空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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大凍亜連合編・起

ep145 せめてお別れを言いたかった。

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「ちょ、ちょっと待って!? その装置ってまさか――」

 瀕死のジャラジャラ男が壁に這いつくばってまで作動させようとした装置。その狂気に満ちた言葉から、アタシもそれが何かを理解してしまう。
 それを理解した時にはもう遅く、ジャラジャラ男は崩れ落ちながら装置に取り付けられたレバーを倒してしまった。


 ドガァァアン! ドガァァアン!


「くっそ!? やっぱ、自爆装置だったか!?」
【このアジトごと爆破して、牙島どころか俺達まで道連れにするつもりか!? 冗談じゃないぞ!?】

 レバーを倒したと同時に建物の各所で響く爆発音。アタシの最悪の予感が的中してしまう。
 ジャラジャラ男がいた起動装置付近も爆発に巻き込まれ、結局はその命も無駄にしてしまった。
 一番巻き込みたかった牙島本人はもういない。あいつのことだから、こんな状況でも逃げ切れそうだ。

 ――ただ、問題はアタシ達の方にある。

「タケゾー! 居合君! は、早く脱出路に――」
【ダ、ダメだ! さっきの爆発で、外の通路も崩れ落ちてる!】
「そ、そんな……!?」

 こうなってしまうと、アタシも回復を待っている暇などない。
 なんとか力を振り絞り、ケースコーピオンの肩を担いで立ち上がる。
 だが最悪なことに、タケゾーが調べてくれた脱出路はすでに崩壊。他の脱出路を考えないといけないのだが――


 ドガァァアン! ドガァァアン!

 ドガァァァアアンッ!!


「わわっ!? ば、爆発が激しくなってる!?」

 ――アジトが爆発の影響で激しく揺らめき、とても動ける状況ですらない。
 居合君やケースコーピオンとも一緒になれて、アタシ達を遮っていた牙島も退けることができた。
 だというのに、こんなところで終わるっていうの? そんなのは嫌だ。

 ――絶対にこの場にいる全員で、タケゾーが待つ工場へと帰ってみせる。



「……ンギィ。自爆装置付近、外壁崩壊、確認……」
「え……? が、外壁……?」



 どうにか活路はないか必死に探していると、アタシの肩に寄り掛かっていたケースコーピオンが声をかけてきた。
 電撃魔術玉のせいでもうボロボロなのに、ある一点を指差しながら、アタシに何かを促してくれる。

 ――その指差された先を見ると、外壁が崩れて外の景色が見えていた。

「あ、あそこからなら、アタシが空を飛んで脱出できる! みんな! アタシに掴まって!」
【これだけの人数を抱えてか!? 本当にできるのか!?】
「無理でもなんでもやるしかないっての! もうこうなったら、火事場の馬鹿力でもクソ力でもなんでもいいから、やると言ったらやるよ!」

 死中に活を見出すとはこのことか。アタシはデバイスロッドを浮遊させ、そこに腰かける。
 もうあそこから脱出するしかない。ここで死力を振り絞らずして、いつ振り絞る。

 ――無理でも無茶でも、アタシはやってみせる。

「居合君! タケゾー! とにかく、このロッドのどこかに掴まってて! んぎぎぎ……!」
「隼さん! ボクの体、重たい! 定員オーバー! 置いていって!」
「そんなこと、できるわけないでしょ! 絶っっっ対に全員で脱出してみせるから!」

 だが、現実は非情なものだ。居合君もウィッチキャットもロッドにしがみついてくれたが、ケースコーピオンを抱えたままではまともに浮上することができない。
 毒は体から抜け始めているとはいえ、これまでの連戦でアタシ自身にもそこまで力が残っていない。
 居合君にも提案されてしまうが、ケースコーピオンを置いていくこともできない。置いていけば、一緒にアジトの爆発に巻き込まれてしまう。
 たとえもう元には戻れなくても、ケースコーピオンもショーちゃんの一部なんだ。

 もうこの際、アタシの心臓が壊れたっていい。
 生体コイルが焼き切れるレベルで稼働させて――



「インサイドブレード――いや、もう一人の僕。後のこと……頼んだ……」
「ショー……ちゃん?」



 ――その無茶をするために自らの左胸に手を当てていると、ケースコーピオンが再び語り掛けてきた。
 だが、その声はこれまでのように単語だけの無機質なものとは違う。
 どこか優しくて、思わず懐かしさまで感じてしまう声色。まるで、本当にショーちゃんが呼びかけるような声だ。

 そんな声を聞いて、アタシも思わず両目を見開いて固まってしまうが――



 ブォォオンッ!!


「ショ、ショーちゃん!?」
「さようなら……。そして、これからも僕の魂と――」



 ――次の瞬間、アタシ達はデバイスロッドごとケースコーピオンの金属アームにより、外壁にできた穴へと投げ飛ばされた。
 居合君もウィッチキャットもしがみついている。だが、アタシ達を外へ投げ飛ばしたケースコーピオンは――ショーちゃんだけは爆炎が続くアジトの中に残されてしまった。
 屋外へ飛び出しながらもアタシは必死に声をかけるが、ケースコーピオンショーちゃんはどこか満足げな声をしながらこちらを眺めるばかり。

 そして、その直後――


 ドゴォォォオオンッッ!!


 ――これまでよりも巨大な爆炎がビルを覆い、ケースコーピオンショーちゃんの姿も見えなくなってしまった。

「あ、ああぁ……!? そ、そんな……!? ショーちゃん……!?」
「隼さん! 構わないから、もっと飛んで!」
【今はとにかく逃げろ! もっと離れないと、爆風に巻き込まれるぞ! 佐々吹の想いを無駄にするな!】
「居合君、タケゾー……! うぅ……うあああぁあ!!」

 ケースコーピオンショーちゃんがどうしてこんな行動に出て、居合君ショーちゃんもどうしてこんなことを言うのかも分かってはいる。
 ショーちゃんはその身を犠牲にして、アタシ達を助けてくれた。ショーちゃんのおかげで、アタシ達はあの爆発から逃れることができた。
 それがもう人としての未来のないケースコーピオンショーちゃんにできた、アタシ達への想いから湧き出た最後の行動だ。

 アタシは爆炎巻き起こるビルに背を向け、涙を流しながら全速力で飛行へと移る。
 居合君ショーちゃんとウィッチキャットだけならば、重さで飛べないということもない。ケースコーピオンショーちゃんには本当に最後の最後まで助けられてしまった。



 ――だが、それ以上にケースコーピオンショーちゃんを見捨ててしまった後悔で胸が圧し潰されそうになる。



「うああぁあ! あああぁああ……!」
【隼……】
「隼さん……」

 それからのことはよく覚えていない。
 アタシはひたすら大声で泣きながら夜空を舞い、気がつけば帰るべき工場へと向かっていた。
 本来の目的であった居合君の救出には成功したが、後味が悪いなんて話ではない。



 ――アタシは守るべき人を、また守れなかった。
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