賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~

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幾つもの後悔 ~レブランドSide~

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 式の当日。
 控えの間にて着替えも終わり、式が始まるのを待つばかりとなった。
 カタリナはもう着替え終わっただろうか……様子を見に行きたいがオーリンに、

 「お式の前にドレス姿を見るのは縁起が悪いのです!旦那様は控えの間でお待ちください!」

 と言われ、追い返されてしまったのだ。
 すぐに式で会えるというのに。自分の情けなさに肩を落としていると、そこに殿下が挨拶にやってきた。

 「レブランド、どうした?やっと想い人と結ばれる日だというのに、冴えない顔色だな」
 「殿下……」
 「そなたの友人も何人か連れて来たぞ」

 伯爵令息や私と同じ公爵令息だったり、皆高位貴族の令息が殿下と一緒に入ってきたのだった。
 彼らは私と殿下の賭けを知っている数少ない者たちなので、話し方も気安くなる。

 「本当に勝つとは思わなかったよ」
 「私も返事がなかなか来なかったので、正直もうダメかと思ってました」
 「やはり多くの縁談が来ていたのだろう。良かったな、レブランド」
 「痛み入ります。そういえば、私は彼女に縁談を申し込み結婚する事に成功しました。この賭けに勝ったのだから、約束は守ってもらいますよ、殿下」
 「分かった分かった」

 殿下は半分呆れたような返事をしてくる。
 私のような無骨な人間にとって、殿下のような洗練された王族の男性は脅威だ。
 彼がその気になれば、どのような女性でも手に入れる事が出来てしまう……カタリナが殿下になびくとは思いたくはないが、出来れば近寄らせたくはない。
 
 「お前は硬いな」「お前がそんなに必死になるとはな」「賭けに勝ったんだからもう少し喜べよ」

 友人たちにも呆れられてしまう。

 「何とでも言え。おかげで愛する女性を手に入れる事が出来たのだ」
 「我々は面白いだけだ。滅多に笑わないそなたが、王女殿下の事になると百面相だからな」
 「殿下、王女殿下ではなく公爵夫人になりますのでお気を付けください」
 「レブランド、そなた人格が変わってきているぞ」
 「「はははっ」」

 殿下にからかわれるところを友人達が笑い、皆のおかげで式の前にリラックスする事が出来た。
 この後順調に式が執り行われ、純白のドレス姿のカタリナに大層感動したのだけは覚えている。
 しかし初夜からの出来事で式の記憶など吹っ飛んでしまい、幸せな記憶はどんどん塗り替えられていく。

 初めてを私に差し出してくれた彼女を愛し、素晴らしい思い出にしようと努めながら優しくカタリナに触れた。
 彼女の全てが愛おしくて素晴らしく、しばらくその余韻に浸りながら彼女の体を抱きしめる。

 「カタリナ、君は素晴らしい。この日をどれほど待ちわびたか……」

 しかし私の言葉を聞いた愛する女性は腕の中からスルリと抜け出し、体を起こして見た事のないほど冷ややかな視線をこちらに向けてきた。
 そして驚くべき言葉を告げてきたのだ。
 
 「レブランド様、式も終わり、初夜も終わりました。これであなたは賭けに完全に勝利したのです。満足しましたか?」

 一瞬何を言われているのか分からなかった。
 なぜ彼女の口から賭けの話が出てくるのだ?誰がその話を?
 しかしそんな事より彼女は賭けの内容を何か誤解している様子だった……私がした賭けは君を手に入れる為で――――
 でもこんな事を伝えて何になる?
 彼女は今とても疑心暗鬼になっている……私がこの場で君を愛していたからこその賭けなのだと伝えても信じられないだろう。
 ひとまずお互いに冷静になってから話すべきだと考えた私は、「今夜はお互い冷静になろう」と伝えた。
 
 「どうしても話してくださらないのですか?賭けの為に縁談を申し込まれたとしてもあなたを恨んだりはしません」

 カタリナはそう言ってくれた。なんと清らかな心の持ち主だろうと一瞬感動したが……なんとも思わないというのは、まるで私の事など愛していないと言われているようだった。
 落ち着け、他意などない。
 とにかく今夜話し合うのは得策ではないな。
 私が黙ってしまうと彼女から「分かりました。では明日……」という言葉が返ってきたのだった。
 
 「すまない」

 一言伝え、夫婦の寝室を後にした。
 一体どうしてこんな事に……私の控えの間に来たのは「聞きたい事があったから」だと言っていたはず。
 控えの間に行くように誘導した人間がいる――――?
 心当たりがあるとすれば、一人だけだ。

 私は翌日、その人物に会いに行くと待ちわびていたとでも言うような出迎え方だった。

 「うふふっ。レブランド、いらっしゃい。来ると思っていたわ」
 「ヴェローナ。来ると思っていたとはおかしな言葉だ」
 「そうかしら。ソファにでもお座りになって」

 言われるがまま、伯爵家の応接間に通されソファに腰をかける。
 そこにはザックハート伯爵もいて、同席してもらった。

 「私が来た理由は分かるな?私の妻に何を言った?」
 「やだわ……そうやってすぐに私を悪者にして」
 「ヴェローナ、閣下にちゃんと話すんだ」

 伯爵が彼女を諌めてくれて、渋々昨日の話をし始めるヴェローナ。

 「控えの間に、間抜けな花嫁の顔を見に行ったのよ。賭けにされていた事も知らず、私からあなたを奪い、のうのうと花嫁の座に座ろうとしている売女の顔を」
 「貴様っ――!!」
 「ヴェローナ!閣下に謝るんだ!!」
 「どうして?!私こそが婚約者に、レブランドの妻になるはずだったのよ?!!突然現れた女に全て奪われた私の気持ちなど、皆には分からないわ……許せなかった。だからちゃんと教えてあげたの、私が本当の花嫁だったのにって」

