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19.望みを叶える本・表①(怖さレベル:★☆☆)
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(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
『40代女性 坂本さん(仮名)』
どうも、こんにちは。
……あ、すみません。
私、本が好きで。
こんなにカバンにパンパンに入れていたら
丸わかりですよね。
ずっと昔、
父が私に与えてくれた絵本がキッカケで、
幼い頃から民話とか、地方伝説なんかが好きで、
いろいろ調べたり、
読んだりしているんですけれど……。
なんせ、そういう本って、
滅多に店頭にない上に、
廃版になってしまっているものがほんとうに多くて。
古本屋探しはもちろん、
図書館もよく利用していました。
うちの市立図書館は、
いちおう県庁のま隣ということもあって、
県内イチの品ぞろえを誇っています。
学習室も併設されていて、
借りた資料をその場でまとめることも出来て、
休みの日はもちろん、残業のない平日の仕事帰りも、
よく入り浸っていました。
そう、その日もいつもと変わらず、
定時の17時半に仕事を終え、
車で図書館へと向かったのです。
18時ちょうどのそこは、
社会人、学生を含めてなかなかの混雑ぶりでした。
しかし、文芸書や一般誌コーナーには
それなりの人でごったがえしているものの、
私の目的としている地方誌コーナー、
ここはまるで別の図書館に来たかのように閑散としています。
私はいそいそと本棚の前に向かい、
ひっそりとした雰囲気の中、
目当ての地域の資料を物色し始めました。
何度も訪れている、
勝手知ったる図書館。
欲しい資料の位置もおおよそ把握していて、
スイスイと手元に本が集まってきます。
6冊、7冊と引っ張り出して、
よし、ひとまずはこれくらいで、
と視線を棚から外した、その時です。
――カタン。
「んん?」
本棚の上部から、
小さな音がしました。
台がなければ手の届かない上部に、
なにげなく視線を向ければ、
立ち並ぶ本の合間から、
一冊が今にも落ちそうにグラついているのです。
「あ、あぶなっ」
私はとっさに横にあった脚立を立て、
その隙間の本を手に取りました。
「はあ、良かった。
あとちょっとで落ちるところだった……」
ふう、と安心のため息をついて、
本棚に元通りに戻そうとした瞬間、
その表紙が目に入り、思わず手が止まりました。
「……望みを叶える本……?」
真っ黒な表紙に、
白い文字。
シンプルに書かれた、
そのタイトル。
そしてその下に描かれた、
デフォルメされた真っ赤な唇。
私が苦手としているスピリチュアル系にありがちな
フレーズと絵柄だというのに、
なぜか妙に心がざわついたのです。
「これも、借りてくか」
こうして手にとったのも何かの縁。
私は、それを他の本に重ね、
借りていくことにしたのです。
翌週の、
お休みの日。
私は、ネットで知り合った民話の
同好会に参加をしていました。
以前から、SNSでつながりのあった者同士、
開催の回数も五回を超えた、気の知れた仲間内の集いです。
周囲にあまり興味を持たれない分野なので、
面と向かって語り合える機会というのは本当に貴重で、
三か月に一度ほど開催されるそれには、
ほぼ欠かさずに参加をしていました。
「今日も気合入れてきてるねぇ、サカモトさん」
その発案者である、ニッシーが、
笑いながら声をかけてきます。
ニッシーというのは彼のハンドルネームで、
どうやら本名をもじっているようでした。
「ええ、つい張り切っちゃいまして」
と、私は古本屋巡りで手に入れた本を
パンパンに詰め込んだリュックを下ろしました。
「いやぁ、いいことだよ。ねえ、チョコちゃん」
彼が声をかけたのは、
SNS上でチョコというHNを使用していた、
二十代の若い女の子です。
「……そーですね」
彼女は、四十代以降の多いこのコミュニティには
珍しい、若い女の子でした。
毎回参加してくれるわりに、
あまり会話には積極的ではなく、
どことなく不思議な雰囲気を持った女性です。
「あれ? ……この本」
と、積み上げられた本のうち、
一冊をスルリとニッシーが抜き取りました。
「あっ」
それは先日、
本棚から落ちそうになったのを拾った、
あの『望みを叶える本』でした。
(……え、なんで……?)
私は、図書館で借りた本は
なくしたり汚したりの危険があるので、
外部に持ち出すことはしません。
だというのに、
どうしてこの古本の間に紛れてしまったのか。
「す、すみません。それ、こないだ図書館で借りて。
今日、持ってくるつもりじゃなかったんですけど」
そもそも、借りたはいいものの、
結局一度も読んでいない、それ。
読もうかな、と思っても、
あの表紙をジッと見ていると、妙にソワソワとして
落ち着かず、結局次に返却するようにまとめておいたはずなのです。
「いやぁ、いいんだけど。……でも、意外だねー。
サカモトさん、こういうの興味あったんだ」
「うーん、あはは……」
バサバサと本の準備をしつつ、
レンタルスペースの机の上にノートなどを置いていきました。
ニッシーは、あの本が気になったようで、
ペラペラとページをめくり、
何やら感心したように頷いています。
「それ……面白いですか?」
「……あ、ああ、うん。うーん、すごいねぇ、コレ」
どこか心ここにあらずに返事した彼は、
その本に熱中しているようです。
こりゃあしばらくダメだな、
と呆れつつ準備を進めていると、
例の女の子――チョコが、
じいっとニッシーと彼の持つあの本を見つめていました。
(……気になるのかな)
年若い女の子。
そういったモノに興味を持っても不思議ではありません。
「サカモトさーん。ちょっとこっち手伝ってー」
「は、はいー」
しかし、他のメンバーに手伝いを頼まれ、
声をかけようとした決意は途切れてしまいました。
せっかくの同好会。
滅多にない機会のこの会を楽しむのが先決です。
意気込みを新たに、
応援要請のあったテーブルの方へと向かったのでした。
「……あれ、無い?」
同好会が解散し、
自宅に戻って荷物の整理をしていた時でした。
例の、あの黒い本。
『望みを叶える本』が――
どこにも、見つからないのです。
「参ったな……誰かのトコに紛れ込んじゃったか」
荷物を出し入れしたのはあの場のみ。
となれば、
誰かの荷物に入ってしまったのでしょう。
私は携帯を取り出し、
SNSで会ったメンバーに本の処遇を訊ねる
メッセージを送り、
ヘトヘトに疲れた身体をポーンと布団に横たえました。
電車の乗り継ぎで、心身の疲労は限界に近く、
最低限、飼い猫のエサ箱にネコ缶を詰め、
私はそのまま、着替える間もなく眠りについてしまったのです。
コトン。
なにかが動く音で、
目が覚めました。
「……ん」
寝ぼけまなこで身を起こし、
目をこすりながら上半身を起こして――、
真っ先にそれが目に入ったのです。
「え……っ」
寝室の、中央。
照明の真下に位置するそこに――
確かにあの場で別れたはずの、
ニッシーがうずくまっていたのです。
「な……に、ニッシーさ……」
私の脳裏にまず浮かんだのは、
”ストーカー”という文字。
しかし、うずくまっているニッシーは、
どうにも様子がおかしいのです。
>>
『40代女性 坂本さん(仮名)』
どうも、こんにちは。
……あ、すみません。
私、本が好きで。
こんなにカバンにパンパンに入れていたら
丸わかりですよね。
ずっと昔、
父が私に与えてくれた絵本がキッカケで、
幼い頃から民話とか、地方伝説なんかが好きで、
いろいろ調べたり、
読んだりしているんですけれど……。
なんせ、そういう本って、
滅多に店頭にない上に、
廃版になってしまっているものがほんとうに多くて。
古本屋探しはもちろん、
図書館もよく利用していました。
うちの市立図書館は、
いちおう県庁のま隣ということもあって、
県内イチの品ぞろえを誇っています。
学習室も併設されていて、
借りた資料をその場でまとめることも出来て、
休みの日はもちろん、残業のない平日の仕事帰りも、
よく入り浸っていました。
そう、その日もいつもと変わらず、
定時の17時半に仕事を終え、
車で図書館へと向かったのです。
18時ちょうどのそこは、
社会人、学生を含めてなかなかの混雑ぶりでした。
しかし、文芸書や一般誌コーナーには
それなりの人でごったがえしているものの、
私の目的としている地方誌コーナー、
ここはまるで別の図書館に来たかのように閑散としています。
私はいそいそと本棚の前に向かい、
ひっそりとした雰囲気の中、
目当ての地域の資料を物色し始めました。
何度も訪れている、
勝手知ったる図書館。
欲しい資料の位置もおおよそ把握していて、
スイスイと手元に本が集まってきます。
6冊、7冊と引っ張り出して、
よし、ひとまずはこれくらいで、
と視線を棚から外した、その時です。
――カタン。
「んん?」
本棚の上部から、
小さな音がしました。
台がなければ手の届かない上部に、
なにげなく視線を向ければ、
立ち並ぶ本の合間から、
一冊が今にも落ちそうにグラついているのです。
「あ、あぶなっ」
私はとっさに横にあった脚立を立て、
その隙間の本を手に取りました。
「はあ、良かった。
あとちょっとで落ちるところだった……」
ふう、と安心のため息をついて、
