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33.問題人物しかいない家
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アルマ姉さんは今の私ぐらいの年齢で大公殿下に嫁いだ。
夫婦の年齢差はなんと十五歳。私とフェリクスよりも開いている。
つまり彼女が顔も身分も良いのに三十過ぎても独身の人間に問題があると言ったのは夫という実例があったからだ。
ただ大公殿下の問題というのは王位継承に関してのゴタゴタという分かり易いものではあったが。
姉の来訪を知り顔を青くしているフェリクスにやっと話が伝わる相手が出たという安堵と共に微かな苛立ちと疑問もある。
そんな風に顔色を変えて姉を怖れるのに、その妹である私によく毎日愛してないと言えたなと。
私がアルマ姉さんに泣きつくことを考えなかったのだろうか。
彼女じゃなくても、公爵である私の父でも良い。
それとも自分に惚れ切っている私が、告げ口などする筈無いと慢心していたのか。
多分そうだろう。私は自分を見下して来た伯爵家の使用人たちを頭に浮かべた。
フェリクスの愛人のようにふるまっていたメイドのマーベラに、ラウルを私よりも常に優先する執事のアーノルド。
公爵令嬢であり伯爵夫人であったマリアンが本来伯爵家の使用人である彼らに軽んじられる訳がない。
ならどうしてそんな異常事態が起こったのか。
考えられる原因は大きく三つ。
伯爵家当主であるフェリクスの私を自分の妻として扱わなかったこと。
私がそれに抗議しなかったこと。
寧ろ彼や伯爵家の人間に好かれる為媚びるような真似までしてしまったこと。
これらがフェリクスや使用人たちの油断を招いたのだろう。
私相手ならどれだけ馬鹿にし扱いを悪くしても大丈夫だろうと。
そこまで考えて、頭の隅に何かが引っ掛かった。
しかしフェリクスに話しかけられた為思考が中断する。
「当伯爵家の執事が……大公夫人に大変無礼な真似をした。心から謝罪する」
そう言って頭を下げる彼を自分でも驚く程冷めた気持ちで眺めた。
姉に対しての無礼なら謝るのかと怒りに似た気持ちが一瞬浮かんだが霧散する。
政略結婚で嫌々結婚したことを隠さなくて済まなかったと謝られても、きっと惨めになるだけだ。
「私と姉は別の人間ですので、私に謝罪されても困ります」
私がそう口にするとフェリクスは会話が下手な子供のように押し黙った。
でも事実しか伝えていない。姉に対する無礼を私に対して謝罪するのはおかしい。
「それと、もし執事のアーノルドを庇えと仰られてもお断りさせて頂きます」
補足するように言葉を続ける。
寧ろ庇うどころかマーベラのように罷免してしまえと思っている。
「フェリクス様も下手に彼を庇うよりも当主として毅然と裁くべきです」
「それは……」
フェリクスは苦悩を顔に浮かべたが慰める言葉は浮かばなかった。
確かに長年仕えている人間をクビにするのは難しいかもしれないが、あの執事については早急に取り換えた方が良いと思う。
アルマ姉さんに対する無礼な対応もだが、何よりアーノルドは伯爵家当主よりも別の人物を優先している気がするのだ。
忠誠心の無さが丸わかりな執事なんて雇っていてもデメリットしか無いだろう。
「メイドのマーベラの時はそうされたではありませんか」
「マーベラは……いや、確かにマリアン嬢の言う通りだ。大公夫人に直接詫びることにしよう」
フェリクスがやや不自然に話題を変え歩き出す。
しかしこの場で突っ立っていても仕方ないので私も食い下がることはしなかった。
ただ姉たちの所に戻る前に伝えなければいけないことがある。私は口を開いた。
「フェリクス様、貴方のお母様ですが姉と話していて急に倒れました」
「……そうか。恐らく大公夫人に反論が難しいことを言われたのだろう。いつものことだ」
疲れたように言う彼に、やっぱりあれは演技だったのかと思う。
しかもフェリクスの発言からして一度や二度では無さそうだ。
自分に不都合な話題になるとああやって倒れて追求を止めて来たのだろう。
