38 / 41
第4章 さいかい
10
何が楽しいのか、花音の素肌の腰を飽きもせずに撫で続ける翔に、恥ずかしいを通り越して呆れながら、くすぐったさに思わずその手から逃れようと動けば、これが狙いかと疑いたくなるほどに、翔の体と密着してしまう。
喉の奥で笑うような声が頭上から降ってきて、花音は恨めしげにその端麗な顔を見上げた。
まあ、何度か週刊誌も賑わせたようだし。知らなかったけど。こちらの都合でお願いしていたわけで、この人は自由なわけだし。いや、婚姻届は、この人が勝手に出しちゃったんだけど。
遊びたいなら、離婚届渡してあるんだから出してしまえばいいのに、それをしなかったのは、その方が便利だったからかなぁ、とか。
「何考えてるの?」
花音の髪に鼻先をすり寄せながら問いかける甘い声に、花音は気づく風もなく、だから容赦なく口にする。
「いや、さすが、手慣れてるなぁ、と思っただけですよ?」
「はぁっ!?」
さすがに面食らって上半身を起こし覗き込めば、何の含みもなさそうな、きょとんとした目が見上げるから、なおさら翔は辛い。
さすがって、手慣れてるって。
どう思ってるんだ…って、そう思ってるんだよな、と頭を抱える。
そして、反省する思い当たる節も、残念すぎるが、ある。
あれは、ショックすぎて荒れていたんだと。そう言ってみてもきっと、言い訳にしかならないんだけど。
「ああ。別に責めてませんよ?」
「…ああ、それはそれで、傷つくのがわかった。責めて?お願いだから」
「え、Mさん?」
「違うからっ」
責めてないと言うのが、興味がないと言われているようにも感じて、なかなかダメージを受けるのだと実感して伝えれば、またずれたことを言う。
「ねえ花音。わざと?」
「へ?」
「ああ。別に怒ってませんよ?離婚届も出さずにとか。その方が、都合が良かったのかなぁと。こちらも都合でお願いしたんですから、そんなこと責めません。でも、その方が都合が良いとか思ってしまう相手に、失礼だなぁとは、思いますけど」
悪気も言外の意図もなく、つらつらと発せられた言葉の中に、どうしてこれだけ致命傷になりそうな言葉が詰め込まれるのか。
それを口にしているのが花音だから、これほどの攻撃力があるんだけど。
「花音サン、ほんと、許してください」
「許す?て、何を?」
ああ、なんか、やっと隼人の去り際の言葉の意味を実感した気がする。
書類上の奥さん。
だから、追求しない。責めもしない。
そうとられても仕方ない行いをしてきたことは、認めるしかない。
あのね。
と、翔は体を入れ替え、自分のそれぞれの手を花音の手と、指を絡ませてベッドに縫い付け、驚いた顔をしている花音を見下ろす。
なんて無防備。
無防備でいられるような相手じゃないと、思い知らせたはずなのに。
「そんな風に、無謀いでいちゃダメだよ、花音」
え、と、花音が首を傾げる。
その、隙だらけの首筋に口を寄せ、心地よい香りを吸い込みながら淡く唇を触れる。
「オレは、花音しかいらないから。これからもし、何か騒がれてもそれはガセだけど。でも、嫌だったり、気になることがあったりしたら、絶対に直接言って。と言うか万が一騒がれているのに何も言ってくれなかったらオレが不安になって問い詰めるかも」
「は?」
うん、さすがに、そう口をついちゃうような言い草だよねと、翔も思ったけれど。
でも口にしてみたら、それはもう、確実にそうなるなと自分でも想像できる姿で。
「だから、オレに聞かれる前に、ちゃんと言うんだよ?」
「意味わからないんですけどっ。大体、わたしそういうの疎いから、気がつかないんですけどっ」
「え、興味ないってこと?」
「そうじゃなくて」
うん、手に負えないって、顔してるね。
それでいい。
「花音」
「…はい?」
もう、いたたまれない、という顔で恨めしげに見上げる顔が、控えめに言っても愛しくてたまらない。
「今また、君のことが好きになった」
驚いた顔で固まった花音。
