10 / 106
第一部
10.
しおりを挟む
「なんで俺じゃなく父様の部屋に行くんだよ!」
レオは怒りと混乱でトマトのようになった顔で私に抗議した。
「貴方の保護者はケビン様なので」
「父様に言いつけるとか卑怯だぞ!」
「何とでも仰ってください、痛くも痒くもないです」
「お前っ、お前っ……生意気なんだよっ!」
その後、爆発を何度か繰り返しつつレオは廊下で自分の悪事を次々と話した。
どうやらレオはおやつを横取りすれば私が怒ってすぐ自分の部屋に乗り込んでくると思ったらしい。
私の事が自分と同世代の子供に見えているのだろうか。
なのに全然自分の部屋に姿を現さないから業を煮やして自分から出向いた。
でも留守だったのでそのまま屋敷を探し始めたらしかった。
「腹減って死にそうな筈なのに何で取り返しに来ないんだ!」
ぶんぶんと腕を乱暴に振りながら言うレオの言葉に、私は気になる点を見つける。
「何故私がそこまで空腹だと知っているのですか?」
「は?だって朝食パンとスープだけだったろ」
「知りたいのは私が空腹な理由じゃなくて、なぜそれを貴方が知っているかなんですけど?」
私が腕組みをしながら言うとレオは胸を張って告げた。
「俺がお前付きのメイドに命じたからな、罠を張るには下準備が必要なんだよ」
お前は女だから理解出来ないだろうけどな。
わざわざ余計な一言を付け加えてレオは自信満々に胸を張る。
「成程……」
納得したような私の頷きに更にレオは得意げになった。感嘆と納得の区別がついていないのだろう。
つまり最初からグルだったのだ。
レオの命令でパンとスープだけの朝食が私の部屋に運ばれる。
それで量が足りないと私が怒り出す。そこでメイドがレオの仕業だと言う。
私が怒ってレオの部屋に乗り込んだら彼の言う狩りが開始という事か。
朝食で怒らなければ次の食事の量も減らすつもりだったのだろうか。
メイドがデザートを提案してきたのも今となっては疑わしい。デザートをレオに強奪されましたとでも言うつもりだったのか。
ただ頭の軽い娘だと思っていたが、正体はレオの手先だったようだ。
彼女がスパイだと気付かなかったことが少し悔しかった。
そうだとしたらケビンの部屋に入りたがらなかった理由もわかる。
どの道その場から逃げ出したところで末路は変わらないけれど。
「じゃあ私付きのメイドは解雇になるでしょうね、貴方のせいで無職になるとか可哀想に」
淡々と告げる。レオは驚いた顔をした。
「は?何でだよ?」
「何でって……貴方に私へ嫌がらせしろと命じられたのに当主に報告せず協力したからですよ」
レオに対し正義感で説教しろとまで思わない。
悪女だと思い込んでいる私に対し事情を話したり親切にすることも求めていない。
ただ、メイドの雇い主はレオでなくケビンだ。
公爵令息が公爵の新妻に大がかりな嫌がらせを仕掛ける。それを公爵に報告せず協力するのは駄目だろう。
「その通りだ、俺が命じてないことをした使用人は屋敷から出て行ってもらう」
低く威圧感のある声が頭の後ろから聞こえる。
「公爵様……」
「と、父様……」
扉が開く音がする。そちらに視線を向けると不機嫌さを隠さないケビンの姿が有った。
旅装を解いているので今日城下に向かう予定はキャンセルしたようだ。
「お前は勘違いしているようだな」
青い目がギロリと息子を睨んだ。先程までの勝ち気な様子は嘘のようにレオは怯える。
ケビンはいつ見ても機嫌の悪そうな顔をしている。この男が笑顔を浮かべることなどあるのだろか。
漫画内ではあった。ケビンの過去話と彼がエリカへ恋心を抱き始めた後なら。
ただそれが目の前の人物に結びつかないだけで。
「いつから俺が雇った使用人を自分の駒と勘違いしていた?」
「そ、それは……軽いいたずらのつもりで、」
「良いから答えろ、公爵家の使用人を金を払って雇っているのは誰だ。貴様か?」
「と、父様です」
涙目を通り越して号泣寸前のレオにケビンは容赦なく圧をかけていく。
私は二人のやり取りを嫌な気分で見ていた。
レオは叱る必要がある。しかしこの叱り方が正しいとは思えない。
嫌がらせをすること自体が駄目だと全く説明していないからだ。
(ケビンの言い分をレオが鵜呑みにして成長したら不味いことになる)
レオは次期公爵。公爵位を継げば屋敷の使用人は全て彼が雇ったことになる。
ケビンの叱り方だと、レオは自分が公爵になったら使用人を使って好き放題しても良いと勘違いする可能性がある。
(作者が昔エリカに会わないまま成長したレオのイラストを描いてたけれど……)
ケビン似の美形だったが、どう見ても悪役に成長したレオのイラストを思い出す。
彼は父以上の暴君となり領地で魔王のように恐れられていますという注釈がついていた。
エリカに救われた面を強調したくて話を盛ったのだろうが、ここに漫画内の心優しいエリカは居ないのだ。
このまま成長したらレオは魔王レベルの暴君公爵になる。
今こうやって父親に詰められる原因になった私にも復讐の刃を向けてくるだろう。
その頃私が公爵家にいなくても追手を差し向けてきそうだ。
(……それはちょっと阻止したいわね)
私は良く似た顔をした父と息子の間に割って入った。
