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拒絶されたと思っていたのに…?
しおりを挟む「歯科検診ダルい~~」
「ははっ、雫は正直すぎ。でも多目的室に移動しなきゃいけないのは面倒だよね」
「戻ってきたら自習なのがもっとダルい」
雫の言葉に苦笑しつつ、ひそかに僕は結人と会えないかなと期待していた。
未だにどの組なのか分からないけど……もしかしたら入れ違いの時に顔を見られるかも?
絶対話しかけると豪語したものの、普通に生活していたらまずすれ違う事すらない。
1組は端の端だし、場所的にも通りすがりの他クラスの人が1組の前を通り過ぎるという事もないので、クラスにこもっていたらクラスメイトとの日常だけで日々が過ぎ去っていく。
「寂しいな……」
「どした?」
「え、あ、いや乙女ゲームの話!海人ルートで主人公とすれ違っちゃってさ~~」
危ない危ない……思ってた事が口に出ちゃっていたなんて、気を付けなきゃ。
今は話しかけても無視される確率が高いし、顔を合わせるのも大変なんて、昔の自分がこんな風になるとは思わなかっただろうな。
でもやっぱり話せるようになりたいから、ここでひよっている場合じゃない。
そう思って意気揚々と歯科検診に来てみたものの、1組と2組でいっぱいの多目的室に結人の姿はなかった。
椅子に座り、口を大きく開けて歯科医師に診てもらっていると、前髪は真ん中分けになるし、眼鏡がずり落ちそうになるし色んな意味で大変だった。
「斜線、斜線…………」
歯科医師の先生が同じ言葉を並べていく……ぼんやりしていると、「はい、いいよ。次の人」と言われた。
「ありがとうございました」
特に虫歯もない(と自負している)ので、あっさりと終わってよかった。
僕の次は雫なので、雫が終わるのを入口付近で待つ事にした。
結局結人は見当たらなかったな……4組くらいまで来ているけれど、その中にも結人の姿はない。
という事は4組以降という事になる。
そうだとしたら1組から遠いのでますます会える機会が減ってしまう事になる。
ズーンと沈んでいる僕の頭上で、突然結人とその友人達の声がしてきたのだった。
「歯科検診だりぃ。帰りてー」
「帰るとか言いながら家じゃないだろ。 どこかクラブにでも行く気か?」
「るせー」
ダルそうな結人の声……僕は反射的に顔を上げると、眼鏡越しながらも結人と目が合い、喜び勇んで声をかけた。
「おはよう!」
「………………」
頑張って声をかけたにも関わらずジロリと睨まれてしまい、そんな僕に見兼ねたのか、一緒にいた友人の一人が声をかけてきたのだった。
「キミ、この前の学食の……やっぱり結人の知り合い?」
「あ、うん」
「駆流、いいから行くぞ」
結人に呼ばれた駆流という友人は、なぜか僕の方に近付いてきて、耳元に顔を寄せてきたかと思うと、ポツリと思いがけない言葉を残していった。
「結人には気を付けて」
「え……」
僕は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
気を付ける?結人に?どうしてそんな事を彼の友人が僕に言うのだろう……友達じゃないの?
驚いて固まっている僕を見て、駆流という友人は「あはっ、かーわいいー」と頭を撫でてくるので髪がもさもさになってしまう。
「ったく……お前、眼鏡ズレてんだろ!駆流、お前もからかってないで行くぞ!」
先に並んでいたはずの結人が僕の眼鏡を直し、すぐに駆流という友人を引っ張って行ってしまった。
「何?どしたの?」
雫がやってきて声をかけてくれたけれど、あの人の言葉が僕の中で消えず、しばらく放心状態で教室へと戻って行ったのだった。
~・~・~・~・~・~
「ふーん、なんか嫌な感じ」
教室に戻り、先ほどの出来事を雫に説明すると、彼の口から正直な気持ちが出てくる。
確かに嫌な感じではあるけど、それよりも疑問だったのが、「……なんであんな事言うんだろう」っていう事だった。
「普通なら友達を貶めるような事言わないよな。あんま仲良くないのかもよ?」
雫が当然のように答える。
確かに僕も雫と同じ気持ちだし、仲良くなった友人の事は悪く言いたくない。
でもそうじゃない世界があるのも知っている……中学時代、こちらは友人だと思っていたのに、ずっと気持ち悪いと思っていたと言われた事もあるので、人の心は分からないものだ。
結人は昔から信用している人間しか自分のテリトリーに入れないところがあって、いつもツルんでいる仲間は彼なりに心を許しているのだろう。
この事は絶対に結人には知らせないでおこう。
傷つけたくない。
あんな事を言われたけれど、僕自身は気を付けるも何もないし、幼馴染に関しては自分から壁を作るような事はしたくない。
それにあの時、僕の眼鏡がズレていたのに気付いてかけ直してくれて、よく気が付く優しい幼馴染の面影を感じる事が出来たのが、とても嬉しかったのだ。
「なにニヤニヤしてるんだよ」
「え? いや、なんでも」
知らず知らずのうちに顔が緩んでいたらしく、雫にツッコまれて気付く。
変わっているものもあるけれど、変わっていない事も確かにあって、それを感じる事が出来たので、思いの外嬉しい一日になった。
「そういや亮の幼馴染が眼鏡直してくれていたけど、そんなに眼鏡外したくないの?」
「う…………っ……うん」
僕は眼鏡を外せない事の経緯を雫に話し、この事について理解してもらおうと努めた。
僕の話を聞き終わった雫は、「うーん」と少し考えた後、真剣な顔でこちらに顔を近付けてくる。
「な、なに?」
「いや、見たいなって。亮が俺を信用してくれるなら」
「え……」
どうしようと迷いながらも、真剣な眼差しでこちらを見つめてくる雫の目を見ていると、緊張がほぐれて落ち着いてきたのだった。
雫はバカにしたり嫌な言葉を投げかけてくるヤツじゃない。
何かを言ってきたとしても正直な気持ちだから、裏表があまりないのだ。
雫なら信用出来る。
そう思った僕は、意を決してほんの少し、眼鏡を外す事にした。
「ちょっとだけだよ」
「うん」
フレームの両端に手をかけ、少し下にズラして雫にだけ見えるように見せてあげた。
すると雫の顔が、乙女ゲームの話をする時みたいにうるうると輝きだし、両手を組んで拝むようなポーズをしてくる。
「おっっまえ…………いいなぁぁぁ惚れたわ!!俺、お前の推しになる!」
「へ?」
「いや、でも確かに色んな意味で眼鏡はかけておいた方がいいかもしれん。前髪もそのままで。このまま平和な高校生活を送るためにも」
「そ、そうかな。うん、そうだよね。そうする!」
やっぱり雫はバカにしたりしなかった……その事に心底ホッとして、泣きたいくらい嬉しい気持ちになった。
大人しく雫に言われた通りまた眼鏡をかけ直し、良い友達が出来たなと幸せな気持ちでその日を終えたのだった。
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