誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ

文字の大きさ
78 / 106
第一部

78.

しおりを挟む
 実家から渡されて化粧品も香水も全部姉のお古だった。
 なのでドレスを新調する時についでに新しく揃え直した。
 ただ吟味する暇なんて無かったから無難な物をという指定だけして商人側に一式選んでもらった。
 
 私の注文通りどれも無難で香水も良い香りだけれど印象には残りにくいという品ではあった。
 既製品だろうし、普段なら似た香りを他人が纏っていてもそういうこともあるわよねと思うだけだろうけれど。

「ブライアンは奥様の香りを真似てこれを用意したのだと思います」

 アイリが歯に衣着せず口にする。私は苦笑いを浮かべた。

「この香りが気に入っただけかもしれないし、ただの偶然の可能性もあるわ」

 そう言いながら私自身が全くそんなことは思っていない。
 それどころかブライアンが私を女として見ているのではと邪推さえしている。

 確かにエリカの外見は美少女だ。
 しかも洗練されたきつめの美女ではなく頼りなさと可愛らしさの勝る美少女なのだ。
 顔つきというのは性格や表情でどんどん変わるらしいので今の私は原作エリカとは違った印象を周囲に与えているかもしれないけれど。

 ブライアンとエリカは親子ぐらい年が離れている。
 しかし娘のような年頃の少女を邪な目で見る男は実在するだろう。

(でも原作ではブライアンはエリカにそんな気持ちを抱いている素振りは無かった……)

 カーヴェルとエリカは「一輪の花は氷を溶かす」の中では口説いたり口説かれたりは全くしていない。
 エリカは公爵夫人でカーヴェルは家令なので当然ではある。
 ただ心理描写でしっかり二人とも相手に異性として惹かれてるなというのはわかったのだ。

 しかしブライアンは原作ではカーヴェルに対する嫉妬と憎しみの描写しかない。
 マレーナなどは特に何も無かった。レオのメイドの中では最年長でリーダー役っぽいぐらいだ。

 なのでこの二人が強烈な人物になったのは私の行動が引き金となった可能性がある。
 そんなことを考えているとアイリが口を開いた。

「きっとブライアンは奥様が気を使って色々声をかけて差し上げたのを勘違いしたのでしょうね」
「えっ」

 私は間抜けな声を上げる。アイリに冗談を言っている様子は無かった。
 確かに原作のエリカに比べれば私はブライアンに関わっている。

 それは彼が新人で年下のカーヴェルに嫉妬し問題を起こすのを事前にわかっていたからだ。
 ブライアンの事も軽んじていませんよというつもりで接していただけなのだが。

「……私、そんな風に誤解される行動をしていたのかしら」
「いいえ、ブライアンと奥様は年齢差も親子程ある上に公爵夫人と使用人です。更にブライアンには妻子がいます」
「そうよねえ……」

 妻子がいても他の女性に手を出す男がいるのは父親である伯爵の件でわかっている。
 だとしてもブライアンは予想外だった。だって私はあのケビンの妻なのだ。

「……ブライアンの家族が気の毒になるわ」

 私は心からそう思った。
 ブライアンはカーヴェルに敵意を抱くだけではなく抗議の手紙を偽装して自分で解決することで評価を上げようとした。
 これはいわゆるマッチポンプというものだろう。

 そしてブライアンがカーヴェルに薬を盛る動機は明確にある。自分が家令になる為に邪魔だという動機が。
 更に家令補佐の権力を使って手癖の悪いメイドを脅し利用することも出来るだろう。

(ただ原作でカーヴェルを失脚させようとした方法と全然違うのよね)

 漫画「一輪の花は氷を溶かす」ではブライアンはもっと巧妙な嫌がらせをしていた。
 カーヴェルの伝達不足を偽装したり、使用人にカーヴェルに対しての不信感を植え付けたりしていた。
 カーヴェルが家令として仕事しづらくなりパンクするのを待つような行動をしていたのだ。

 なので今回のブライアンの行動には第三者、具体的に言えばマレーナが主導していると私は考えている。
 しかしブライアンの部屋を漁ってもマレーナに関わる物は一切無かった。
 精々リーネが掠め取ったエミリエ作のシーリングスタンプぐらいだろう。後は睡眠薬らしき粉薬。
 ブライアンとついでにリーネだけ解雇して終わらせるならここまで手間はかけていない。

「……仕方ないわね、ブライアン本人に話を聞きましょう」

 私は溜息を吐きながら言った。正直彼の顔を見たくないというのが本音だ。
 地下牢にはクレイグがいる。万が一ブライアンが暴れても制圧してくれるだろう。

 ただブライアンの口からどんな言葉が吐き出されるのか、考えるだけでうんざりした。

しおりを挟む
感想 190

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...