前伯爵夫人もラウルと同じぐらいか、もしかしたらそれ以上に厄介な気質の人物だった。
夫婦の年齢差はなんと十五歳。私とフェリクスよりも開いている。
つまり彼女が顔も身分も良いのに三十過ぎても独身の人間に問題があると言ったのは夫という実例があったからだ。
ただ大公殿下の問題というのは王位継承に関してのゴタゴタという分かり易いものではあったが。
姉の来訪を知り顔を青くしているフェリクスにやっと話が伝わる相手が出たという安堵と共に微かな苛立ちと疑問もある。
そんな風に顔色を変えて姉を怖れるのに、その妹である私によく毎日愛してないと言えたなと。
私がアルマ姉さんに泣きつくことを考えなかったのだろうか。
彼女じゃなくても、公爵である私の父でも良い。
それとも自分に惚れ切っている私が、告げ口などする筈無いと慢心していたのか。
多分そうだろう。私は自分を見下して来た伯爵家の使用人たちを頭に浮かべた。
フェリクスの愛人のようにふるまっていたメイドのマーベラに、ラウルを私よりも常に優先する執事のアーノルド。
公爵令嬢であり伯爵夫人であったマリアンが本来伯爵家の使用人である彼らに軽んじられる訳がない。
ならどうしてそんな異常事態が起こったのか。
考えられる原因は大きく三つ。
伯爵家当主であるフェリクスの私を自分の妻として扱わなかったこと。
私がそれに抗議しなかったこと。
寧ろ彼や伯爵家の人間に好かれる為媚びるような真似までしてしまったこと。
これらがフェリクスや使用人たちの油断を招いたのだろう。
私相手ならどれだけ馬鹿にし扱いを悪くしても大丈夫だろうと。
そこまで考えて、頭の隅に何かが引っ掛かった。
しかしフェリクスに話しかけられた為思考が中断する。
「当伯爵家の執事が……大公夫人に大変無礼な真似をした。心から謝罪する」
そう言って頭を下げる彼を自分でも驚く程冷めた気持ちで眺めた。
姉に対しての無礼なら謝るのかと怒りに似た気持ちが一瞬浮かんだが霧散する。
政略結婚で嫌々結婚したことを隠さなくて済まなかったと謝られても、きっと惨めになるだけだ。
「私と姉は別の人間ですので、私に謝罪されても困ります」
私がそう口にするとフェリクスは会話が下手な子供のように押し黙った。
でも事実しか伝えていない。姉に対する無礼を私に対して謝罪するのはおかしい。
「それと、もし執事のアーノルドを庇えと仰られてもお断りさせて頂きます」
補足するように言葉を続ける。
寧ろ庇うどころかマーベラのように罷免してしまえと思っている。
「フェリクス様も下手に彼を庇うよりも当主として毅然と裁くべきです」
「それは……」
フェリクスは苦悩を顔に浮かべたが慰める言葉は浮かばなかった。
確かに長年仕えている人間をクビにするのは難しいかもしれないが、あの執事については早急に取り換えた方が良いと思う。
アルマ姉さんに対する無礼な対応もだが、何よりアーノルドは伯爵家当主よりも別の人物を優先している気がするのだ。
忠誠心の無さが丸わかりな執事なんて雇っていてもデメリットしか無いだろう。
「メイドのマーベラの時はそうされたではありませんか」
「マーベラは……いや、確かにマリアン嬢の言う通りだ。大公夫人に直接詫びることにしよう」
フェリクスがやや不自然に話題を変え歩き出す。
しかしこの場で突っ立っていても仕方ないので私も食い下がることはしなかった。
ただ姉たちの所に戻る前に伝えなければいけないことがある。私は口を開いた。
「フェリクス様、貴方のお母様ですが姉と話していて急に倒れました」
「……そうか。恐らく大公夫人に反論が難しいことを言われたのだろう。いつものことだ」
疲れたように言う彼に、やっぱりあれは演技だったのかと思う。
しかもフェリクスの発言からして一度や二度では無さそうだ。
自分に不都合な話題になるとああやって倒れて追求を止めて来たのだろう。
前伯爵夫人もラウルと同じぐらいか、もしかしたらそれ以上に厄介な気質の人物だった。
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