 そうか、それでカタリナは私に真実を聞きに行こうとして、殿下との会話を聞いたのか。
 さぞ辛かっただろう。
 どんな気持ちで私に抱かれていたのだろうかと考えると、胸が搔きむしられるような気持ちになる。

 「伯爵、あなたの娘との事はキッパリと断ったはずです。正直もう顔も見たくはないが……ヴェローナの処分はそちらにお任せします」
 「娘がとんだご無礼を……大変申し訳ございませぬ!」
 「失礼」
 「レブランド!待って――――!!!!」

 私はヴェローナの声を振り払い、その場を後にした。
 このままここに留まったら、剣を抜いてしまいそうだったからだ。
 実質彼女がカタリナに危害を加えたという事実はなく、婚約するはずだったという事実を言ったというのでは罪に問う事は難しい……切り刻んでやりたい気持ちだったのを必死で抑えた。
 この件に関しては私にも大いに非がある……カタリナをずっと一人にし、このような事態になっているとは分かっていなかったのだから。
 夜にしっかりと謝罪しなくては。
 しかし私は、その足ですぐに邸に戻らなかった事を死ぬほど後悔する事になる。
 職場ではずっと悶々としながら過ごした。

 「あの――……閣下。今日はお休みでは?」
 「急遽仕事になった」
 「はぁ……」

 副騎士団長のイズマーニが恐る恐る聞いてくる姿に、若干いら立ちつつ答えた。
 本来なら無事に初夜を迎え、早朝から新婚旅行に出立しているはずだったのだから、部下が訝しむのも無理はない。
 仕事中もカタリナにどう話せばいいかをずっと考えていた。
 そうして過ごしている内に夜も遅くなってしまい、邸に帰邸すると、そこには愛する人の姿は跡形もなく、離縁書だけが残っていたのだった。

 ~・~・~・~・~

 あの悪夢の日から約四年半――――
 何度自分の行動を悔いたか分からない。
 彼女を必死で探し回ったが国内には全く痕跡はなく、恐らく他国へ出国している可能性が高いとの話だった。

 「すまない、私が浅はかにも話に出してしまったが為に……」
 「いえ、殿下が謝る事はありません。私が愚かだったのです。まさか邸の使用人たちもヴェローナとの結婚を仄めかしていたとは……式までほとんど私が帰らない中で、どれほど惨めな日々を過ごさせていたか、何も分かっていなかった」
 「……しかしこのまま行方不明のままにしておくわけにはいかぬ。ルシェンテ王国にこの件が知られれば厄介だ」
 「なぜです?」
 「実はな」

 殿下が語ったのは驚くべき事実だった。
 もともとルシェンテ王国としてはカタリナの嫁ぎ先に、北の最果てゴルヴェニア王国を候補として挙げていた。
 そこへ私からの縁談話が舞い込み、殿下が根回しをしてくださり、ルシェンテ王国と鉱物資源の取引をする事でカタリナの縁談を受けてくれる事になったのだ。
 もしこの結婚が破綻していたとなれば、カタリナを戻せと言ってくるに違いない。
 国にとって女性の王族は、政治の駒として扱われ、使い勝手がいいと考えられがちなのだ。

 「殿下がそのように手を回してくださっていたとは……」
 「それで決まるまで一カ月もかかったのだ。そなたが初めて執着した女性だからな、縁談を成功させてやりたかった。それなのに自分が浅はかな会話をしたせいで、このような結果を招く事になるとは」
 「彼の国はこの四年半、カタリナについて一切の連絡をしてこなかった。恐らく自国へは帰っていないでしょう」
 「ルシェンテ王国の事もだが、そろそろヴェローナの謹慎も解かれる時期だ」

 ヴェローナはあの後伯爵から五年間の謹慎処分を言い渡され、もう少しで謹慎が解かれ、社交界に戻ってくる。
 そうなればどんどんカタリナが戻りにくくなってしまう。
 
 「殿下、私はゴルヴェニア王国へ行こうと思います」
 「なぜだ?」
 「……我が国から離れるならば、北の方が向かいやすいというのもあります」
 
 南は森が広がり、我が国から東と西の国に出るには山を越えなければならない。
 北ならば陸路や船など、女性の足でも移動がしやすい。
 この四年間国中を探し回り、他国へ行く機会があった時も探し回った。一日たりとも彼女の事を忘れた事はない。
 もちろん離縁書はすぐに破り捨てたので、今も私たちは夫婦のままだ。

 「行くのなら騎士団のメンバーも連れて行け。第一部隊でもいいな……ゴルヴェニア王国には私が申し出ておこう、我が国の騎士団とゴルヴェニアの騎士団で合同演習でもどうかとな。探すなら人数が多いに越した事はない」
 「お心遣い感謝いたします」
 
 数日後、藁をも縋る気持ちでゴルヴェニアへと発った。
 まさかそこで、最愛の人との息子の存在を知る事になるとは思わずに――――
 
 ~・~・~・~・~・~

 次からカタリナSideに戻ります!
 よろしくお願いいたします~~<(_ _)>
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