空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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大凍亜連合編・起

ep146 失ったけど、遺された魂を守ると決めた。

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「じゅ、隼! 居合君! 無事だったか!?」
「武蔵さん……。隼さん、すごく苦しんでる……」

 居合君とウィッチキャットを連れて、アタシは何とか工場まで逃げ延びることができた。
 すぐにウィッチキャットを操縦していたタケゾーが駆け寄り、アタシと居合君の体を抱きかかえてくれる。

「うああぁぁ……! タケゾー……! ショーちゃんが……ショーちゃんがぁ……!」

 アタシの方はというと、もう完全に心の中にあった様々な糸が切れてしまった。
 激闘による緊張。毒で消耗した肉体。ケースコーピオンショーちゃんを見捨ててしまった無念。
 あらゆる負荷が一気に体へとのしかかり、タケゾーの腕の中で泣き崩れてしまう。

 ――これらの中で何よりも悔やむべきは、ケースコーピオンショーちゃんを救い出せなかったこと。
 最後の別れの時、ケースコーピオンは確かにショーちゃんに戻っていた。そんなケースコーピオンを、アタシは見殺しにしてしまった。
 後悔と自責の念で泣くことしかできない。そんなアタシの体を、タケゾーは優しく抱きかかえてくれる。

「隼……。お前は本当によく頑張った。お前は悪くないし、佐々吹もお前を助けるためにあんな行動に出たんだ」
「でも……でもぉ……!」
「いいから今は休め。居合君。悪いんだが、隼の寝室で布団の準備をしてくれ」
「うん、分かった」

 泣き崩れることしかできないアタシを、タケゾーはおんぶしながら部屋まで運んでくれる。
 居合君もタケゾーの言葉に従い、先に部屋で布団の準備をしてくれる。
 こうやって気遣ってくれる優しさに感謝したいけど、もうアタシは心も体も限界だった。
 タケゾーの背中に体を預けながら、アタシはいつの間にか眠りについていた――





「……んうぅ。アタシ、あのまま寝ちゃってたのか……」

 ――次に目が覚めた時、アタシは自分の部屋のベッドの上で体を横にしていた。
 魔女服は解除していなかったのでそのままだが、空色の髪は元の黒髪に戻っている。
 窓からは朝陽が差し、あれから一晩中眠り続けていたようだ。
 どうにか体を起こしてみようとするが、やはり大きすぎる負荷が残っていて、体を動かすこと自体が苦しい。

「目が覚めたか、隼」
「タケゾー……。昨日は取り乱してごめん――ううぅ……!?」
「無理はするな。ほら、少しは胃に物を入れておけ」
「あ、ありがとう……」

 自室でそうこうしていると、タケゾーがお盆にお粥の入った器を乗せて室内へと入って来た。
 勝手に部屋に入られはしたけど、もうそんなことを気にする間柄でもなし。タケゾーはアタシのことを本当に気遣って、食べられそうな食事まで用意してくれている。

 ――それなのに、アタシの方はどうだろうか?
 アタシを愛してくれた人を見殺しにして、同じく愛してくれている人の厚意に甘えてばかり。
 何が空色の魔女だ。何が正義のヒーローだ。
 そんな自己嫌悪ばかりが募ってしまう。

「礼なら俺じゃなく、その子に言ってやりな。その子が必死に隼を看病してくれたのに、隼自身が落ち込んでばかりじゃいられないだろ?」
「その子……?」

 タケゾーはまたしてもアタシの気持ちを感じ取ったのか、お盆を近くの机に置きながら目線を別のところへ向ける。
 アタシが眠っていたベッドの足元に誰かいるようだが――



「あっ……居合君……」
「むにゃ……。隼さん、目を覚ました……?」



 ――そこにいたのはショーちゃんの魂を宿した人造人間、居合君の姿だった。
 眠り眼をこすりながらこちらに目線を向けてくるが、どうやら一晩中アタシに付き添ってくれていたようだ。
 こんなところまで迷惑をかけてしまい、アタシもさらに申し訳なさを感じてしまう。

