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第一部
15.
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「アベニウス公爵家のメイドは廊下で騒ぐのも業務の一環なの?」
「いいえ、奥様。どの場でも騒ぐことは禁じられております」
そう、廊下の隅に移動したメイドが言う。
二人のメイドが口喧嘩をしている時に彼女は私を擁護していた。
(特に私に肩入れしてる様子は無かった。でもその方が信頼できる、好きだから味方をするというより余程)
私は箒を持っているメイドを無言で観察した。漆黒の髪は肩で綺麗に切り揃えられている。
派手さは無いが整った顔をしていて瞳は濃い茶色だった。
恐らく十代後半から二十代前半ぐらいだろうか。長身で落ち着いた表情をしているが肌は瑞々しい。
「一輪の花は氷を溶かす」のメインやサブキャラクターに彼女に似た人物はいなかった。
なので作中では恐らく大勢働いているメイドの内の一人でしかない。
だから整っているがそこまで目立つ外見では無いのだろう。
(この娘、日本人に似ている)
現金な事だがそれだけで私はこのメイドを少し気に入ってしまった。
「名前を教えて貰っていいかしら?」
「アイリ・アートンです」
「有難うアイリさん。では廊下でメイドが騒いでいた時の罰則は?」
「アイリで結構です奥様。罰を言い渡された当日から三日間夕食抜きになります。しかし公爵様や奥様から注意された場合はもっと重くなる筈です」
「ちょっと、何で余計なこと言うのよ!」
私付きのメイドが話に割って入る。
赤茶色の髪をポニーテールにして大きな緑色の瞳をしている。
睫毛も多くわかりやすく可愛らしい顔立ちだ。でも可愛いだけのメイドを私は必要としていない。
「アイリ、公爵夫人の話を遮った場合の罰則は?」
「……申し訳ございません。確認の為にお時間を頂いて宜しいでしょうか?」
私は自分付きのメイドにも話しかける。
「では貴方はわかる?」
「わかりません、でも私はこの子に話しかけただけで……」
「もう良いわ」
質問への正しい回答が欲しかっただけではない。
ベターな対応が出来るかも確認したかったのだ。寧ろそちらがメインだった。
「アイリ、騒いでいた理由を説明して頂戴」
「私は清掃を担当しているのですが、少し前に清掃したばかりの廊下に菓子屑が延々と落ちていて……」
「菓子屑が……」
じんわりと嫌な予感がした。
「掃除しつつ跡を辿るとポケットにクッキーを詰め込んで歩いていた彼女をこの場で発見しました」
その台詞に頭痛を堪えながら、私は公爵夫人付きメイドのポケットを見る。
濃紺のスカートは指摘通りクッキーの屑らしきもので汚れていた。確かにこのメイドは食い意地が張っていた。
だから食べ物を美味しそうに食べるエリカに親近感を抱いたし彼女の作るクッキーが大好きですぐ味方になった。
まるで桃太郎の犬みたいだなと思った。でも彼女は御伽噺の犬と違って報酬分の仕事をしない。
「ちっ、違います!」
そう言いながらポケットに手を突っ込む。クッキーを隠そうとした様だが何かが砕ける音がした。
今彼女が着ている服を何も知らない者が洗濯したら悲惨なことになるだろう。母親時代の記憶が疼いた。
「これは、奥様が好きなお菓子を一つだけ食べて良いと仰ったからで……」
「それは私が食べる為のお菓子をちゃんと用意出来たらが前提だけれど?」
「で、でもそれはレオ坊ちゃまが……お菓子を取り上げたせいで」
「その後私が別の食べ物を持ってくるようにと命じたら出来ないと言ったわよね? でも出来ているじゃない」
よく見たらスカートのポケットだけではなく、エプロンのポケットも変に膨らんでいる。中は食べ物だろう。
どこまで食い意地が張っているのかと呆れを通り越し怖くなってきた。
しかも命令は都合の良い部分だけ曲解するし、謝罪も出来ない。
「貴方、名前は?」
私は赤茶色の髪の少女な尋ねる。この質問は二回目だなと思った。
一回目の質問にも彼女は答えなかった。私に叱られて顔を青くするだけだった。
「名前は?」
