19 / 123
第一部
19.
しおりを挟む
家令を通じケビンは何故か私にマーベラ夫人の対処をするように言ってきた。
正直嫌がらせ以外の意図を感じない。
ケビン直々にマーベラ夫人に解雇は言い渡し済みだ。
それに対し後から抗議されても公爵夫人である私には何もできない。
公爵が解雇って言ったら解雇ですで終わりだ。
そう繰り返すだけなら家令のホルガーでも対応できるだろう。
(もしかしてクレーム対応力でも試すつもりかしらね)
私はそんなことを考えながら口を開いた。
「わかったわ。マーベラ夫人の話を聞くことにします」
「有難うございます」
深々とホルガーがお辞儀をする。
腰に悪そうだからやらなくていいと言ったが彼は頑として受け入れなかった。
家令交代の日は近いうちに来るだろう。
「ところでマーベラ夫人って今地下牢に居るのよね」
私が確認するとホルガーは唖然とした顔をした。
私はそれに疑問を抱く。原作ではマーベラ夫人は追い出されるまで地下牢に隔離されていた。
「いいえ、空き部屋の一つに隔離しております……地下牢の存在は旦那様からですか?」
ホルガーの疑問に少しだけ焦る。漫画で読んで知ってますなんて答えられる筈がない。
妥当な回答を考える。ケビンに教えて貰ったは駄目だ。万が一確認されたら嘘がバレてしまう。
「……オルソン伯爵家では、姉を怒らせる度に地下牢に入れてやると脅されたからこの屋敷にもあると思っただけよ」
「それは……」
ホルガーが絶句する。
やっぱり伯爵家の人間の対応ってこの世界でも別に常識ではないんだなと思った。
実際地下牢に入れられたことはない。子供のローズにそんな権限は無かったからだ。
ただ長女のローズは婿を取って伯爵家を継ぐ筈。
あのままエリカが伯爵邸に居続ければ本当に地下牢行きになったかもしれない。
(彼女が本当にオルソン伯爵家を継げればだけれど、ね)
ローズは今年二十四歳になる。
前世なら未来ある若者だが、この国では余程の理由が無ければ結婚し子供がいないと問題があると認識される年齢だ。
しかしローズは未婚で婚約者の影すら無かった。
過去に何人か候補らしき男性が正式な伯爵邸を訪れたが婚約者になることは無かった。
だからアベニウス公爵家が後妻を求めているという話にすぐ挙手することが出来たのだろう。
ただローズは結局結婚を嫌がって私を押し付けた。
つまり彼女は結婚予定も無く未婚のままだ。近い内に女伯爵になるという話も聞かなかった。
(エリカは男遊びの激しい悪女だと出鱈目な噂をローズたちに拡散されたけれど……本当の男好きは誰なのかしらね?)
私は歪む唇をそっと掌で隠した。
「マーベラ夫人を見ていると姉を思い出すの。私に暴力を振るおうとするところも同じだわ」
静かにそう訴える。自らの頬に手を添えた。
「解雇を言い渡されて逆上した夫人は私に襲い掛かって来たのよ、旦那様が止めてくれなければ私の顔には酷い傷が出来ていたわ」
もっと悪ければ失明したかもしれない。言い添えるとホルガーは顔を青くした。
「だから檻越しじゃなければ会話はしたくないの。マーベラ夫人は手を拘束したところで噛みついてきそうだから」
実際、マーベラ夫人は原作内で二回エリカに襲い掛かっている。危険なノルマは達成したくなかった。
「もし私が彼女に傷つけられたら、今よりもっと大事になるわ。貴方もきっと責任を問われる……わかってくれるわよね」
「……かしこまりました。マーベラ夫人を地下牢に移送します」
重くホルガーが答える。私は微笑んだ。
「もしマーベラ夫人が抵抗した場合は、公爵様の指示だと言えばいいわ。彼が私に対応を任せたのだから」
そう、彼女が恨むならケビンだ。
マーベラ夫人の対応を彼が私に丸投げしなければ、あの老女はわざわざ地下牢に移されることなど無かった。
そもそも抗議などしなければ良かったという話だが。
「そうだ、図書室で調べものがあるの。準備が終わったら呼びに来て頂戴」
私は立ち上がり家令に命じる。
マーベラ夫人と話す機会があるなら伝えたいことがあったのだ。
その為にこの国の歴史を確認することがある。
(マーベラ夫人、貴方がどれだけ愚かで危うい教育をしていたか……餞別代りに教えてあげる)
ホルガーの丁寧な了承の言葉を背に私は部屋から出た。
正直嫌がらせ以外の意図を感じない。
ケビン直々にマーベラ夫人に解雇は言い渡し済みだ。
それに対し後から抗議されても公爵夫人である私には何もできない。
公爵が解雇って言ったら解雇ですで終わりだ。
そう繰り返すだけなら家令のホルガーでも対応できるだろう。
(もしかしてクレーム対応力でも試すつもりかしらね)
私はそんなことを考えながら口を開いた。
「わかったわ。マーベラ夫人の話を聞くことにします」
「有難うございます」
深々とホルガーがお辞儀をする。
腰に悪そうだからやらなくていいと言ったが彼は頑として受け入れなかった。
家令交代の日は近いうちに来るだろう。
「ところでマーベラ夫人って今地下牢に居るのよね」
私が確認するとホルガーは唖然とした顔をした。
私はそれに疑問を抱く。原作ではマーベラ夫人は追い出されるまで地下牢に隔離されていた。
「いいえ、空き部屋の一つに隔離しております……地下牢の存在は旦那様からですか?」
ホルガーの疑問に少しだけ焦る。漫画で読んで知ってますなんて答えられる筈がない。
妥当な回答を考える。ケビンに教えて貰ったは駄目だ。万が一確認されたら嘘がバレてしまう。
「……オルソン伯爵家では、姉を怒らせる度に地下牢に入れてやると脅されたからこの屋敷にもあると思っただけよ」
「それは……」
ホルガーが絶句する。
やっぱり伯爵家の人間の対応ってこの世界でも別に常識ではないんだなと思った。
実際地下牢に入れられたことはない。子供のローズにそんな権限は無かったからだ。
ただ長女のローズは婿を取って伯爵家を継ぐ筈。
あのままエリカが伯爵邸に居続ければ本当に地下牢行きになったかもしれない。
(彼女が本当にオルソン伯爵家を継げればだけれど、ね)
ローズは今年二十四歳になる。
前世なら未来ある若者だが、この国では余程の理由が無ければ結婚し子供がいないと問題があると認識される年齢だ。
しかしローズは未婚で婚約者の影すら無かった。
過去に何人か候補らしき男性が正式な伯爵邸を訪れたが婚約者になることは無かった。
だからアベニウス公爵家が後妻を求めているという話にすぐ挙手することが出来たのだろう。
ただローズは結局結婚を嫌がって私を押し付けた。
つまり彼女は結婚予定も無く未婚のままだ。近い内に女伯爵になるという話も聞かなかった。
(エリカは男遊びの激しい悪女だと出鱈目な噂をローズたちに拡散されたけれど……本当の男好きは誰なのかしらね?)
