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32.長姉も年の差婚です
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「私はラウル様に謝るつもりは一切ありません」
取り合えずそのことは宣言しておく。
寧ろ散々迷惑行為をして来た向こうが土下座すべきだ。
しかしラウルが心から謝罪する姿を想像出来ない。それこそ私のように別人にならない限りは。
私の発言を受けて彼の兄であるフェリクスは静かに返した。
「ああ、わかっている」
「相手の大切な物を隠して謝罪を要求するなんて異常ですよ、私なら謝るどころか激怒します」
というか現在進行形でしている。
自室に施錠せず伯爵邸を出た私も不用心だったが、嫌がらせで鍵をかけられるなんて思わなかった。
しかも犯人はラウルだ。部屋が荒らされている可能性だってゼロでは無い。
「ラウル様が伯爵夫人室の鍵を持ち去った件ですけど」
「ああ」
「もし室内の私物が壊されたり汚されていた場合、厳重に抗議しますから」
「それは……」
「弁償や謝罪を求める相手は当然ラウル様です。貴方へ肩代わりしてもらうことは絶対許しません」
私が言うとフェリクスは困ったような顔をした。
「しかしそれだと、マリアン嬢への賠償が完了しない可能性がある」
「それはフェリクス様が考える事ではありません。私とラウル様の揉め事ですので」
「だがラウルはアンベール伯爵家の人間だ、責任は俺にある」
「だとしたらフェリクス様が当主として彼を罰してくださるのですか?」
「ラウルに俺が罰を……?」
「はい、責任とはそういうものだと思います」
厳しい口調で告げると彼は黙った。それはつまり出来ないと口にしたのも同様だ。
どうして彼はあの弟に対してここまで無力なのだろう。
力では圧勝だろうし、立場だってフェリクスの方が上だ。
彼はアンベール伯爵家当主で、この家では一番偉い存在の筈なのに。
ラウルも、執事も、そして彼の母親である前伯爵夫人も彼をどこか軽んじている気がする。
特に執事はラウルを庇う為フェリクスに罪を擦り付けようとした。有り得ないことだ。
そんなことが当たり前に行われているこの家は矢張り普通ではない。
「それと執事のアーノルドですが、私は彼にも罰が必要だと思います」
「先程聞いたように、君に対して非協力的だったことにだろうか?」
確認するように問われて首を振る。
それもあるが、それだけではない。
「彼は長年執事をしていたとは思えない程無礼です。下手な嘘も平気で吐きますし」
「それは……すまない」
「つい先程も私と一緒に来てくれた長姉に対し噛みつくような口調で会話していました」
そこまで言って思い出す。そういえば前伯爵夫人が倒れたことに関してまだ報告していなかった。
アルマ姉さんが落ち着き払っていたから大したことではないと無意識に考えたのかもしれない。
しかしフェリクスにとっては母親だ。
私は今更だが前伯爵夫人が気を失ったことを彼に教えようとした。
だがフェリクスは母が倒れたという事実を知る前から顔を青くしていた。
「……ローランド大公夫人が、いらしておられるのか?」
姉の嫁ぎ先の名前を出されて私は頷いた。
アルマ姉さんはローランド大公殿下、今年四十五歳になる王弟殿下の配偶者だ。
流石に伯爵家当主で王太子と親しい彼はことの重大さに即気づいたらしい。
寧ろ執事が当主妻の家族について把握してなさそうなのが異常だ。アーノルドって本当に執事なのだろうか。
アルマ姉さんが王弟殿下の妻だと知ってあの態度なら逆に凄いけれど。
多分長姉はあの執事の無礼過ぎる態度を少し面白がっている。だから身分をはっきりと告げなかったのだ。
それでも普通は気づくと思う。目の前にいる彼のように。
「補足ですけれど執事のアーノルドは姉に対し何度も怒鳴ってましたよ」
私からそれを聞いたフェリクスは今にも倒れそうだった。
取り合えずそのことは宣言しておく。
寧ろ散々迷惑行為をして来た向こうが土下座すべきだ。
しかしラウルが心から謝罪する姿を想像出来ない。それこそ私のように別人にならない限りは。
私の発言を受けて彼の兄であるフェリクスは静かに返した。
「ああ、わかっている」
「相手の大切な物を隠して謝罪を要求するなんて異常ですよ、私なら謝るどころか激怒します」
というか現在進行形でしている。
自室に施錠せず伯爵邸を出た私も不用心だったが、嫌がらせで鍵をかけられるなんて思わなかった。
しかも犯人はラウルだ。部屋が荒らされている可能性だってゼロでは無い。
「ラウル様が伯爵夫人室の鍵を持ち去った件ですけど」
「ああ」
「もし室内の私物が壊されたり汚されていた場合、厳重に抗議しますから」
「それは……」
「弁償や謝罪を求める相手は当然ラウル様です。貴方へ肩代わりしてもらうことは絶対許しません」
私が言うとフェリクスは困ったような顔をした。
「しかしそれだと、マリアン嬢への賠償が完了しない可能性がある」
「それはフェリクス様が考える事ではありません。私とラウル様の揉め事ですので」
「だがラウルはアンベール伯爵家の人間だ、責任は俺にある」
「だとしたらフェリクス様が当主として彼を罰してくださるのですか?」
「ラウルに俺が罰を……?」
「はい、責任とはそういうものだと思います」
厳しい口調で告げると彼は黙った。それはつまり出来ないと口にしたのも同様だ。
どうして彼はあの弟に対してここまで無力なのだろう。
力では圧勝だろうし、立場だってフェリクスの方が上だ。
彼はアンベール伯爵家当主で、この家では一番偉い存在の筈なのに。
ラウルも、執事も、そして彼の母親である前伯爵夫人も彼をどこか軽んじている気がする。
特に執事はラウルを庇う為フェリクスに罪を擦り付けようとした。有り得ないことだ。
そんなことが当たり前に行われているこの家は矢張り普通ではない。
「それと執事のアーノルドですが、私は彼にも罰が必要だと思います」
「先程聞いたように、君に対して非協力的だったことにだろうか?」
確認するように問われて首を振る。
それもあるが、それだけではない。
「彼は長年執事をしていたとは思えない程無礼です。下手な嘘も平気で吐きますし」
「それは……すまない」
「つい先程も私と一緒に来てくれた長姉に対し噛みつくような口調で会話していました」
そこまで言って思い出す。そういえば前伯爵夫人が倒れたことに関してまだ報告していなかった。
アルマ姉さんが落ち着き払っていたから大したことではないと無意識に考えたのかもしれない。
しかしフェリクスにとっては母親だ。
私は今更だが前伯爵夫人が気を失ったことを彼に教えようとした。
だがフェリクスは母が倒れたという事実を知る前から顔を青くしていた。
「……ローランド大公夫人が、いらしておられるのか?」
姉の嫁ぎ先の名前を出されて私は頷いた。
アルマ姉さんはローランド大公殿下、今年四十五歳になる王弟殿下の配偶者だ。
流石に伯爵家当主で王太子と親しい彼はことの重大さに即気づいたらしい。
寧ろ執事が当主妻の家族について把握してなさそうなのが異常だ。アーノルドって本当に執事なのだろうか。
アルマ姉さんが王弟殿下の妻だと知ってあの態度なら逆に凄いけれど。
多分長姉はあの執事の無礼過ぎる態度を少し面白がっている。だから身分をはっきりと告げなかったのだ。
それでも普通は気づくと思う。目の前にいる彼のように。
「補足ですけれど執事のアーノルドは姉に対し何度も怒鳴ってましたよ」
私からそれを聞いたフェリクスは今にも倒れそうだった。
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