転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第三章

第142話 長く感じた一日

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 ポーション一本につき金貨十枚……。
 あまりにも高額な値段を提示されて頭が真っ白になる。
 それを不服と捉えられたのか、領主様は困ったように眉尻を下げて問いかけてきた。

「ユーリ殿?やはり金貨十枚では納得していただけぬか……。では、金貨二十枚にしよう。これで手を打ってはもらえまいか?」

「いやっ!そうじゃなくて!高いですって!」

 つい、心の声が漏れてしまった。
 ハッと我に返り口を手で覆ったが、領主様の耳にはしっかりと届いていたようだ。

「ふ、ははっ!あまりにも大人びているから忘れていたが、ユーリ殿はまだ十歳の子供なのであったな。子供らしい一面を見られて安心した」

 そうだった。
 忘れてしまいがちだけど、私はまだ十歳の子供なのだ。
 でも、今の私は平民の冒険者で、領主様は伯爵。
 器が大きい領主様だから多少の無礼があったとしても許してくれるかもしれないけど、それが選民意識の強い貴族が相手だったら……きっと何らかの処罰を受けていた恐れもあるだろう。
 領主様の寛大な心に感謝しかない。
 私は軽く咳払いをしたあと口を開いた。

「失礼いたしました。僕が言いたかったのは金額が高過ぎるのではということです。魔力器官が未発達な子供の中には当然平民の方もおられるでしょう。平民には無償で、貴族からは報酬を受け取るということですが、それでは採算が合わないのではありませんか?」

 ギョッと目を大きく見開いた領主様が、身を乗り出して否定する。

「そんなことはない。これでも提示した金額が少ないと私は考えている」

 私としては十分に高額だと思うのだけど、領主様の考えはそうではなさそうだ。

「僕は金儲けがしたいわけではありません。それに、これでも一応銀級冒険者です。お金には困っていません。……無償でお譲りするわけにはいきませんが、それでも領主様が提示した金額は高過ぎます。せめて三分の一、いえ、四分の一にしていただけないでしょうか」

 自慢じゃないけど、私はホーリー草を見つけるのが上手い。
 この街の周囲は強力な魔物が多いため、滅多に森に近づく領民は居ない。
 そのため、森の入り口付近にホーリー草が生えているのを偶然発見したので、しばらくはホーリー草の採取に困ることはないだろう。
 どうして他の冒険者たちの目に留まらなかったのか不思議で仕方ない。

「……それは、いくら何でも安すぎだ。では、提示した金額の半分ではどうだろう?」

 尚も食い下がる領主様に、私は正直に事情を説明することにした。

「実はこの前、偶然にもホーリー草がたくさん生えている場所を発見したんです。きっと、強力な魔物が居るから人の目につかなかったのでしょう。ですから、当分の間は定期的にポーションを提供出来ます。あっ、何なら場所をお教えしますよ?」

 そう説明した私の顔を驚愕の眼差しで見つめる領主様。
 何かおかしなことを言ったかな?
 沈黙に耐えられずに領主様から視線を逸らす。
 しばらくの沈黙のあとソファが軋む音がして領主様に視線を移すと、ふっと柔らかく微笑みを浮かべた領主様と視線が合った。
 ソファの背もたれに体を預けた領主様は、眉尻を下げてまるで自身の子供を見るような優しい眼差しを向けて静かに口を開いた。

「そういうことならユーリ殿のご厚意に甘えさせていただこう。しかし、ユーリ殿。ホーリー草は並の人間にはそう簡単に見つけ出せるものではない。今回は致し方ないことだったとはいえ、今後は軽々しくホーリー草の場所を話してはならん。わかったね?」

 ホーリー草は並の人間には簡単に見つけ出せない……?
 それって鑑定のスキルや探索スキルを持つ者が少ないということなのかな?
 場所を話すなということは、これからもあそこでホーリー草の採取を続けろってことだよね?
 独占してしまって大丈夫なのだろうか……。
 だけど、領主様に言われたら返す言葉は一つしかない。

「……はい。わかりました」

 その返事に満足した領主様は、再び報酬について話しを進めた。
 結局、最初に提示した金額の三分の一で話しが纏まり、その日はポーション十本を買い取ってもらうことになった。

 応接室に戻りヒデさんたちとホージ茶をいただいた私達は、帰りにホージ茶入りのクッキーをもらって帰路に就いた。
 緊張に続く緊張で精も根も尽き果てた私は、早々に休むことにした。

 実に長く感じた一日だった。
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