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第三章
第143話 ユーリという黒髪の少年(リュシアン視点)
しおりを挟む屋敷を去って行くユーリたちの背中を執務室の窓から見送ったあと、椅子に腰を下ろす。
ご先祖様と同じ黒い髪と瞳を持つあの少年は、いとも簡単に息子の病を看破して治してくれた。
まさか、魔力器官の未発達によるものだとは思いもしなかった。
カタリ、と引き出しを開けて片眼鏡を取り出すと、机に置かれたポーションを手にする。
この片眼鏡は特別な素材で造られた魔道具で、ギルドのものより鑑定能力が優れている。
レンズ越しにジッと見つめると、ポーションに使われた素材と魔法属性が表示された。
「ホーリー草で合っているが……従来のものとは違い純度が高いな。それと、濃密な魔力。これは光属性ではなく聖属性か?神殿の高位神官でもこれほどの魔力を持つ者は居ないだろう。……なるほど。聖属性であればホーリー草の効果を十分に引き出せるということか」
ポーションに使われた素材は、やはりホーリー草で間違いないようだ。
高名な医師曰く、ホーリー草の効果を最大限に引き出すことが出来るのは聖属性魔法だと言っていた。
しかし、聖属性を持つ者は非常に少なく、聞いた限りでは魔力量もそう多くはないとのことだった。
中々ホーリー草が手に入らず日々息子の病状が悪化していく中で、焦る気持ちだけが募っていった。
そんな時、不意にミシェルに面差しが似ているユーリという少年を思い出して、藁にも縋る想いで呼び出したのだが……。
「……はは。この十数年に渡る苦労を一瞬で解決するとはな。あの年齢で大したものだ」
肖像画でしか知らないご先祖様と同じ黒い髪と瞳を持つ少年。
キリアンからの報告で十歳の子供だと聞いた時は然程驚かなかったが興味はあった。
しかし、実際に会って会話を交わしてみれば、その年齢に見合わない言動に驚かされてしまった。
この時期にユーリと会えたのは、きっと神の思し召しかもしれない。
両手を組んで神に感謝の気持ちを捧げる。
妻も息子たちも、ルイスが元気になったと知ったら喜ぶだろう。
「ヘレナたちにも口外しないよう誓約書に署名させておかなければな」
引き出しから誓約書を取り出しながら口元が綻ぶ。
こんな高揚した気持ちは久しぶりだ。
その後、執務室にヘレナたちを呼び寄せて誓約書に署名するよう告げた。
人払いをして執務室には私とヘレナ、二人の息子たちだけとなったのを確認して口を開く。
「詳しい事情は言えない。だが、ルイスの病が完治したとだけ皆に伝えておく」
その言葉を聞いたヘレナが目に涙を浮かべて両手を組む。
「……ルイスの病が完治したのですか?……ああ、神よ。感謝いたします。それで、ルイスは今――」
今にもルイスの部屋に向かいかねない様子のヘレナを制して、私は静かに語りかけた。
「今は休ませている。完治したといっても体力が戻ったわけではないからな。今夜は静かに休ませてやろう」
不服そうではあったが、今はルイスを休ませた方が良いと即座に判断したヘレナが質問を投げかけてきた。
「……そうですわね。でも、高名な医師でも治せなかったというのに、一体どういうことですの?」
ヘレナの質問に同意するように、二人の息子の視線がこちらに向けられる。
私は逸る気持ちを抑えて、先にすべきことを口にした。
「そのことについてだが、先ず、誓約書に署名をしてくれ。話しはそれからだ」
三人は訝しみつつも誓約書に署名をすると、無言で話しの続きを促した。
「では、これから話すことは決して口外しないように」
そう前置きをして掻い摘んで事情を説明する。
三人は最初信じられないというような表情をしていたが、そのうち真剣な眼差しで耳を傾けていた。
説明を聞き終えた三人は居住まいを正すと、真っ直ぐに私に視線を向けて告げた。
「決して口外しないとお約束いたしますわ。ルイスのように今もなお苦しんでいる子供たちが居るのなら、ぜひお手伝いさせてくださいませ」
ヘレナの発言に二人の息子も大きく首を縦に振る。
家族が理解を示してくれて嬉しい。
その日から皆で意見を出し合い、それぞれが出来る範囲で役割を分担することとなった。
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