「……セラです」
やっと聞けた名前は「一輪の花は氷を溶かす」でエリカと親友のようになるメイドと同名だった。
少しだけ寂しさと失望を感じる。漫画の中の彼女はお騒がせ担当だが場を明るくするキャラでもあった。
でも現実では付き合い切れない。
「セラ。貴方を解雇します」
「えっ……」
信じられないという表情でセラは私を見る。逆に何故そこまで青天の霹靂という様子でいられるのだろう。
公爵夫人である私に対しまず朝食の時に嫌がらせをして、その後も嘘を吐いて命令を破り、細かい部分は数えきれない。
「既に公爵様には解雇許可を頂いています」
「だって、私は、レオ坊ちゃまに言われて……!」
「彼は公爵様に厳しく叱られ罰を受けました」
「あのレオ坊ちゃまが?!」
セラが驚いたように言う。
そして益々顔色を悪くした。自分に逃げ場が無いとやっと理解したのだろう。
しかしセラは急に笑顔を浮かべ私へ駆け寄ろうとした。それをアイリが間に入って止める。
それでもセラは必死に私に訴えた。
「でもね、奥様っ、私はメイドで、公爵家の坊ちゃまに命令されたら逆らえないんですよ?!」
「公爵夫人には逆らえるのに?」
私がそう言うとセラは一気に表情を無くした。
「貴方の最大の罪は公爵子息から私を害する命令をされたのに、公爵にも妻である私にも何の報告もしなかったことです」
「そんな……」
がっくりとセラは廊下に蹲る。クッキーの屑が床にパラパラと落ちた。
「確か騒いだ罰は夕飯抜きだったわね……アイリ、彼女から食べ物を没収してください。それは貴方が好きに処分して構いません」
「かしこまりました、奥様」
「家令のホルガーの所にセラを連れて行って解雇する旨を伝えて頂戴。公爵の同意済みであることも」
「はい」
「セラが公爵夫人室の前で騒いで、貴方がそれを注意していたことも伝えてね」
私がアイリにそう指示するとセラは狡いと騒いだ。
反省という言葉を母親の胎内に置き忘れてきたのだろうか。
強烈なキャラクターであることには間違いなかった。
しかし何度も言うようだがリアルでは付き合いたくない。
(……さようなら、エリカの友達だったセラ)
私は心の中で彼女にお別れを言った。
「いいえ、奥様。どの場でも騒ぐことは禁じられております」
そう、廊下の隅に移動したメイドが言う。
二人のメイドが口喧嘩をしている時に彼女は私を擁護していた。
(特に私に肩入れしてる様子は無かった。でもその方が信頼できる、好きだから味方をするというより余程)
私は箒を持っているメイドを無言で観察した。漆黒の髪は肩で綺麗に切り揃えられている。
派手さは無いが整った顔をしていて瞳は濃い茶色だった。
恐らく十代後半から二十代前半ぐらいだろうか。長身で落ち着いた表情をしているが肌は瑞々しい。
「一輪の花は氷を溶かす」のメインやサブキャラクターに彼女に似た人物はいなかった。
なので作中では恐らく大勢働いているメイドの内の一人でしかない。
だから整っているがそこまで目立つ外見では無いのだろう。
(この娘、日本人に似ている)
現金な事だがそれだけで私はこのメイドを少し気に入ってしまった。
「名前を教えて貰っていいかしら?」
「アイリ・アートンです」
「有難うアイリさん。では廊下でメイドが騒いでいた時の罰則は?」
「アイリで結構です奥様。罰を言い渡された当日から三日間夕食抜きになります。しかし公爵様や奥様から注意された場合はもっと重くなる筈です」
「ちょっと、何で余計なこと言うのよ!」
私付きのメイドが話に割って入る。
赤茶色の髪をポニーテールにして大きな緑色の瞳をしている。
睫毛も多くわかりやすく可愛らしい顔立ちだ。でも可愛いだけのメイドを私は必要としていない。
「アイリ、公爵夫人の話を遮った場合の罰則は?」
「……申し訳ございません。確認の為にお時間を頂いて宜しいでしょうか?」
私は自分付きのメイドにも話しかける。
「では貴方はわかる?」
「わかりません、でも私はこの子に話しかけただけで……」
「もう良いわ」
質問への正しい回答が欲しかっただけではない。
ベターな対応が出来るかも確認したかったのだ。寧ろそちらがメインだった。