私は歪む唇をそっと掌で隠した。
「マーベラ夫人を見ていると姉を思い出すの。私に暴力を振るおうとするところも同じだわ」
静かにそう訴える。自らの頬に手を添えた。
「解雇を言い渡されて逆上した夫人は私に襲い掛かって来たのよ、旦那様が止めてくれなければ私の顔には酷い傷が出来ていたわ」
もっと悪ければ失明したかもしれない。言い添えるとホルガーは顔を青くした。
「だから檻越しじゃなければ会話はしたくないの。マーベラ夫人は手を拘束したところで噛みついてきそうだから」
実際、マーベラ夫人は原作内で二回エリカに襲い掛かっている。危険なノルマは達成したくなかった。
「もし私が彼女に傷つけられたら、今よりもっと大事になるわ。貴方もきっと責任を問われる……わかってくれるわよね」
「……かしこまりました。マーベラ夫人を地下牢に移送します」
重くホルガーが答える。私は微笑んだ。
「もしマーベラ夫人が抵抗した場合は、公爵様の指示だと言えばいいわ。彼が私に対応を任せたのだから」
そう、彼女が恨むならケビンだ。
マーベラ夫人の対応を彼が私に丸投げしなければ、あの老女はわざわざ地下牢に移されることなど無かった。
そもそも抗議などしなければ良かったという話だが。
「そうだ、図書室で調べものがあるの。準備が終わったら呼びに来て頂戴」
私は立ち上がり家令に命じる。
マーベラ夫人と話す機会があるなら伝えたいことがあったのだ。
その為にこの国の歴史を確認することがある。
(マーベラ夫人、貴方がどれだけ愚かで危うい教育をしていたか……餞別代りに教えてあげる)
ホルガーの丁寧な了承の言葉を背に私は部屋から出た。
2,014
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
三年目の離婚から始まる二度目の人生
あい
恋愛
三年子ができなければ、無条件で離婚できる――王国の制度。
三年目の夜、オーレリアは自らその条文を使い、公爵ルートヴィッヒに離婚を告げた。
理由はただ一つ。
“飾り”として生きるのをやめ、自分の手で商いをしたいから。
女性が公の場で立てる服を作るため、彼女は屋敷を去り、仕立て屋〈オーレリア・テイラーズ〉を開く。
店は順調に軌道に乗り、ついに王女の式典衣装を任されることに。
だが、その夜――激しい雨の中、彼女は馬車事故に遭い命を落とす。
(あと少し早く始めていたら、もっと夢を叶えられたのに……)
そう思った瞬間、目を覚ますと――三年前、ルートヴィッヒと結婚する前の世界に戻っていた。
これは、“三年目の離婚”から始まる、二度目の人生。
今度こそ、自分の人生を選び取るために。
ーーー
不定期更新になります。
全45話前後で完結予定です、よろしくお願いします🙇
親同士の決め事でしょう?
泉花ゆき
恋愛
伯爵令嬢であるリリアーナは学園で知り合った侯爵令息のアルフレッドから婚約を申し込まれる。
リリアーナは婚約を喜んで受け、家族からも祝福された。
長期休みの日、彼の招待で侯爵家へ向かう。
するとそこには家族ぐるみで仲良くしているらしいカレンという女がいた。
「あなたがアルの婚約者?へえー、こんな子が好みだったんだあ」
「いや……これは親同士が決めたことで……」
(……ん?あなたからプロポーズされてここへ来たんだけど……)
アルフレッドの、自称一番仲のいい友達であるカレンを前にして、だんだんと疑問が溜まってきたころ。
誰よりもこの婚約を不服に思うリリアーナの弟が、公爵令息を連れて姉へと紹介しにくる。
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
うわさの行方
下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。
すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。
戦場から帰るまでは。
三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。
ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
繰り返しのその先は
みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、
私は悪女と呼ばれるようになった。
私が声を上げると、彼女は涙を流す。
そのたびに私の居場所はなくなっていく。
そして、とうとう命を落とした。
そう、死んでしまったはずだった。
なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。
婚約が決まったあの日の朝に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる