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2人からほっぺにチュー
しおりを挟む駅に着くまで10分ほど、僕は幼馴染の背中におんぶされる形になり、夜の街を歩いていた。
彼の首に腕をまわしているけれど、右腕を上げると若干肩が痛む。
駆流クンがそばにいて受け止めてくれて良かった……地面に打ち付けられていたらもっと痛めていたよね。
それにしても大きい背中。
今じゃ体格まで逆になり、彼におんぶされる側になるとは思わなかったな。
でもこれはこれで嬉しい。
最初に再会した時よりはるかに距離が縮まった感じがするのは気のせいではないはず。
ほんの少し夜風に結人の香水の匂いが混じっていて、後ろにいる僕の鼻を擽る……それがまた心地いい。
負担をかけないようにゆっくり歩いてくれてるのも感じるので、この背中にずっとおんぶされていたいと思ってしまう。
そんな僕の願いも虚しく、駅に到着したので彼の背中から下りることとなった。
「僕も2人と同じ方面だから電車も一緒~~」
「そっか、駆流クンは結人と同じ中学だから、家はそれほど遠くないんだね」
「そうそう。小学校の校区は違うけど中学は一緒」
僕がもし中学受験をしていなければ、駆流クンとも中学から友達になっていたのかもしれない。
もったいないことをしたなぁと思いつつ、どうしても中学受験が条件だったから、そんな未来はあり得ないんだけど。
3人で電車に乗り、同じ駅で降りて、そこからは駆流クンだけが別方向となる。
「僕もそっちが良かったな~~」
「我が儘言わないで帰れ」
「ちぇ……」
「ふふふっ」
この2人のやり取りは、やっぱり見ていて面白い。
さっきは何でモヤモヤしたんだろう……よく分からないけれど、帰る前に駆流クンにお礼を伝えなきゃいけない。
「駆流クン、今日は色々ありがとう。助かったよ」
「亮クン」
駆流クンの顔を見上げてお礼を伝えると、彼はゆっくりと近付いてきて顔を寄せてきた。
どうしたんだろう。何か顔についてるのかな。
また前みたいに結人のことで何か伝えたいとか?
そんなことを考えた瞬間。
ちゅっ。
右頬に生温かい感触がして、すぐに離れた。
え…………今のって………………ほっぺにちゅーってヤツじゃ…………。
「亮クンに一目惚れしちゃった。んふっ」
「駆流!!!」
「いいじゃん~~誰のものでもないんだから。僕のことも意識してくれると嬉しいなぁ」
「え……え?……」
突然の告白に頭が全くついてこない。
結人が駆流クンに何か言ってるみたいだけど、僕の頭の中は初めて男子に告白されたことによる混乱で、思考回路が停止してしまったのだった。
~・~・~・~・~
自宅に帰る道のりも結人の背中におんぶされる形になり、心地よい揺れに身を委ねながら、さっきのことを思い出していた。
あれは告白、なのかな……あまりにもあっさりしてたから、よく分からなくてますます混乱してしまう。
明日からどうやって接すればいいのだろう。
「おい、駆流のことだけど」
「え?!」
まるで思考を見透かされたような気がして、声が上ずってしまう。
「アイツはだいたいいつもあんな感じだから、あまり考え過ぎんな」
「え、そうなの?」
「ああ」
「そっかー、そうなんだ…………ありがとう」
結人の言葉に少し落ち着きを取り戻していく。
付き合いが長い友人がそう言うんだから、あまり気にしない方がいいのかな。
男子に嫌われることはあっても、あんな風にストレートに好意を向けられるのは初めてだ。
嬉しい気持ちもある反面、対応に困っていたので、結人の言葉は正直ありがたかった。
そんな話をしているうちに僕の自宅前に着き、結人がインターフォンを押すと、玄関から母さんが飛び出してくる。
「まぁ!亮~~どうしたの?!」
「ちょっとトラブルに巻き込まれちゃって……」
「なんてこと……って、あなた結人くん?!」
「……っす。お久しぶりです」
「久しぶりじゃない~~ここで話すのもなんだし、入って入って!」
僕をおんぶしたままの結人は、母さんに促されるまま我が家へと入った。
そしてそのまま僕を自室まで連れて行ってくれたのだ。
「重いから階段は自分で上るよ!」
「黙っておんぶされてろ。足も痛いんだろ」
「…………」
なんで分かるんだろう。
どのタイミングで痛めたのか分からないけれど、膝もズキズキ痛かったのでほんの少し引きずっていたかもしれない。
でも分からないように歩いてたつもりなのに……そんなところまで見ていてくれたことが嬉しくて、このままずっと背中にいられたらなぁ、なんて思ってしまう。
僕の自室に入り、そのままベッドへおろしてくれた結人は、
「少し休め。おじさんとおばさんには俺が説明しておくから」
と言って部屋を出ていってしまったのだった。
路上では本当に危なかった……自分の行動には気を付けないと。
もし喧嘩にでも発展していたら、暴力沙汰になってしまいかねないので止められて良かった。
自分の不注意が原因で、大事な幼馴染の手を汚してしまいたくない。
でも――――
僕の為に結人が凄く怒ってくれて、喜びを隠せない自分がいる……凄く嫌われていると思ってたから。
そうじゃないって思っていいのだろうか。
でもそれはまだ怖くて聞けないな……ただ友達として受け入れてくれてるように感じて、そういう意味でも頭がふわふわしている。
無事に部屋へ戻ってきた安心感もあり、だんだん眠気が襲ってきて、ベッドに横になった。
体も重いな……ダメだ、まだ結人がいるのに……眠りたくない。
眠ったらきっと黙って帰ってしまう――――でもどうしようもなく瞼が重くて開けていられなくなった僕は、そのまま意識を手放してしまうのだった。
そして夢を見る。
――――キィィッ――――
僕の部屋の扉が開く音がして、静かに結人が入ってくる。
僕が寝ているベッドサイドにやってきた……せっかく小学生の時以来、彼が僕の部屋にいるのに全く目が開けられない。
帰らないで。
必死に願うも、やっぱり瞼を上げる事は出来なかった。
まだいっぱい聞きたいことが沢山あるのに。
今までどうしてた?どんな中学生活を送ってたの?家族の皆は元気?
どうして僕のこと知らないフリをしたの?
聞きたいことばかり頭を駆け巡り、焦りが増すばかり。
次の瞬間。
右頬に柔らかな感触がして、ゆっくりと離れていったのだった。
『おやすみ、亮』
僕にかけられた声は、普段のぶっきらぼうな感じではなく、昔を思い出させてくれるような、泣きたくなるくらい優しくて思いやりの溢れる声だった。
そして僕の頭を撫でる彼の手は、とても大きくて宝物を触るような手つきだった。
イヤだ、行かないで――――
ハッと目が覚めると、僕の部屋は真っ暗で、時計の針は夜中の3時を指している。
「夢……?」
右頬にまだ感触が残ってる気がする……あれは僕の願望?
駆流クンにされた箇所と同じところだった。
まるで上書きされているかのように。
してほしかったの?
幼馴染にそんな願望を抱くなんて、僕はどうしてしまったんだ。
ここまで送ってくれた彼の優しさに対して申し訳ないやらで、自分に腹立たしい気持ちでいっぱいになっていく。
「最悪…………」
絶対にこんな夢を見たことは、知られてはいけない。
明日から普通に話せるかな……ちゃんとお礼を伝えないと。
部屋までおんぶしてくれた幼馴染の背中、匂い、声を思い出し、その夜はなんだか寝付けずに朝を迎えたのだった。
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