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18.神社の顔②(怖さレベル:★★★)
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「え、アケミちゃん? 何いって……」
「アケミちゃん! なに、なにがいるの!?」
私の言葉を遮るように、
マリさんが嬉々として尋ねました。
「かお」
アケミちゃんは、
ゆっくりと正面へ向き直りました。
それを追うようにして、
私も視線を向けると、
――くち。
視線の高さにぽっかり空いた口がありました。
「――ッ!?」
ドサ、と尻餅をつきました。
口蓋まで覗きこめる大きな口、
人とは思えぬどす黒い色の鼻、
落ちくぼんでよどんだ目、
湿って黒々とした海藻のような髪。
その顔が、濁った眼をぎょろりと動かし、
じーっとこちらを見つめているのです。
「かおだ」
アケミちゃんは、
感情の消えうせた表情でそれと向き合っています。
彼女の言う通り、
本来あるべき身体はなく、首から上だけが浮遊しています。
身体がガクガクと震え、
ひゅーひゅーと呼吸もうまくできず、
何度も何度もまばたきを繰り返しました。
でも目の前のそれはいっこうに消えてくれません。
「え、二人とも、どうしたの?」
マリさんでした。
彼女は突然尻餅をついた私を怪訝そうに見つめ、
アケミちゃんの肩を叩きました。
「顔ってなに? なにを言ってるの?」
マリさんは、
真正面に浮かぶそれが見えていないようでした。
その顔は私とアケミちゃんから、
すっとマリさんに視線を向けました。
瞬間、のっぺりした表情だったその顔が、
とつぜん悪意に満ちた怒りの様相に変わったのです。
あまりのおぞましさに、
私は正真正銘、息が止まりました。
「っ、マリ、マリさ……」
逃げて、という言葉は声になりません。
彼女はそれをみながらやれやれ、
という仕草をしました。
「ははぁ。二人してわたしに意趣返しってわけ?
いいよ、振り返ってみましょうか」
マリさんは私たちの有様を演技だと思ったらしく、
にやにやと意地悪い笑みをうかべ、
神社へ振り返ってしまったんです。
「なによー、やっぱり、何もないじゃ」
そしてこちらへ向き直った瞬間。
憤怒の表情にすさまじく歪んだその顔が
一直線にマリさんにとびかかりました。
「っひ、ぎゃああぁぁあ」
断末魔。
それはそのまま彼女の顔にぐにゃりとかぶりつきます。
そして悲鳴に大きく開いたマリさんのその口腔へ、
おぞぞぞぞっと侵入し始めたのです。
「ごお、お、ごぉお……」
目をむく彼女をしり目に、
ぞぞ、ぞぞ、とゆっくり時間をかけながら、
マリさんの喉の奥へ入り込んでいきます。
ぞぞ、ぞぞぞ、
と浸食するように。
ずるんっ。
マリさんが両手両足をピーンと直角に伸ばしたかと思うと、
その顔がすべて彼女に飲み込まれてしまいました。
ドサ、とマリさんが倒れこみます。
その音に、
ようやく私は正気に戻りました。
「マリさん! マリさん?!」
押してもゆすっても、
まるで反応がありません。
「アケミちゃん! マリさんが……っ!」
傍らのアケミちゃんに助けを求めようとすれば、
彼女もぼうっとあらぬ方向を見つめ、まったく微動だにしません。
時刻はすでに夕暮れです。
空は真っ赤に燃え盛り、
夕日のありかもわかりません。
私は途方に暮れてしまい、
ただただ涙があふれ出してきました。
どうしようもなく声を上げて泣いていると、
それを聞きつけて近所の人がやってきてくれたのです。
「女の子が倒れてるぞ!」
「きゅ、救急車!早く!」
すぐに緊急車両が呼ばれ、
アケミちゃんとマリさんは即座に運ばれて行きました。
親も呼ばれ、一人残った私は説明を求められましたが、
ちっとも伝わりません。
神社が、石段が、顔が、と訴えたのですが、
大人たちを困らせるだけでした。
その後、結局石段から足を踏みはずしたのだろう、
ということでその日は返されました。
それから数日が経過し、
アケミちゃんから連絡が来ました。
彼女はあの時のことを何も覚えておらず、
特に外傷もなかった故に、無事に返されたそうです。
アケミちゃんはすっかり元のように戻りましたが、
あの公園で遊ぶことはなくなり、
マリさんとの縁もそこで切れてしまいました。
……マリさんがどうなったか、ですか。
それがわからないんです。
最初に、マリさんは同じ学校の小学校五年生、って言いましたよね。
あれって彼女から教えてもらったんですけど、
今思い出しても私の通っていた小学校内で、
マリさんを見た事って、そういえばなかったんです。
もちろん、小学校では五百人以上の生徒がいましたから、
見つけられなくても仕方がないんですが、
運動会などの時もいなかったような……。
……あの顔って、いったい何だったのでしょう。
古墳で亡くなった人、ではないと思います。
あの顔……どろどろに崩れてはいましたが、
髪型はしっかりしていたし、
耳にピアスの跡がありましたから。
マリさんに取り付いて、
その後どうなったのでしょう。
あれは夏の白昼夢たったと、
今ではそう思っています。
ただ……今でもたまに夢に見るんです。
あの神社の頂きにぽつんと立つ、
マリさんの後姿を。
「アケミちゃん! なに、なにがいるの!?」
私の言葉を遮るように、
マリさんが嬉々として尋ねました。
「かお」
アケミちゃんは、
ゆっくりと正面へ向き直りました。
それを追うようにして、
私も視線を向けると、
――くち。
視線の高さにぽっかり空いた口がありました。
「――ッ!?」
ドサ、と尻餅をつきました。
口蓋まで覗きこめる大きな口、
人とは思えぬどす黒い色の鼻、
落ちくぼんでよどんだ目、
湿って黒々とした海藻のような髪。
その顔が、濁った眼をぎょろりと動かし、
じーっとこちらを見つめているのです。
「かおだ」
アケミちゃんは、
感情の消えうせた表情でそれと向き合っています。
彼女の言う通り、
本来あるべき身体はなく、首から上だけが浮遊しています。
身体がガクガクと震え、
ひゅーひゅーと呼吸もうまくできず、
何度も何度もまばたきを繰り返しました。
でも目の前のそれはいっこうに消えてくれません。
「え、二人とも、どうしたの?」
マリさんでした。
彼女は突然尻餅をついた私を怪訝そうに見つめ、
アケミちゃんの肩を叩きました。
「顔ってなに? なにを言ってるの?」
マリさんは、
真正面に浮かぶそれが見えていないようでした。
その顔は私とアケミちゃんから、
すっとマリさんに視線を向けました。
瞬間、のっぺりした表情だったその顔が、
とつぜん悪意に満ちた怒りの様相に変わったのです。
あまりのおぞましさに、
私は正真正銘、息が止まりました。
「っ、マリ、マリさ……」
逃げて、という言葉は声になりません。
彼女はそれをみながらやれやれ、
という仕草をしました。
「ははぁ。二人してわたしに意趣返しってわけ?
いいよ、振り返ってみましょうか」
マリさんは私たちの有様を演技だと思ったらしく、
にやにやと意地悪い笑みをうかべ、
神社へ振り返ってしまったんです。
「なによー、やっぱり、何もないじゃ」
そしてこちらへ向き直った瞬間。
憤怒の表情にすさまじく歪んだその顔が
一直線にマリさんにとびかかりました。
「っひ、ぎゃああぁぁあ」
断末魔。
それはそのまま彼女の顔にぐにゃりとかぶりつきます。
そして悲鳴に大きく開いたマリさんのその口腔へ、
おぞぞぞぞっと侵入し始めたのです。
「ごお、お、ごぉお……」
目をむく彼女をしり目に、
ぞぞ、ぞぞ、とゆっくり時間をかけながら、
マリさんの喉の奥へ入り込んでいきます。
ぞぞ、ぞぞぞ、
と浸食するように。
ずるんっ。
マリさんが両手両足をピーンと直角に伸ばしたかと思うと、
その顔がすべて彼女に飲み込まれてしまいました。
ドサ、とマリさんが倒れこみます。
その音に、
ようやく私は正気に戻りました。
「マリさん! マリさん?!」
押してもゆすっても、
まるで反応がありません。
「アケミちゃん! マリさんが……っ!」
傍らのアケミちゃんに助けを求めようとすれば、
彼女もぼうっとあらぬ方向を見つめ、まったく微動だにしません。
時刻はすでに夕暮れです。
空は真っ赤に燃え盛り、
夕日のありかもわかりません。
私は途方に暮れてしまい、
ただただ涙があふれ出してきました。
どうしようもなく声を上げて泣いていると、
それを聞きつけて近所の人がやってきてくれたのです。
「女の子が倒れてるぞ!」
「きゅ、救急車!早く!」
すぐに緊急車両が呼ばれ、
アケミちゃんとマリさんは即座に運ばれて行きました。
親も呼ばれ、一人残った私は説明を求められましたが、
ちっとも伝わりません。
神社が、石段が、顔が、と訴えたのですが、
大人たちを困らせるだけでした。
その後、結局石段から足を踏みはずしたのだろう、
ということでその日は返されました。
それから数日が経過し、
アケミちゃんから連絡が来ました。
彼女はあの時のことを何も覚えておらず、
特に外傷もなかった故に、無事に返されたそうです。
アケミちゃんはすっかり元のように戻りましたが、
あの公園で遊ぶことはなくなり、
マリさんとの縁もそこで切れてしまいました。
……マリさんがどうなったか、ですか。
それがわからないんです。
最初に、マリさんは同じ学校の小学校五年生、って言いましたよね。
あれって彼女から教えてもらったんですけど、
今思い出しても私の通っていた小学校内で、
マリさんを見た事って、そういえばなかったんです。
もちろん、小学校では五百人以上の生徒がいましたから、
見つけられなくても仕方がないんですが、
運動会などの時もいなかったような……。
……あの顔って、いったい何だったのでしょう。
古墳で亡くなった人、ではないと思います。
あの顔……どろどろに崩れてはいましたが、
髪型はしっかりしていたし、
耳にピアスの跡がありましたから。
マリさんに取り付いて、
その後どうなったのでしょう。
あれは夏の白昼夢たったと、
今ではそう思っています。
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あの神社の頂きにぽつんと立つ、
マリさんの後姿を。
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