~……。お前には俺がついている。それにお前が思っているよりお前は強い。何せこの俺がみっちりと鍛えたのだからな』

 ため息交じりのその声に反応した私は、ただ乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。
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