婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ

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婚約破棄、大いに結構

九話 貴族の力、見せてあげる

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「……シルバーファングだなんて、聞いてないわよ」

 ミアさんが舌打ちしながら短剣を構える。

 シルバーファング――本来なら、こんな場所には現れないはずの中級魔獣。鋭い牙と素早い動きで知られ、まともに戦えば手ごわい相手だ。

 私も戦闘経験は少ないが、これがただの狼ではないことくらいは分かる。

(どうする……?)

 逃げるべきか、戦うべきか。

 ……いや、逃げられるならそれに越したことはない。

「ミアさん、退路はありますか?」

「……あるけど、あいつの動きを見てからじゃないと危険ね」

 シルバーファングは鋭い目でこちらを睨みながら、低く唸っている。

 警戒しているだけなら、刺激しなければそのまま去ってくれるかもしれない。

 だが、そんな淡い期待はすぐに打ち砕かれた。

 次の瞬間――

「っ――!」

 シルバーファングが一気に跳躍し、私たちの方へ飛びかかってきたのだ。

「くっ!」

 私は反射的に魔法を発動させた。

「《エア・シールド》!」

 風の壁を作り、シルバーファングの突進を受け止める。

 衝撃で足が少し滑るが、なんとか耐えきった。

「……やるじゃない」

 ミアさんが目を見開く。

「でも、まだ終わりじゃないわよ!」

 彼女はすかさず短剣を投げ、シルバーファングの足元を狙った。

 狙いは正確だったが、相手の素早さが上回った。

 シルバーファングはひらりと身を翻し、短剣を避ける。

「ちっ、やっぱり厄介ね」

 ミアさんが歯噛みする。

 だが――私は落ち着いていた。

「ミアさん、もう少し時間を稼げますか?」

「……何か考えがあるの?」

「はい。少し派手にやります」

 私は右手を前に出し、魔力を込めた。

(貴族らしく、お上品に戦え……なんて言われてたけど)

 私は貴族じゃなくなったのだから、そんなものは必要ない。

「《エア・ブレード》!」

 風の刃がシルバーファングの足元を斬り裂く。

「――ッ!」

 魔獣がバランスを崩した、その一瞬の隙を逃さない。

「《エア・インパクト》!」

 魔力を込めた風の衝撃波を放つ。

 それはシルバーファングの身体をまともに打ち抜き、勢いよく吹き飛ばした。

 木の幹に叩きつけられた魔獣は、一度よろめいた後――動かなくなった。

「……やった?」

 私は慎重に様子を伺う。

 しばらくしても動かないのを確認し、ようやく息をついた。

「……新入りのくせに、やるじゃない」

 ミアさんが肩をすくめながら言った。

「まさか貴族のお嬢様がここまでやるとはね」

「……まだまだ、ですけどね」

 私は息を整えながら微笑む。

 戦いは想像以上に疲れるものだったが、私は確かな手応えを感じていた。

(この力があれば、私はもう”ただの貴族令嬢”じゃない)

 ギルドで生きるために、私はもっと強くなる。

 そう決意しながら、私はシルバーファングの亡骸を見下ろした。
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