【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

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20.望みを叶える本・裏②(怖さレベル:★☆☆)

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「望みを叶える本……」

それは今日、
さんざん頭を悩ませていた、
あの忌むべき真っ黒の本。

それが、その部屋の中央に、
ポツン、と置かれているのです。

あまりにも心に残っていたせいで、
ついに夢にも出てきたかと、
小さくため息をつきました。

どうせ、夢。

ならばと、
その本を手にとりました。

昼間の時と違い、
弾かれることもなく持てたそれ。

装丁は、
ふつうの書籍と変わりません。

裏面には、販売用のバーコードはなく、
作者名も不明です。

夢のなかだからか、
現実で感じたようなおぞましさはありません。

私は、すっかり好奇心が勝って、
ペラリ、と一ページ、
本をめくってみたのです。

「……えっ?」

一枚目のページに描かれていた、それ。

いえ、正確に言えば、
写されていたそれは――ニッシーでした。

そのページ一面に、
まるで絵本の登場人物であるかのように、
立体的なニッシーの姿が、
そこに写っていたのです。

「これ、って……」

ニッシーは、
ニッコリと満面の笑みを浮かべてこちらに
手をふっている姿で描かれています。

なら、次は。

私は抑えきれない恐怖にすぐさま次のページをめくりました。

「また……」

見開きとなっているそのページにも、
にこやかなニッシーの姿。

そのさらに次をめくっても、また。

「なに、これ……」

ひらすらに、
ニッシーが写っているその本を、
パラパラと矢継ぎ早にめくっていると、

「……あれ?」

途中から、
その様子が変わっていったんです。

あれほどにこやかに笑っていたニッシーの表情に、
翳りが生まれ始めてきている。

本を半ばほどめくった時には、
明らかな疑問が、
その顔には浮かび上がっていました。

そして、一枚一枚めくるうち、
彼の口が、なにかの単語を発していることに気付いたのです。

パラパラ漫画のように、
ページごとに変わっている彼の口元。

それが示した単語は――

「だ、ま、さ、れ、た。……騙され、た?」

騙された――いったい、何に?

「これは……望みを叶える本、じゃない?」

そう呟いた瞬間でした。

バチン!!

「わっ……!」

もっていた本が、
手を挟むかの如き
凄まじい勢いで閉じました。

「うわっ……えっ?」

反射的に放り投げたその本は、
床の上に落ちたかという瞬間――
ズブズブと、
溶けるように沈み込んでいったのです。

「えっ、あ、ニッシーさん……!」

あの中には、未だニッシーが囚われたまま。

私はあわててそれに手を伸ばし、
沈むそれを掴もう、とした瞬間――

「痛ッ!」

額に衝撃が走り、
目が覚めました。

「なん……なんで」

ヒリつく額をさすりつつ身を起こせば、
目前に転がる目覚まし時計。

どうやら、
ぶつかってきたのはコレのようです。

ベッドの上に置いておいたのに、
位置が悪くて落ちてきてしまったのでしょうか。

「……さっきの……夢……」

あの夢はただの夢ではないと、
チリチリと警報が鳴っています。

あの本に関わったから――
もしかしら、ニッシーは。

「……坂本さんも、危ない」

イヤな予感がよぎった私は、
坂本さんに忠告の電話を入れました。

『……どうせ、探しても見つからないはずだから』

プツッ。

言うだけ言って、静かになった携帯を前に、
私は小さくため息をつきました。

そして、もう一人。

連絡を入れなければならない相手がいます。

(……繋がるかな)

電話帳をにらみ、
私はニッシーの携帯にコールしました。

ワンコール、ツーコール……つながらない。

「……ダメ、か」

お決まりのメッセージが流れた後、
携帯から耳を離した、その瞬間。

――ピキッ、ミシッ。

「えっ?」

唐突に。

本当になんの予兆もなく、
携帯の液晶にヒビが入りました。

「……う、っ……」

ボト、と携帯を取り落としました。

ミシミシと走るヒビ割れは、
床に落ちた液晶を前面に広がって、
割れた画面は幾何学な模様を描いています。

それは、もうこれ以上、
あの本に関わってはいけない、
という警告なのだと思いました。

それから、私はあれほど好きであった民俗学の分野や、
SNSでのつながりをスッパリと切り、
今ではひっそりとOLとしてのみで暮らしています。

あれからも、町中でたくさんの人を見ましたが、
あんな渦巻く黒いなにかを携えた人は一度も見ることはありません。

ニッシーさんが、いったいどうなったのか。

私はもう、考えたくもありませんが。

あの夢の中で。

床に沈んでいく本の、
最終ページ。

チラリと目に入ったそのページに写っていた、
彼の断末のおぞましい表情。

その顔だけは――きっと、
一生忘れることはできないのだろうと、思います。
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