引いたかな、と翔は様子を見守る。
そう思ったら、不意にあはっ、と柔らかく笑った。
「わたしも、ちょっとおかしなことを言う翔くんが新鮮で…好きになっちゃいました」
翔の顔が緩んでしまう言葉は、途中ではっとしたように照れてしまったのか、だんだん消え入りそうになる。
それでも、花音は、翔に縫い付けられた手を自分からキュ、と握り込んで、恥ずかしいのを押し殺すように口をひき結んでなんとも微妙な顔になってから、思い切ったように口を開いた。
目を逸らしてしまったのは、許してあげたいくらいに。
照れ屋の花音が、なんとか言葉にして、たまには伝えないとと、ありったけのなけなしの何かいろんなものを振り絞って。
「あなたに、何回も、恋してるみたいです」
「みたい…」
そこは不服そうに、でも、慌てて目を向けた花音は、呆れるほどに緩み切った翔の顔を間近にみて、騙されたと悟る。声だけで、演技をされて。
「君に、何度でも恋してる。何度でも、恋できる。…何度も恋に落ちるなんて、贅沢だな」
顔を手で覆いたいのに、せめてどこかに顔を隠したいのに、それをさせてもらえない。
花音は身悶えする思いで、逃げ場を探し。逃げ場が目の前の、自分が逃げたくなっている相手のところにしかないと、すぐ近くにあった翔の肩口に額を寄せ、そこに顔を隠す。
君を襲っているの、オレなんだけど。
と、笑い声で言われても、花音にはこれ以上安心できる逃げ場所がないのだから、どうしようもない。
喉の奥で笑うような声が頭上から降ってきて、花音は恨めしげにその端麗な顔を見上げた。
まあ、何度か週刊誌も賑わせたようだし。知らなかったけど。こちらの都合でお願いしていたわけで、この人は自由なわけだし。いや、婚姻届は、この人が勝手に出しちゃったんだけど。
遊びたいなら、離婚届渡してあるんだから出してしまえばいいのに、それをしなかったのは、その方が便利だったからかなぁ、とか。
「何考えてるの?」
花音の髪に鼻先をすり寄せながら問いかける甘い声に、花音は気づく風もなく、だから容赦なく口にする。
「いや、さすが、手慣れてるなぁ、と思っただけですよ?」
「はぁっ!?」
さすがに面食らって上半身を起こし覗き込めば、何の含みもなさそうな、きょとんとした目が見上げるから、なおさら翔は辛い。
さすがって、手慣れてるって。
どう思ってるんだ…って、そう思ってるんだよな、と頭を抱える。
そして、反省する思い当たる節も、残念すぎるが、ある。
あれは、ショックすぎて荒れていたんだと。そう言ってみてもきっと、言い訳にしかならないんだけど。
「ああ。別に責めてませんよ?」
「…ああ、それはそれで、傷つくのがわかった。責めて?お願いだから」
「え、Mさん?」
「違うからっ」
責めてないと言うのが、興味がないと言われているようにも感じて、なかなかダメージを受けるのだと実感して伝えれば、またずれたことを言う。
「ねえ花音。わざと?」
「へ?」
「ああ。別に怒ってませんよ?離婚届も出さずにとか。その方が、都合が良かったのかなぁと。こちらも都合でお願いしたんですから、そんなこと責めません。でも、その方が都合が良いとか思ってしまう相手に、失礼だなぁとは、思いますけど」
悪気も言外の意図もなく、つらつらと発せられた言葉の中に、どうしてこれだけ致命傷になりそうな言葉が詰め込まれるのか。
それを口にしているのが花音だから、これほどの攻撃力があるんだけど。
「花音サン、ほんと、許してください」
「許す?て、何を?」
ああ、なんか、やっと隼人の去り際の言葉の意味を実感した気がする。
書類上の奥さん。
だから、追求しない。責めもしない。
そうとられても仕方ない行いをしてきたことは、認めるしかない。
あのね。
と、翔は体を入れ替え、自分のそれぞれの手を花音の手と、指を絡ませてベッドに縫い付け、驚いた顔をしている花音を見下ろす。
なんて無防備。
