77 / 106
第一部
77.
しおりを挟む
ブライアンを地下牢行きにするよう命じると私は事前に用意していた鍵を取り出す。
これは彼の部屋の合鍵だ。
暫く待っているとアイリが戻って来たので彼女を連れて移動した。
屋敷の中は珍しくざわついている。
下男のクレイグがブライアンを連行する姿を何人かが目撃したのだろう。
(まあ何かあったか気にはなるわよね)
そう考えるとカーヴェルはよくバレずにレオの部屋から救護室まで運ばれたと思う。
いや、バレても良かったのかもしれない。
使用人たちにとっては玄関で倒れようと子供部屋で倒れようと大した違いは無いのだろうから。
私だって最初から子供部屋でカーヴェルが倒れたと言われても、そこを不審がったりはしない。
ブライアンがわざわざ玄関で倒れたと嘘を吐いたから気になったのだ。
そんなことを考えながら歩いていると家令補佐用の個室の前に着く。
アイリが私から預かった鍵で扉を開けた。
「……ここがブライアンの部屋ね」
私は呟く。独身中年男性が寝起きする部屋だなという以外の感想は無い。
ただ、ふわりと香る甘い匂いが気になった。
花の香りのルームフレグランスでも使っているのだろうか。
あの常にどこか面倒臭そうな態度の中年男性と華やかなその香りは結び付かなかった。
「手紙やシーリングスタンプ、それ以外に気になる物があったら教えて頂戴」
「かしこまりました、奥様」
返事をしたアイリと一緒にブライアンの部屋を漁る。
原作の事件パートでも特に指紋鑑定とかは出てこなかったが一応アイリと一緒に手袋はしておいた。
戸棚や机の引き出しを漁ると鍵がかかっている引き出しがあった。
「……見るからに怪しいわね」
私は呟くと同じ机の別の引き出しを開ける。便箋と封筒が入っていた。
どちらも見覚えがある。はっきりと言ってしまえば偽の手紙に使われていた物だ。
封筒と便箋を取り上げて机の上に置く。
すると空になった引き出しの底から小さな鍵が出て来た。
「やる気の無い宝探しみたい」
そう言いながら小さな鍵を引き出しの鍵穴に試す。見事開いたそこには小さな紙袋があった。
そっと袋に指を入れて中の物を取り出す。薬包紙と粉薬らしきものが入っている。
「奥様、それは……」
アイリが私の手元に視線を向けて言う。
「多分、この流れだと睡眠薬よね」
私はそう返した。
ふとアイリが何かを持っていることに気付く。
「恐らくお探しのシーリングスタンプかと」
「後で確認してみましょう」
私は彼女からそれを受け取って持参した籠に入れた。
部屋に入ってから数十分も経っていない。けれど十分すぎる程の証拠は揃っている。
ここまで回りくどいことをしなくても、私が即ブライアンの部屋に押し入っておけはそれで解決したかもしれない。
ただ、私のやる事にはこの回りくどさが必要だった。
「じゃあこの証拠品を持ってブライアンに会いに行きましょう」
私はアイリに指示する。ふと華やかな香りの出所が知りたくなって部屋をうろついた。
「ここね」
ベッドサイドに香油が入った小瓶が置かれていた。
私の行動に気付いたのかアイリが近寄って来る。そしてくんと鼻を鳴らすと言った。
「こちら、奥様の香水と似た香りですね」
「えっ……」
一気に鳥肌が立った。
これは彼の部屋の合鍵だ。
暫く待っているとアイリが戻って来たので彼女を連れて移動した。
屋敷の中は珍しくざわついている。
下男のクレイグがブライアンを連行する姿を何人かが目撃したのだろう。
(まあ何かあったか気にはなるわよね)
そう考えるとカーヴェルはよくバレずにレオの部屋から救護室まで運ばれたと思う。
いや、バレても良かったのかもしれない。
使用人たちにとっては玄関で倒れようと子供部屋で倒れようと大した違いは無いのだろうから。
私だって最初から子供部屋でカーヴェルが倒れたと言われても、そこを不審がったりはしない。
ブライアンがわざわざ玄関で倒れたと嘘を吐いたから気になったのだ。
そんなことを考えながら歩いていると家令補佐用の個室の前に着く。
アイリが私から預かった鍵で扉を開けた。
「……ここがブライアンの部屋ね」
私は呟く。独身中年男性が寝起きする部屋だなという以外の感想は無い。
ただ、ふわりと香る甘い匂いが気になった。
花の香りのルームフレグランスでも使っているのだろうか。
あの常にどこか面倒臭そうな態度の中年男性と華やかなその香りは結び付かなかった。
「手紙やシーリングスタンプ、それ以外に気になる物があったら教えて頂戴」
「かしこまりました、奥様」
返事をしたアイリと一緒にブライアンの部屋を漁る。
原作の事件パートでも特に指紋鑑定とかは出てこなかったが一応アイリと一緒に手袋はしておいた。
戸棚や机の引き出しを漁ると鍵がかかっている引き出しがあった。
「……見るからに怪しいわね」
私は呟くと同じ机の別の引き出しを開ける。便箋と封筒が入っていた。
どちらも見覚えがある。はっきりと言ってしまえば偽の手紙に使われていた物だ。
封筒と便箋を取り上げて机の上に置く。
すると空になった引き出しの底から小さな鍵が出て来た。
「やる気の無い宝探しみたい」
そう言いながら小さな鍵を引き出しの鍵穴に試す。見事開いたそこには小さな紙袋があった。
そっと袋に指を入れて中の物を取り出す。薬包紙と粉薬らしきものが入っている。
「奥様、それは……」
アイリが私の手元に視線を向けて言う。
「多分、この流れだと睡眠薬よね」
私はそう返した。
ふとアイリが何かを持っていることに気付く。
「恐らくお探しのシーリングスタンプかと」
「後で確認してみましょう」
私は彼女からそれを受け取って持参した籠に入れた。
部屋に入ってから数十分も経っていない。けれど十分すぎる程の証拠は揃っている。
ここまで回りくどいことをしなくても、私が即ブライアンの部屋に押し入っておけはそれで解決したかもしれない。
ただ、私のやる事にはこの回りくどさが必要だった。
「じゃあこの証拠品を持ってブライアンに会いに行きましょう」
私はアイリに指示する。ふと華やかな香りの出所が知りたくなって部屋をうろついた。
「ここね」
ベッドサイドに香油が入った小瓶が置かれていた。
私の行動に気付いたのかアイリが近寄って来る。そしてくんと鼻を鳴らすと言った。
「こちら、奥様の香水と似た香りですね」
「えっ……」
一気に鳥肌が立った。
1,327
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる