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高校デビューはほろ苦い始まり
しおりを挟む放課後、僕は帰りの電車を待ちながら雫にお昼の出来事を相談した。
「なんかさ――そんなすぐバレるような嘘、なんでつくんだろ。出身中学とか、自宅も近いんだし、本人かどうかなんてすぐ分かると思うぞ」
「だよな……そんなに僕と再会したくなかったのかな」
「う――ん」
自分で自分の言葉に傷ついてしまう。
結人には拒否られたけど、僕はずっと会いたかった。
偏差値も高くて進学校だし、親に反対される事もなく、ようやく同じ学生時代を過ごせると思っていたのに――――
そう思っていたのは僕だけだったのかと思うと、自然と気持ちが沈んでしまう。
「まぁ、そう落ち込むなよ。乙春2でもやって元気だせよ!」
「……そ、そうだな!今日も海人ルートをゴリゴリ進めるぞ!」
「その意気だ。また明日、報告会しようぜ」
雫と乙春2の話をしてなんとかモチベーションを上げていると、電車が来たので乗り込み、雫と別れたのだった。
車窓から流れていく景色を眺めながら、昔の思い出を反芻していく。
生まれたばかりの頃の話は母さんからよく聞かされていた――――
同じ産院で一日違いで生まれた僕たちは、授乳の時からお互いの手を握り合うという仲良しぶりだったらしい。
『あらあら、結人は亮くんの事が大好きなのね~』
『亮も大好きなのね、指を握り合ってる。仲良くなりそう』
母さん達はそんな会話をいつもしていたそうだ。
同じ幼稚園に入り、常に一緒に遊んでいた。
結人は僕の後ろをついてきては服の裾をちょこっと握っているのが可愛い男の子だった。
『りょうちゃ……まって』
『ゆいちゃ。ぼく、ここいるから、らいじょぶ』
まだ言葉も上手く話せないくらいの年齢から、僕がそばにいてやらないとって思ってた気がする。
『結人くんは、亮くん以外とも仲良く遊んでみようか』
幼稚園の先生にそう促されると、結人は大泣きして『りょうちゃといっしょ――!!』ってしがみついていた。
『ゆいちゃ、なかせちゃ、めっ!』
僕も先生から結人を守ろうとしていたりして、結局僕と結人を引き離す事は無理だと悟った先生たちは、ずっと同じクラスで通わせてくれたのだった。
小学生の間は僕の方が背も高かったし、結人はあまり口数が多くなかったから、特に僕がそばにいないとって思っていたなぁ。
アイツのお母さんが亡くなった時も……泣き疲れるまでそばにいたっけ。
あの時の結人は本当に消えてしまいそうなくらいショックを受けていたし、結人には奏斗っていう弟もいて、2人が悲しくならないように明るく振舞っていた自分を思い出す。
学校にも行かず、引きこもりがちになった結人の家に僕も入り浸り、二人のそばにずっと寄り添っていた。
結人が泣きながら僕に、
『亮は、学校に行かないの?』
そう聞いてきた幼馴染の瞳には悲しみと絶望が入り交じり、こんな状態の親友を置いて学校に行けるはずもなく。
何より僕に行ってほしくないって懇願しているのが手に取るように分かったし、僕しかいない……そんな風に甘えてくるアイツが本当に可愛くて家族みたいに大事だったから、いつまででもそばにいてやりたかった。
『行くわけないだろ?ずっとそばにいるから。大丈夫だから』
そう約束した。
それなのに――――
中学受験をした事で一緒の中学に通う事が出来なくて。
母さんと話し合って、自分で決めた事だけど……身を切られるような気持ちになった。
結人は卒業式のあと、人目もはばからず寂しいって泣いてくれたのが凄く嬉しかったな。
『なんで違う中学なんだよ~~うぅっ』
『ごめんな。母さんと約束した事があって……毎日RINEするから!』
『RINEだけじゃなくて遊びに来てよぉ!家近いんだし!』
『分かった、遊びに行くよ』
泣きじゃくるアイツの頭を撫でながらした約束……でも毎日していたRINEはだんだんと返信がこなくなり、既読もつかなくなって……お互い忙しいから仕方ないと思いつつ、アイツの家から足が遠ざかってしまい。
でも高校が同じならまた仲良くなれると思って、この高校を選んだんだ。
今は体型も逆転しちゃったし、もう守ってあげるような存在じゃなくなってしまったけれど、また昔みたいにバカな事を言って笑い合いたいだけだったのに。
「お前は違ったっていうのか」
ポツリと呟いた言葉は、電車の音にかき消されて消えていった。
電車を降りて15分ほど歩くと住宅街に入り、自宅が見えてくる。
特に部活に入る予定もないので真っ直ぐに帰宅したけれど、まだ日照時間が短めなのでもう夕日が沈んできていた。
ふと視線を上げると、自宅の前で誰かが立っている。
そのシルエットは今日学食で見た人物を模っていて、すぐに懐かしい人物だと認識する。
「結人……!」
「………………」
やっぱり隣に座っていたのは結人だったんだ……!