無防備でいられるような相手じゃないと、思い知らせたはずなのに。
「そんな風に、無謀いでいちゃダメだよ、花音」
え、と、花音が首を傾げる。
その、隙だらけの首筋に口を寄せ、心地よい香りを吸い込みながら淡く唇を触れる。
「オレは、花音しかいらないから。これからもし、何か騒がれてもそれはガセだけど。でも、嫌だったり、気になることがあったりしたら、絶対に直接言って。と言うか万が一騒がれているのに何も言ってくれなかったらオレが不安になって問い詰めるかも」
「は?」
うん、さすがに、そう口をついちゃうような言い草だよねと、翔も思ったけれど。
でも口にしてみたら、それはもう、確実にそうなるなと自分でも想像できる姿で。
「だから、オレに聞かれる前に、ちゃんと言うんだよ?」
「意味わからないんですけどっ。大体、わたしそういうの疎いから、気がつかないんですけどっ」
「え、興味ないってこと?」
「そうじゃなくて」
うん、手に負えないって、顔してるね。
それでいい。
「花音」
「…はい?」
もう、いたたまれない、という顔で恨めしげに見上げる顔が、控えめに言っても愛しくてたまらない。
「今また、君のことが好きになった」
驚いた顔で固まった花音。
引いたかな、と翔は様子を見守る。
そう思ったら、不意にあはっ、と柔らかく笑った。
「わたしも、ちょっとおかしなことを言う翔くんが新鮮で…好きになっちゃいました」
翔の顔が緩んでしまう言葉は、途中ではっとしたように照れてしまったのか、だんだん消え入りそうになる。
それでも、花音は、翔に縫い付けられた手を自分からキュ、と握り込んで、恥ずかしいのを押し殺すように口をひき結んでなんとも微妙な顔になってから、思い切ったように口を開いた。
目を逸らしてしまったのは、許してあげたいくらいに。
照れ屋の花音が、なんとか言葉にして、たまには伝えないとと、ありったけのなけなしの何かいろんなものを振り絞って。
「あなたに、何回も、恋してるみたいです」
「みたい…」
そこは不服そうに、でも、慌てて目を向けた花音は、呆れるほどに緩み切った翔の顔を間近にみて、騙されたと悟る。声だけで、演技をされて。
「君に、何度でも恋してる。何度でも、恋できる。…何度も恋に落ちるなんて、贅沢だな」
顔を手で覆いたいのに、せめてどこかに顔を隠したいのに、それをさせてもらえない。
花音は身悶えする思いで、逃げ場を探し。逃げ場が目の前の、自分が逃げたくなっている相手のところにしかないと、すぐ近くにあった翔の肩口に額を寄せ、そこに顔を隠す。
君を襲っているの、オレなんだけど。
と、笑い声で言われても、花音にはこれ以上安心できる逃げ場所がないのだから、どうしようもない。
あなたにおすすめの小説
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。
最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。
幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。
一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。
ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。
思わせぶりには騙されない。
ぽぽ
恋愛
「もう好きなのやめる」
恋愛経験ゼロの地味な女、小森陸。
そんな陸と仲良くなったのは、社内でも圧倒的人気を誇る“思わせぶりな男”加藤隼人。
加藤に片思いをするが、自分には脈が一切ないことを知った陸は、恋心を手放す決意をする。
自分磨きを始め、新しい恋を探し始めたそのとき、自分に興味ないと思っていた後輩から距離を縮められ…
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール