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第4章 さいかい
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寝室に花音を誘い、翔はベッドの上で向き合って座った。
我ながら情けない、とは思うものの、聞かずにはいられないことがある。
「あのさ、花音」
こて、と首をかしげる仕草。可愛いよ、まったく、と無意味に毒づいて湧いてくる感情をごまかしたいのを堪えながら、その顔に手を当てて頬をやわやわと撫でた。くすぐったそうにする顔につい、どきりとして、いくつのガキだよ、と自分を罵りたくなった。
「花音、オレのことどう思ってる?」
「え?」
あまりにも今更な問いかけに花音が言葉を失うのを見て、翔の眉が下がる。
「ごめん。ちゃんと言葉にして聞かないと、不安で。オレが勝手なことをしたから、オレに申し訳ないからなのかな、て」
いや、それもないとは言いませんけどね、とつい思いながら、随分と情けない顔になっている翔を見上げた。こんな表情でもかっこいいって、整った顔は反則だらけだなぁ。
自分の頬にあてられた、骨張った大きな手に両手を添えて、頬から離して両手で包み込んだ。
「好きです」
「っ」
「わたしのこと、覚えていてくれて。迷わず手を差し伸べてくれて。ブレずに子どもたちの親になるって言ってくれて」
言葉にすると、なんて物足りなくて空々しい。そう思って花音の顔に困惑が浮かぶ。どう言えば、ちゃんと伝えられるのだろう、と。
ただ、翔にとっては十分だった。
何より、照れ屋で言葉にするのが下手な花音の精一杯の、なんとか伝えようと心から出してくれた言葉だとわかるから。
「翔くんは、本当にわたしでいいんですか?」
話し方はなおらない。
でも、呼び方は。
離れた間、子どもたちにそう呼んでいたのだろうか。嬉しくて、翔は自分でもどうしようもないほどに顔が緩むのがわかったから、隠すように花音を引き寄せて、自分の胸に抱き込んだ。
「花音がいいんだ」
掠れた声が花音の耳元で絞り出される。
苦しいほどに抱きしめられて、でも、その苦しさが抗えないほどの安心感をくれて。
花音は腕の中で身動ぎをして、少しだけ、動けるようになった翔の胸元から首を伸ばし、躊躇いがちに翔の頬にキスをした。
驚いた顔で花音を見下ろす翔に、どうしようもなく照れて顔を俯けたくなるのを堪えて、花音はほんのりと笑った。
「あー、もう!」
不意の翔の声に花音は驚いて反射的に体を離そうとするのだけれど、そんなことが許されるはずもなく。
「もう、逃げられないから、覚悟しろ。今度は、逃げたら連れ戻す」
「ずっと、翔くんにそう思ってもらえるようなわたしでいられるように、見張ってて」
言い終わらないうちに、噛み付くように翔は花音に口付ける。
苦しそうに最初、翔の胸を反射的に押し戻そうとした花音も、すぐに、翔の服の裾をきゅ、と握り、翔が与えるキスに応えた。少し唇が離れたときに苦しさに息を吸おうと花音が口を開けば、容赦なく翔はそこに自らの舌をねじ込み、固く緊張している花音の舌を誘い出そうとする。
どれくらいそうしていただろう。息遣いの音が耳について恥ずかしくて、ただ、翔から与えられる刺激が心地良くて愛おしくて。いっぱいいっぱいの花音を、不意に翔が唇を離して抱きすくめた。
「もう無理。これ以上やったら、オレの理性焼き切れる」
熱い吐息を耳元に感じて花音はびくり、と体を揺らした。それを宥めるように、ゆっくりと翔は花音の背中を撫でる。
「大丈夫。さすがに急にそんなこと、しない」
そう言うけれど。その声は掠れていて、体はも息も熱くて。顔を見せてはくれないから、その表情は見えないけれど。ただ、抱き寄せるわりに不自然な姿勢が、何よりも如実にこの人の状態を伝えてくれているようなもので。
花音が躊躇いがちに身を寄せれば、花音を抱え込む翔の兆したものに、花音の大腿が触れた。身を引こうとするのを引き止めるように、翔の脚の間で花音は身を乗り出し、今度は唇に触れるだけの、キスをした。照れ屋の花音に今頑張れる精一杯。いやもう、振り切っているくらいで。
「急じゃないですよ」
「花音、煽るな。止められなくなるから」
「急じゃないです」
煽る、と言うのが、どう言うことが花音にはわからない。多分、わかっていてそれができるくらいに長けていたなら、いろんなことが今と違っただろう。
だから、翔にとっては耐えがたいほどに煽ってくる。
「結婚何年目だと思ってるんですか」
悪戯っぽい笑みを浮かべられ。