本棚に元通りに戻そうとした瞬間、
その表紙が目に入り、思わず手が止まりました。
「……望みを叶える本……?」
真っ黒な表紙に、
白い文字。
シンプルに書かれた、
そのタイトル。
そしてその下に描かれた、
デフォルメされた真っ赤な唇。
私が苦手としているスピリチュアル系にありがちな
フレーズと絵柄だというのに、
なぜか妙に心がざわついたのです。
「これも、借りてくか」
こうして手にとったのも何かの縁。
私は、それを他の本に重ね、
借りていくことにしたのです。
翌週の、
お休みの日。
私は、ネットで知り合った民話の
同好会に参加をしていました。
以前から、SNSでつながりのあった者同士、
開催の回数も五回を超えた、気の知れた仲間内の集いです。
周囲にあまり興味を持たれない分野なので、
面と向かって語り合える機会というのは本当に貴重で、
三か月に一度ほど開催されるそれには、
ほぼ欠かさずに参加をしていました。
「今日も気合入れてきてるねぇ、サカモトさん」
その発案者である、ニッシーが、
笑いながら声をかけてきます。
ニッシーというのは彼のハンドルネームで、
どうやら本名をもじっているようでした。
「ええ、つい張り切っちゃいまして」
と、私は古本屋巡りで手に入れた本を
パンパンに詰め込んだリュックを下ろしました。
「いやぁ、いいことだよ。ねえ、チョコちゃん」
彼が声をかけたのは、
SNS上でチョコというHNを使用していた、
二十代の若い女の子です。
「……そーですね」
彼女は、四十代以降の多いこのコミュニティには
珍しい、若い女の子でした。
毎回参加してくれるわりに、
あまり会話には積極的ではなく、
どことなく不思議な雰囲気を持った女性です。
「あれ? ……この本」
と、積み上げられた本のうち、
一冊をスルリとニッシーが抜き取りました。
「あっ」
それは先日、
本棚から落ちそうになったのを拾った、
あの『望みを叶える本』でした。
(……え、なんで……?)
私は、図書館で借りた本は
なくしたり汚したりの危険があるので、
外部に持ち出すことはしません。
だというのに、
どうしてこの古本の間に紛れてしまったのか。
「す、すみません。それ、こないだ図書館で借りて。
今日、持ってくるつもりじゃなかったんですけど」
そもそも、借りたはいいものの、
結局一度も読んでいない、それ。
読もうかな、と思っても、
あの表紙をジッと見ていると、妙にソワソワとして
落ち着かず、結局次に返却するようにまとめておいたはずなのです。
「いやぁ、いいんだけど。……でも、意外だねー。
サカモトさん、こういうの興味あったんだ」
「うーん、あはは……」
バサバサと本の準備をしつつ、
レンタルスペースの机の上にノートなどを置いていきました。
ニッシーは、あの本が気になったようで、
ペラペラとページをめくり、
何やら感心したように頷いています。
「それ……面白いですか?」
「……あ、ああ、うん。うーん、すごいねぇ、コレ」
どこか心ここにあらずに返事した彼は、
その本に熱中しているようです。
こりゃあしばらくダメだな、
と呆れつつ準備を進めていると、
例の女の子――チョコが、
じいっとニッシーと彼の持つあの本を見つめていました。
(……気になるのかな)
年若い女の子。
そういったモノに興味を持っても不思議ではありません。
「サカモトさーん。ちょっとこっち手伝ってー」
「は、はいー」
しかし、他のメンバーに手伝いを頼まれ、
声をかけようとした決意は途切れてしまいました。
せっかくの同好会。
滅多にない機会のこの会を楽しむのが先決です。
意気込みを新たに、
応援要請のあったテーブルの方へと向かったのでした。
「……あれ、無い?」
同好会が解散し、
自宅に戻って荷物の整理をしていた時でした。
例の、あの黒い本。
『望みを叶える本』が――
どこにも、見つからないのです。
「参ったな……誰かのトコに紛れ込んじゃったか」
荷物を出し入れしたのはあの場のみ。
となれば、
誰かの荷物に入ってしまったのでしょう。
私は携帯を取り出し、
SNSで会ったメンバーに本の処遇を訊ねる
メッセージを送り、
ヘトヘトに疲れた身体をポーンと布団に横たえました。
電車の乗り継ぎで、心身の疲労は限界に近く、
最低限、飼い猫のエサ箱にネコ缶を詰め、
私はそのまま、着替える間もなく眠りについてしまったのです。
コトン。
なにかが動く音で、
目が覚めました。
「……ん」
寝ぼけまなこで身を起こし、
目をこすりながら上半身を起こして――、
真っ先にそれが目に入ったのです。
「え……っ」
寝室の、中央。
照明の真下に位置するそこに――
確かにあの場で別れたはずの、
ニッシーがうずくまっていたのです。
「な……に、ニッシーさ……」
私の脳裏にまず浮かんだのは、
”ストーカー”という文字。
しかし、うずくまっているニッシーは、
どうにも様子がおかしいのです。
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