「アイリ、騒いでいた理由を説明して頂戴」
「私は清掃を担当しているのですが、少し前に清掃したばかりの廊下に菓子屑が延々と落ちていて……」
「菓子屑が……」
じんわりと嫌な予感がした。
「掃除しつつ跡を辿るとポケットにクッキーを詰め込んで歩いていた彼女をこの場で発見しました」
その台詞に頭痛を堪えながら、私は公爵夫人付きメイドのポケットを見る。
濃紺のスカートは指摘通りクッキーの屑らしきもので汚れていた。確かにこのメイドは食い意地が張っていた。
だから食べ物を美味しそうに食べるエリカに親近感を抱いたし彼女の作るクッキーが大好きですぐ味方になった。
まるで桃太郎の犬みたいだなと思った。でも彼女は御伽噺の犬と違って報酬分の仕事をしない。
「ちっ、違います!」
そう言いながらポケットに手を突っ込む。クッキーを隠そうとした様だが何かが砕ける音がした。
今彼女が着ている服を何も知らない者が洗濯したら悲惨なことになるだろう。母親時代の記憶が疼いた。
「これは、奥様が好きなお菓子を一つだけ食べて良いと仰ったからで……」
「それは私が食べる為のお菓子をちゃんと用意出来たらが前提だけれど?」
「で、でもそれはレオ坊ちゃまが……お菓子を取り上げたせいで」
「その後私が別の食べ物を持ってくるようにと命じたら出来ないと言ったわよね? でも出来ているじゃない」
よく見たらスカートのポケットだけではなく、エプロンのポケットも変に膨らんでいる。中は食べ物だろう。
どこまで食い意地が張っているのかと呆れを通り越し怖くなってきた。
しかも命令は都合の良い部分だけ曲解するし、謝罪も出来ない。
「貴方、名前は?」
私は赤茶色の髪の少女な尋ねる。この質問は二回目だなと思った。
一回目の質問にも彼女は答えなかった。私に叱られて顔を青くするだけだった。
「名前は?」
「……セラです」
やっと聞けた名前は「一輪の花は氷を溶かす」でエリカと親友のようになるメイドと同名だった。
少しだけ寂しさと失望を感じる。漫画の中の彼女はお騒がせ担当だが場を明るくするキャラでもあった。
でも現実では付き合い切れない。
「セラ。貴方を解雇します」
「えっ……」
信じられないという表情でセラは私を見る。逆に何故そこまで青天の霹靂という様子でいられるのだろう。
公爵夫人である私に対しまず朝食の時に嫌がらせをして、その後も嘘を吐いて命令を破り、細かい部分は数えきれない。
「既に公爵様には解雇許可を頂いています」
「だって、私は、レオ坊ちゃまに言われて……!」
「彼は公爵様に厳しく叱られ罰を受けました」
「あのレオ坊ちゃまが?!」
セラが驚いたように言う。
そして益々顔色を悪くした。自分に逃げ場が無いとやっと理解したのだろう。
しかしセラは急に笑顔を浮かべ私へ駆け寄ろうとした。それをアイリが間に入って止める。
それでもセラは必死に私に訴えた。
「でもね、奥様っ、私はメイドで、公爵家の坊ちゃまに命令されたら逆らえないんですよ?!」
「公爵夫人には逆らえるのに?」
私がそう言うとセラは一気に表情を無くした。
「貴方の最大の罪は公爵子息から私を害する命令をされたのに、公爵にも妻である私にも何の報告もしなかったことです」
「そんな……」
がっくりとセラは廊下に蹲る。クッキーの屑が床にパラパラと落ちた。
「確か騒いだ罰は夕飯抜きだったわね……アイリ、彼女から食べ物を没収してください。それは貴方が好きに処分して構いません」
「かしこまりました、奥様」
「家令のホルガーの所にセラを連れて行って解雇する旨を伝えて頂戴。公爵の同意済みであることも」
「はい」
「セラが公爵夫人室の前で騒いで、貴方がそれを注意していたことも伝えてね」
私がアイリにそう指示するとセラは狡いと騒いだ。
反省という言葉を母親の胎内に置き忘れてきたのだろうか。
強烈なキャラクターであることには間違いなかった。
しかし何度も言うようだがリアルでは付き合いたくない。
(……さようなら、エリカの友達だったセラ)
私は心の中で彼女にお別れを言った。
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