婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ

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婚約破棄、大いに結構

一話 王太子の宣告

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「――よって、私は君との婚約を破棄する」

 豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシス・フォン・ルーベルトが高らかに宣言した。

 周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。

 私は、この状況をただ静かに見つめていた。

「……そうですか」

 あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。

「えっ?」

 拍手でも求めていたのか、アレクシスは戸惑った顔を見せる。

「私との婚約を破棄すると言うのなら、それで結構です。ただし、それ相応の手続きを踏んでくださいね」

「ま、待て。それだけか? 君は私との婚約がなくなれば、公爵家の立場も――」

「それも理解しています」

 私の家、バートレイ公爵家は王国でも屈指の名門貴族。しかし、私は次女であり、跡を継ぐ立場にはない。婚約破棄されたところで、家からの支援は期待できないだろう。

 でも――

(もともと、期待なんてしてなかったし)

 私は心の中で小さくため息をついた。

「アレクシス様、それで? 婚約破棄の理由を正式にお聞きしても?」

 私は淡々と問いかける。すると、アレクシスは少し居心地悪そうに目を逸らしながらも、傍に立つ女性の手を取った。

「私は、本当に愛する人を見つけたんだ」

 王太子がそっとエスコートするその相手――侯爵令嬢リリアン。

 可憐な金髪に、涙を浮かべた美しい青い瞳。周囲の貴族たちは、感動したようにため息を漏らしている。

 彼女は小さな声で、震えるように言った。

「……ごめんなさい、セシリア様。でも、私……アレクシス様を愛してしまったの……」

 まるで悲劇のヒロインのような演技だ。

(ええ、知ってました)

 むしろ、彼女が裏でどんな手を使ったのか、知り尽くしている。

 使用人を買収して、私の化粧品にかぶれやすい成分を混ぜたこと。王太子の前で、私が他の男性と親しく話しているように見せかけたこと。果てには、私がリリアンをいじめていたという根も葉もない噂を流したこと――。

(でも、もうどうでもいいや)

 バカバカしい。

 今さら私が何を言っても、アレクシスはリリアンを信じるだろう。なら、余計なことは言わず、さっさと終わらせるのが賢明だ。

「そうですか」

 私は淡々と答えた。

「婚約破棄を受け入れます。ただし、正式な手続きをお願いしますね。慰謝料についても、後ほど書面で請求させていただきます」

「なっ……!?」

 アレクシスの顔が驚きに歪む。

「い、慰謝料!? そんなもの、必要ないだろう!?」

「正式な婚約破棄には、それ相応の処理が必要です。もちろん、王族といえど例外はありませんよ?」

 私はにこりと笑ってみせた。

 貴族社会には貴族社会のルールがある。婚約破棄を申し出た側が、それに見合った補償をするのは当然のこと。

「そ、それは……」

「では、正式な書類が整い次第、またお知らせくださいませ」

 私は優雅に礼をして、その場を後にした。

 王太子の「ま、待て!」という声が聞こえたけれど、もう興味はない。

 私はただ、真っ直ぐ出口へ向かう。

(……さて。ここからが、本当の自由だ)

 そう、私はこれで終わりじゃない。むしろ、ここからが私の人生の本番なのだから。

――婚約破棄、ありがとうございました。
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