レオは怒りと混乱でトマトのようになった顔で私に抗議した。
「貴方の保護者はケビン様なので」
「父様に言いつけるとか卑怯だぞ!」
「何とでも仰ってください、痛くも痒くもないです」
「お前っ、お前っ……生意気なんだよっ!」
その後、爆発を何度か繰り返しつつレオは廊下で自分の悪事を次々と話した。
どうやらレオはおやつを横取りすれば私が怒ってすぐ自分の部屋に乗り込んでくると思ったらしい。
私の事が自分と同世代の子供に見えているのだろうか。
なのに全然自分の部屋に姿を現さないから業を煮やして自分から出向いた。
でも留守だったのでそのまま屋敷を探し始めたらしかった。
「腹減って死にそうな筈なのに何で取り返しに来ないんだ!」
ぶんぶんと腕を乱暴に振りながら言うレオの言葉に、私は気になる点を見つける。
「何故私がそこまで空腹だと知っているのですか?」
「は?だって朝食パンとスープだけだったろ」
「知りたいのは私が空腹な理由じゃなくて、なぜそれを貴方が知っているかなんですけど?」
私が腕組みをしながら言うとレオは胸を張って告げた。
「俺がお前付きのメイドに命じたからな、罠を張るには下準備が必要なんだよ」
お前は女だから理解出来ないだろうけどな。
わざわざ余計な一言を付け加えてレオは自信満々に胸を張る。
「成程……」
納得したような私の頷きに更にレオは得意げになった。感嘆と納得の区別がついていないのだろう。
つまり最初からグルだったのだ。
レオの命令でパンとスープだけの朝食が私の部屋に運ばれる。
それで量が足りないと私が怒り出す。そこでメイドがレオの仕業だと言う。
私が怒ってレオの部屋に乗り込んだら彼の言う狩りが開始という事か。
朝食で怒らなければ次の食事の量も減らすつもりだったのだろうか。
メイドがデザートを提案してきたのも今となっては疑わしい。デザートをレオに強奪されましたとでも言うつもりだったのか。
ただ頭の軽い娘だと思っていたが、正体はレオの手先だったようだ。
彼女がスパイだと気付かなかったことが少し悔しかった。
そうだとしたらケビンの部屋に入りたがらなかった理由もわかる。
どの道その場から逃げ出したところで末路は変わらないけれど。
「じゃあ私付きのメイドは解雇になるでしょうね、貴方のせいで無職になるとか可哀想に」
淡々と告げる。レオは驚いた顔をした。
「は?何でだよ?」
「何でって……貴方に私へ嫌がらせしろと命じられたのに当主に報告せず協力したからですよ」
レオに対し正義感で説教しろとまで思わない。
悪女だと思い込んでいる私に対し事情を話したり親切にすることも求めていない。
ただ、メイドの雇い主はレオでなくケビンだ。
公爵令息が公爵の新妻に大がかりな嫌がらせを仕掛ける。それを公爵に報告せず協力するのは駄目だろう。
「その通りだ、俺が命じてないことをした使用人は屋敷から出て行ってもらう」
低く威圧感のある声が頭の後ろから聞こえる。
「公爵様……」
「と、父様……」
扉が開く音がする。そちらに視線を向けると不機嫌さを隠さないケビンの姿が有った。
旅装を解いているので今日城下に向かう予定はキャンセルしたようだ。
「お前は勘違いしているようだな」
青い目がギロリと息子を睨んだ。先程までの勝ち気な様子は嘘のようにレオは怯える。
ケビンはいつ見ても機嫌の悪そうな顔をしている。この男が笑顔を浮かべることなどあるのだろか。
漫画内ではあった。ケビンの過去話と彼がエリカへ恋心を抱き始めた後なら。
ただそれが目の前の人物に結びつかないだけで。
「いつから俺が雇った使用人を自分の駒と勘違いしていた?」
「そ、それは……軽いいたずらのつもりで、」
「良いから答えろ、公爵家の使用人を金を払って雇っているのは誰だ。貴様か?」
「と、父様です」
涙目を通り越して号泣寸前のレオにケビンは容赦なく圧をかけていく。
私は二人のやり取りを嫌な気分で見ていた。
レオは叱る必要がある。しかしこの叱り方が正しいとは思えない。
嫌がらせをすること自体が駄目だと全く説明していないからだ。
(ケビンの言い分をレオが鵜呑みにして成長したら不味いことになる)
レオは次期公爵。公爵位を継げば屋敷の使用人は全て彼が雇ったことになる。
ケビンの叱り方だと、レオは自分が公爵になったら使用人を使って好き放題しても良いと勘違いする可能性がある。
(作者が昔エリカに会わないまま成長したレオのイラストを描いてたけれど……)
ケビン似の美形だったが、どう見ても悪役に成長したレオのイラストを思い出す。
彼は父以上の暴君となり領地で魔王のように恐れられていますという注釈がついていた。
エリカに救われた面を強調したくて話を盛ったのだろうが、ここに漫画内の心優しいエリカは居ないのだ。
このまま成長したらレオは魔王レベルの暴君公爵になる。
今こうやって父親に詰められる原因になった私にも復讐の刃を向けてくるだろう。
その頃私が公爵家にいなくても追手を差し向けてきそうだ。
(……それはちょっと阻止したいわね)
私は良く似た顔をした父と息子の間に割って入った。
1,908
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる