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第一部
31.
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レインは「女医」だ。男装の麗人という奴である。
一見線の細い美青年だが、確かにこうして間近で見ると手や腰回りなどのパーツが女性だとわかる。
けれど前世でレインが女性と判明した後は読者からかなりのクレームが来たらしい。
そう作者が単行本で語っていたが、正直仕方ない部分もある。
ケビンに似た美形で最初からエリカに優しくてしかもスキンシップ過多なレインは序盤の人気キャラだった。
初期ケビンはエリカに対して冷たく辛辣なだけに、余計レインとエリカの仲良しぶりに癒され期待する読者も多かったのかもしれない。
しかしそういったレイン派の読者は最終回までに何回も漫画で殴られる羽目になる。
まずレインの性別が女性だったこと。
次にレインが愛しているのはエリカではなくケビンであること。
ケビンとエリカの仲が深まっていくとエリカに嫉妬し闇落ちすること。
クレームが来た当てつけかと邪推する程、レインはどんどん暴走し迷走していく。
最終的にレインはケビンに完全に嫌われ二度と俺たちに姿を見せるなと言われてしまう。
そして医師も辞めて絶望し失踪してしまうのだ。
数年後の最終回で久し振りに再登場するが、彼女はあるサブキャラの妻となっている。
髪を伸ばしドレスを着て男装の麗人要素が完全に消えたレインのお腹は膨らんでいた。
私は外見どころか口調すら変わったレインを見て、このキャラのファンじゃなくて良かったと心の底から思ったものだ。
(この人、自分がそういう人生辿るって知ったらどんな顔するかしら)
私は目の前で戸惑った顔をしているレインを見ながら思った。
「上だけ脱いだので背中を診て貰っていいですか?」
「あ、ああ……わかった。そこの椅子に座って貰っていいかな」
「はい」
私は背中が見えるように椅子に座った。
その後ろに白衣を着たレインが立つ。暫く沈黙が場を支配した。
「確かに青い痣が出来ているけれど、あとこの裂傷は……古いね」
「そちらは異母姉のローズに鞭で打たれた時の物です」
「鞭で……?! どうしてそんな事を」
「彼女は鞭で遊びたかったと言っていました」
「……何て恐ろしい女性だ。それとこの痣は……本当にケビンがやったのかい?」
「そうです、公爵様に確認して頂いても結構です」
「そんな……女性には優しい男だと思ったのに」
傷ついたような声でレインが言う。
彼女は男を見る目が本当に無いのだ。
しかし意気消沈しながらも私の背中を素早く丁寧に手当てしていく。
「リリー様にだけは優しくしていたのかもしれませんね」
私が言うとレインは再度沈黙した。
無言のまま私のドレスのホックを留める。
「……リリー嬢のことは、ケビンから聞いたのかい?」
「はい、リリー様以外妻だと思わないと」
「……やっぱりそうか、だったら何故あいつは……」
「私なんかと再婚したか、ですか?」
私は顔をレインの方に向けた。
彼女が不思議がるのも仕方ない。王族とケビンのやり取りなんて知る筈も無いのだから。
私は前世の記憶から理由を知っているが、当然それを今ここで話す訳にはいかない。
「そうですね。再婚理由はわからないけれど異母姉のローズや私を相手に選んだ理由なら想像できます」
「君たちを選んだ理由?」
「恐らく離婚しやすいからかと。私も、そして姉も……悪女として噂になっているのでしょう?」
口だけで私が笑うとレインは腑に落ちたという表情をして、直後誤魔化すように咳払いをした。
そう、男好きの悪女の称号はエリカだけのものではないのだ。
(というか元々はローズが言われていたのよね)
異母姉のローズは男遊びが盛んだった。伯爵家長女なのに婚約者すら作らない程に。
しかしそれが過ぎて父親に叱られた。
それでも懲りないローズは異母妹エリカこそが男遊びの好きな悪女なのだと噂を流すことにした。
その上で私に成りすまして遊ぶことにしたのだ。
(でも別にそれでローズの男遊びの歴史が消えるわけじゃないし)
結果オルソン伯爵家の異母姉妹はどちらも男好きの悪女という評判になっただけだ。
(というか偽名使えば良かったのに。もう手遅れだけれど)
異母妹に罪を押し付けるにしてもローズが十八の時にエリカは十一歳だから無理がある。
そして私はアベニウス公爵家に嫁いだが、ローズは今後ちゃんと男遊びを我慢出来るのだろうか。
「確かにオルソン伯爵家から妻を迎えることに私の両親は最初から困惑していたな……何を考えているのかと」
「考えていたのは離婚する時のことでしょうね。なので私と公爵様の間には夫婦らしい交流は一切御座いません」
「……そうだったのか」
レインはあからさまにホッとして見せた。
原作の知識が無くても多少勘が鋭ければ彼女がケビンに特別な感情を抱いていると察するだろう。
私は口元を隠しながら溜息を吐いて見せた。
「ただ乱暴に抱いてやると言われ、無理やり接吻をされたりは致しましたが……」
「えっ」
「しかも子供の前で。流石に有り得ないと怒りました」
「……ケビンが? 本当に?」
「疑うのなら公爵様に確認して頂ければと」
私はレインの目を真っ直ぐに見て言う。
彼女の緑の瞳は見開かれ、揺らぎ、そして冷静さを取り戻したように見えた。
「……わかった。一旦信じる。背中の痣はその時に?」
「そうですね。その時にお前を妻とは思わないと宣言されて……なら寝室は別ですねと申し上げたらお怒りになって」
「訳が分からない……ケビンは何をしたいんだ」
呆然とした顔でレインが言う。
あの男が何をしたいかなんて、私こそが知りたいと思った。
一見線の細い美青年だが、確かにこうして間近で見ると手や腰回りなどのパーツが女性だとわかる。
けれど前世でレインが女性と判明した後は読者からかなりのクレームが来たらしい。
そう作者が単行本で語っていたが、正直仕方ない部分もある。
ケビンに似た美形で最初からエリカに優しくてしかもスキンシップ過多なレインは序盤の人気キャラだった。
初期ケビンはエリカに対して冷たく辛辣なだけに、余計レインとエリカの仲良しぶりに癒され期待する読者も多かったのかもしれない。
しかしそういったレイン派の読者は最終回までに何回も漫画で殴られる羽目になる。
まずレインの性別が女性だったこと。
次にレインが愛しているのはエリカではなくケビンであること。
ケビンとエリカの仲が深まっていくとエリカに嫉妬し闇落ちすること。
クレームが来た当てつけかと邪推する程、レインはどんどん暴走し迷走していく。
最終的にレインはケビンに完全に嫌われ二度と俺たちに姿を見せるなと言われてしまう。
そして医師も辞めて絶望し失踪してしまうのだ。
数年後の最終回で久し振りに再登場するが、彼女はあるサブキャラの妻となっている。
髪を伸ばしドレスを着て男装の麗人要素が完全に消えたレインのお腹は膨らんでいた。
私は外見どころか口調すら変わったレインを見て、このキャラのファンじゃなくて良かったと心の底から思ったものだ。
(この人、自分がそういう人生辿るって知ったらどんな顔するかしら)
私は目の前で戸惑った顔をしているレインを見ながら思った。
「上だけ脱いだので背中を診て貰っていいですか?」
「あ、ああ……わかった。そこの椅子に座って貰っていいかな」
「はい」
私は背中が見えるように椅子に座った。
その後ろに白衣を着たレインが立つ。暫く沈黙が場を支配した。
「確かに青い痣が出来ているけれど、あとこの裂傷は……古いね」
「そちらは異母姉のローズに鞭で打たれた時の物です」
「鞭で……?! どうしてそんな事を」
「彼女は鞭で遊びたかったと言っていました」
「……何て恐ろしい女性だ。それとこの痣は……本当にケビンがやったのかい?」
「そうです、公爵様に確認して頂いても結構です」
「そんな……女性には優しい男だと思ったのに」
傷ついたような声でレインが言う。
彼女は男を見る目が本当に無いのだ。
しかし意気消沈しながらも私の背中を素早く丁寧に手当てしていく。
「リリー様にだけは優しくしていたのかもしれませんね」
私が言うとレインは再度沈黙した。
無言のまま私のドレスのホックを留める。
「……リリー嬢のことは、ケビンから聞いたのかい?」
「はい、リリー様以外妻だと思わないと」
「……やっぱりそうか、だったら何故あいつは……」
「私なんかと再婚したか、ですか?」
私は顔をレインの方に向けた。
彼女が不思議がるのも仕方ない。王族とケビンのやり取りなんて知る筈も無いのだから。
私は前世の記憶から理由を知っているが、当然それを今ここで話す訳にはいかない。
「そうですね。再婚理由はわからないけれど異母姉のローズや私を相手に選んだ理由なら想像できます」
「君たちを選んだ理由?」
「恐らく離婚しやすいからかと。私も、そして姉も……悪女として噂になっているのでしょう?」
口だけで私が笑うとレインは腑に落ちたという表情をして、直後誤魔化すように咳払いをした。
そう、男好きの悪女の称号はエリカだけのものではないのだ。
(というか元々はローズが言われていたのよね)
異母姉のローズは男遊びが盛んだった。伯爵家長女なのに婚約者すら作らない程に。
しかしそれが過ぎて父親に叱られた。
それでも懲りないローズは異母妹エリカこそが男遊びの好きな悪女なのだと噂を流すことにした。
その上で私に成りすまして遊ぶことにしたのだ。
(でも別にそれでローズの男遊びの歴史が消えるわけじゃないし)
結果オルソン伯爵家の異母姉妹はどちらも男好きの悪女という評判になっただけだ。
(というか偽名使えば良かったのに。もう手遅れだけれど)
異母妹に罪を押し付けるにしてもローズが十八の時にエリカは十一歳だから無理がある。
そして私はアベニウス公爵家に嫁いだが、ローズは今後ちゃんと男遊びを我慢出来るのだろうか。
「確かにオルソン伯爵家から妻を迎えることに私の両親は最初から困惑していたな……何を考えているのかと」
「考えていたのは離婚する時のことでしょうね。なので私と公爵様の間には夫婦らしい交流は一切御座いません」
「……そうだったのか」
レインはあからさまにホッとして見せた。
原作の知識が無くても多少勘が鋭ければ彼女がケビンに特別な感情を抱いていると察するだろう。
私は口元を隠しながら溜息を吐いて見せた。
「ただ乱暴に抱いてやると言われ、無理やり接吻をされたりは致しましたが……」
「えっ」
「しかも子供の前で。流石に有り得ないと怒りました」
「……ケビンが? 本当に?」
「疑うのなら公爵様に確認して頂ければと」
私はレインの目を真っ直ぐに見て言う。
彼女の緑の瞳は見開かれ、揺らぎ、そして冷静さを取り戻したように見えた。
「……わかった。一旦信じる。背中の痣はその時に?」
「そうですね。その時にお前を妻とは思わないと宣言されて……なら寝室は別ですねと申し上げたらお怒りになって」
「訳が分からない……ケビンは何をしたいんだ」
呆然とした顔でレインが言う。
あの男が何をしたいかなんて、私こそが知りたいと思った。
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