翔は花音の背中に回した腕に力を込めるのと同時に、自分の顔を覗き込む花音に深く口付けた。今度は躊躇わず自分の熱を帯びた体を全て、余すところなく花音の体と密着させるように。
我ながら情けない、とは思うものの、聞かずにはいられないことがある。
「あのさ、花音」
こて、と首をかしげる仕草。可愛いよ、まったく、と無意味に毒づいて湧いてくる感情をごまかしたいのを堪えながら、その顔に手を当てて頬をやわやわと撫でた。くすぐったそうにする顔につい、どきりとして、いくつのガキだよ、と自分を罵りたくなった。
「花音、オレのことどう思ってる?」
「え?」
あまりにも今更な問いかけに花音が言葉を失うのを見て、翔の眉が下がる。
「ごめん。ちゃんと言葉にして聞かないと、不安で。オレが勝手なことをしたから、オレに申し訳ないからなのかな、て」
いや、それもないとは言いませんけどね、とつい思いながら、随分と情けない顔になっている翔を見上げた。こんな表情でもかっこいいって、整った顔は反則だらけだなぁ。
自分の頬にあてられた、骨張った大きな手に両手を添えて、頬から離して両手で包み込んだ。
「好きです」
「っ」
「わたしのこと、覚えていてくれて。迷わず手を差し伸べてくれて。ブレずに子どもたちの親になるって言ってくれて」
言葉にすると、なんて物足りなくて空々しい。そう思って花音の顔に困惑が浮かぶ。どう言えば、ちゃんと伝えられるのだろう、と。
ただ、翔にとっては十分だった。
何より、照れ屋で言葉にするのが下手な花音の精一杯の、なんとか伝えようと心から出してくれた言葉だとわかるから。
「翔くんは、本当にわたしでいいんですか?」
話し方はなおらない。
でも、呼び方は。
離れた間、子どもたちにそう呼んでいたのだろうか。嬉しくて、翔は自分でもどうしようもないほどに顔が緩むのがわかったから、隠すように花音を引き寄せて、自分の胸に抱き込んだ。
「花音がいいんだ」
掠れた声が花音の耳元で絞り出される。
苦しいほどに抱きしめられて、でも、その苦しさが抗えないほどの安心感をくれて。
花音は腕の中で身動ぎをして、少しだけ、動けるようになった翔の胸元から首を伸ばし、躊躇いがちに翔の頬にキスをした。
驚いた顔で花音を見下ろす翔に、どうしようもなく照れて顔を俯けたくなるのを堪えて、花音はほんのりと笑った。
「あー、もう!」
不意の翔の声に花音は驚いて反射的に体を離そうとするのだけれど、そんなことが許されるはずもなく。
「もう、逃げられないから、覚悟しろ。今度は、逃げたら連れ戻す」
「ずっと、翔くんにそう思ってもらえるようなわたしでいられるように、見張ってて」
言い終わらないうちに、噛み付くように翔は花音に口付ける。
苦しそうに最初、翔の胸を反射的に押し戻そうとした花音も、すぐに、翔の服の裾をきゅ、と握り、翔が与えるキスに応えた。少し唇が離れたときに苦しさに息を吸おうと花音が口を開けば、容赦なく翔はそこに自らの舌をねじ込み、固く緊張している花音の舌を誘い出そうとする。
どれくらいそうしていただろう。息遣いの音が耳について恥ずかしくて、ただ、翔から与えられる刺激が心地良くて愛おしくて。いっぱいいっぱいの花音を、不意に翔が唇を離して抱きすくめた。
「もう無理。これ以上やったら、オレの理性焼き切れる」
熱い吐息を耳元に感じて花音はびくり、と体を揺らした。それを宥めるように、ゆっくりと翔は花音の背中を撫でる。
「大丈夫。さすがに急にそんなこと、しない」
そう言うけれど。その声は掠れていて、体はも息も熱くて。顔を見せてはくれないから、その表情は見えないけれど。ただ、抱き寄せるわりに不自然な姿勢が、何よりも如実にこの人の状態を伝えてくれているようなもので。
花音が躊躇いがちに身を寄せれば、花音を抱え込む翔の兆したものに、花音の大腿が触れた。身を引こうとするのを引き止めるように、翔の脚の間で花音は身を乗り出し、今度は唇に触れるだけの、キスをした。照れ屋の花音に今頑張れる精一杯。いやもう、振り切っているくらいで。
「急じゃないですよ」
「花音、煽るな。止められなくなるから」
「急じゃないです」
煽る、と言うのが、どう言うことが花音にはわからない。多分、わかっていてそれができるくらいに長けていたなら、いろんなことが今と違っただろう。
だから、翔にとっては耐えがたいほどに煽ってくる。
「結婚何年目だと思ってるんですか」
悪戯っぽい笑みを浮かべられ。
翔は花音の背中に回した腕に力を込めるのと同時に、自分の顔を覗き込む花音に深く口付けた。今度は躊躇わず自分の熱を帯びた体を全て、余すところなく花音の体と密着させるように。
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