 ――だけど、同時に嬉しくも感じてしまう。
 あの普段の生活からはるかに離れた異常な激闘から、こうやってみんなで一緒にいる日常に戻ってこれたことを実感できる。
 それでも、アタシにはどうしても心残りがある。

「居合君……ごめんね……! アタシ、君の――ショーちゃんの体を見捨てちゃった……!」

 アタシは横になったまま、涙を流して謝罪する。
 無礼も無様も承知の上だ。アタシに弁解の余地などない。
 ただただ泣きながら声にならない声を出し、必死に言葉を発していく。

「……隼さん、ボク、怒ってない。ボクもボクの体も、満足してる」
「そ、そんな優しさに甘えたって、アタシにはどうやって君への罪を償えばいいのかも……!」
「じゃあ、これからも一緒にいて。それがボクの――佐々吹 正司が遺した、最後の願いだから」

 そんなアタシに対し、居合君は頭を撫でながら落ち着いた声で諭してくれる。
 居合君がアタシに求めたのは、これからもこうして一緒にいるということ。それはまるで、本当にショーちゃんの願いを代弁したような言葉。
 居合君は自らの左胸に手を当て、言葉を紡いでいく。

「ボクの元の体、なくなった。でも、心はここに残ってる」
「ううぅ、ああぁ……! 居合君……! ショーちゃん……!」
「泣かなくて大丈夫。ボクは隼さんと武蔵さんと一緒がいい。ボクがここにやって来た時みたいに、一緒に暮らしたい」
「うぅ、うあぁぁ……!」

 その言葉の一つ一つが、アタシの重くなった心を軽くしてくれる。
 確かにもうショーちゃんは戻ってこない。だけど、まだその心はここにこうして残っている。



 ――ならば、後は言われるまでもない話だ。



「アタシはさ、居合君のことを守り切れるほど立派な人間じゃない。それでも、一緒にいてくれる?」
「うん。むしろ、ボクも守りたい。隼さんや武蔵さんを守って、もう一度、佐々吹 正司として生きたい」
「ありがとう……。本当にありがとう……!」

 こんなに幼くても、人の手で作られた人造人間でも、その胸には確かにショーちゃんの魂が宿っている。
 理由なんてそれだけで十分だ。アタシはこの子の親代わりとなり、もう一度この子の人生を歩ませてみせる。

「ねえ、タケゾー。また後で、養子縁組について調べてもらえるかな?」
「ああ、もちろんだ。俺と隼の二人で、この子を一人の人間として育てよう」
「戸籍もなんとかしたいんだけど、それは流石に難しいかな?」
「どうだろうな……。ただ、少しばかり俺にもアテがある。そっちは俺で動いてみるさ」

 アタシとタケゾーの夫婦も心に決めた。まだまだ若い夫婦だが、もう迷いも嘆きもしている場合でもない。
 ショーちゃんの生まれ変わりであるこの子は、アタシ達の手で育ててみせる。

「居合君――いや、違うね。今日から君は『佐々吹 正司』だね」
「ありがとう、隼さん、武蔵さん。ボク、その名前で生きていきたい」
「だったらさ、今後は『ショーちゃん』って呼んでもいいかな?」
「うん、お願い。今日からボクは佐々吹 正司。新しいショーちゃんになる」

 ショーちゃんは完全にいなくなったわけじゃない。
 こんな形で再びショーちゃんと過ごす日々が巡って来るとは思わなかったし、パンドラの箱を守る空色の魔女としての罪も責もある。
 それでも、今はただこの子に付けた新たな――いや、元の名前で呼びかけたい。

 これからへの未来に願いを込めながら、アタシは笑顔でその名を呼んだ。



「これからもよろしくね……ショーちゃん」
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