序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ

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第二章

第38話 最強の逃亡者

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「あれあれ~私いつ君に自己紹介したっけ~」

 間延びした声が逆に恐ろしい。

「黄金級英雄なんて名乗った事も、ここ数十年無かった筈だけどな~」

 君ってもしかして見た目よりずっと歳食ってる?
 それは自分の方だろと突っ込みたくなるようなことを言いながらノアは黒い笑みを浮かべる。
 目の前のせいぜい二十代半ばにしか見えない剣士の実年齢は六十歳だ。
 
 黄金級の英雄、ノア・ブライトレス。
 ある国の守護竜を殺した呪いで不老になり、そして犯罪者として追われている。
 今は逃亡しつつ呪いを解く方法を探し世界中を旅している筈だ。
 俺の小説の設定と合致しているならの話だが。
 だがうっかり正体を口にした俺をここまで威圧するという事は御尋ね者の立場で間違いはないだろう。

 だったら黙っているから今すぐこの街から逃げてくれないだろうか。
 間違えても俺に対し口封じしようなんて考えないで欲しい。

「君ってもしかして……あの国の追手、とか?まさかね~」

 にこやかに笑いながら剣を抜こうとしないで欲しい。
 というか正体隠したいならその派手な外見をどうにかしろと思う。
 いや、竜の呪いのせいで髪とか染めても元の色に戻ってしまう設定だったか。

「落ち着いてくれ、俺は追手とかじゃないから。落ち着いて剣を鞘に戻して、そして部屋の隅に放り投げてくれ」
「追手じゃないと言いながらこっちを凶悪犯扱いしてるよね~」

 ちなみに投降するつもりはないよ。その言葉の直後俺の鼻先に煌く剣先が突き付けられる。
 電光石火とはこのことか。俺は反射的に降参のポーズをした。

「待て、女神に誓って俺はあんたの敵じゃない! 寧ろ、命の恩人だと思ってる」

 だから誰かに追われているなら、そのまま逃げてくれて構わない。
 寧ろ今すぐここを立ち去ってくれ。そう嘘偽りない本音を並べる。

「金が欲しいなら、その机の上の袋に金貨が入っているから」
「別に私は強盗犯になるつもりはないんだけど……君って、なんだか変だね~」

 クロノちゃんも変わった娘だけど、団員はリーダーに似る者かな?
 ミアンが聞いたら反論しそうなことを言いながら銀色の髪の英雄は剣を鞘に戻した。

「君は私の正体を知っているんだよね、でも追手ではない。これは本当~?」

 確認するように問われて俺は頷く。ここで下手に嘘を吐けば最悪の事態になるだろう。

「そうだよね、ちなみに今君には自白魔術を使っているから~」

 嘘を吐こうとすれば激痛でのたうち回ることになるんだ。
 事後報告でそう言われて俺は自分の判断を心の底から褒めた。

「でも、この魔術って嘘がわかるだけなんだよね~。私が知りたいのは君がどうして私のことを知っているかなんだけど」

 それは拷問で吐き出させるしかないのかな。
 淡々と口に出すのが脅しではないことを示している。

 嘘が駄目ならクロノから聞きましたは当然駄目だ。
 それにクロノにだってまだ偽名を名乗っている可能性が高い。
 ノア・ブライトとかいう隠す気のない名前を。

「クロノちゃんの知り合いを痛めつけたくないんだ、だから早く話してくれないかな~」

 ノアはどうやら俺が自分から吐き出すのを待っていたらしい。少し苛々した口調で急かされる。
 まあいい、考える時間は大分稼げた。要は嘘を言わなければいいのだ。

「俺があんたを知っているのは、前に読んだ物語に出ていたからだ」
「物語に?私が?」
「俺はクロノがこの世界最強の英雄になることを知っている。そしてあんたはクロノの師匠になるんだ」

 予想外のことを言われたからか金と赤の混じった瞳には戸惑いが浮かんでいた。
 それを見て俺は逆に平静を取り戻す。クロノの才能開花にノアの存在は必要だ。
 さっさと街から出て欲しいと思っていたが、ある程度クロノを鍛えてからにして貰いたい。
 その為には彼に俺が味方だと信じて貰う必要がある。

 俺はノアへ部屋に対し外へ話が聞こえないよう消音魔術を使うことを頼んだ。
 すると「さっきからずっと使っているよ」とあっさり返される。
 完全犯罪を犯す準備に慣れ切った人物と二人きりでいる事実に俺は再度内心で震えた。

 
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