夕焼けを背に受け、金髪やピアスが煌めいている。
小学生の頃から何センチ伸びたのか分からないほど大きくなった体に鋭い眼光、不覚にもその全てが綺麗だと思ってしまう。
しばらく沈黙が流れていったけれど、あまり嫌な感じがしない。
言葉を発したら結人が去っていきそうで、言葉が出てこないでいると、向こうから話してくれたのだった。
「なんでお前がウチの高校にいるんだ」
「なんでって、おじさんに偶然会った時に、結人がそこを受験するって聞いたんだ。だから……」
「チッ。余計なこと言いやがって……お前も金魚の糞みてー」
僕を嘲るような笑みを浮かべている幼馴染を見て、何を言われたのか一瞬分からず、上手く言葉が出てこない。
何でそんな事言うんだよ……これ以上否定の言葉を聞きたくないのに、目が離せない。
目深の髪と眼鏡が素顔を隠してくれて良かった。
きっと今、酷い表情をしているに違いない。
「俺に関わるな。学校でも声をかけてくるんじゃねぇ」
そう言い残して自宅から反対の方へ歩いていってしまう。
「結人、どこに……」
「お前には関係ねーよ」
何を言ってもどんな言葉をかけても否定の言葉しか返ってこない。
胸には悲しい気持ちが渦巻いているけれど、それ以上に怒りの方が湧いてきてしまい、思わず駆け寄って、彼の腕を掴む。
「関係なくないし、絶対学校でも声かけるから!」
「っの、バカが!!」
僕の手を払い退け、逆に結人の大きな手で腕を掴まれたかと思うと、自宅の壁におさえつけられてしまう。
――カシャーンッ――
「あ…………っ……」
壁にぶつかった衝撃で分厚い眼鏡が落ちてしまい、素顔が晒されてしまったのだった。
顔を上げると、昔の面影が残る結人の懐かしい顔に釘付けになる。
でもどうしてだろう、昔と同じはずなのに――――心臓がうるさいくらいにドクドクする。
体格が変わったから?
そして僕の顔を見て、酷く驚いた表情をする結人を見て、我に返った。
どうしよう、物凄い形相だ。
中学生になって散々バカにされ、こっち見るなと言われてきた自分にとって、結人相手だろうと自分の素顔を晒すのは物凄く勇気がいる事で緊張が襲ってくる。
お前にもバカにされたら僕は……思わず顔を下に向けて目を逸らした。
ゆっくりと彼の手が離れていき、その手は落ちている眼鏡を拾っている。
「結人……?」
「お前は、二度と眼鏡を落とすんじゃねぇぞ。学校でも外すな、分かったな!」
「え……う、うん。もちろんそのつもりだけど」
「チッ」
なぜか分からないけど忠告され、僕に眼鏡を渡した結人は、舌打ちをしながら去って行ってしまうのだった。
「なんだったんだろう」
言われなくとも眼鏡は外せないし、これからも外す気はない。
でもバカにされたりしなくてホッと胸を撫でおろす…………昔から少女漫画のように大きな目を両親からは可愛いと言われて育っていたので、自分では変だとは思っていなかった。
小学生の頃も何も言われなかったし。
でも中学に入ると、ことさら揶揄われていじめられるようになってから、分厚い眼鏡をかけるように。
そのせいで視力も落ちてしまったけれど、今ではかけていないと他人と目を合わせられないほどに緊張してしまい、呼吸が浅くなる事もあるので注意が必要だった。
小学生の時はかけていなかったから最初は結人が僕に気付いていないのかと思っていた。
でもやっぱり学食で気付いていたんだな。
それがなんとなく嬉しくて、顔が緩んでいく。
なぜ無視するのかは分からない……でもこれからも絶対学校で声をかけると宣言したし、一緒の学生生活を送るのを諦めたりしない。
硬い決意を胸に、結人の後ろ姿が見えなくなったのを確認し、その日は大人しく家に帰宅する事にしたのだった。
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