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21.秋祭りのお面①(怖さレベル:★★★)

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(怖さレベル:★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話)
『30代男性 山崎さん(仮名)』

お祭りって、
大人になってもどこか楽しみというか、
心がウキウキとする感じがしませんか。

オレも、三十路を越えて、
独り身のままの今でも、
やっぱり祭りには心惹かれるモンがありまして。

あれは……ちょうど、
二か月くらい前だったかなぁ。

隣接する町で、
秋祭りをやるっていうのを小耳にはさんで、

屋台でも冷やかしに行くかってんで、
同僚の宮田を誘って、祭りに行ってきたんですよ。

季節は十月の終わり。

多少の渋滞は覚悟して行ったんですが、
まァ駐車場はどこもかしこも一杯で。

しょうがないから、歩くのは覚悟で、
祭りのメイン会場からは結構離れた、
数台しか止められないようなコインパーキングに駐車したんです。

「いやぁ、予想以上の込みっぷりだわ……」
「ホント、うちの県にこんな人がいたのか、って思うよなー」

なんて軽口をたたきつつ、
よく澄み渡った秋晴れの下、
祭り会場へ向かいました。

「あーあ。彼女がいりゃあ一緒に来たのになぁ」
「ナンパしてこい、ナンパ」

ごった返す人混みの中、嘆く同僚横目に、
オレは屋台やきそばにイカ焼きにと、
ひたすら食べ物巡りを楽しんでいました。

「あそこら辺で金魚すくいしてる子にでも声かけてこいよ」
「そんな勇気ねぇってー」
「はー、情けねぇなぁ」

シクシクとからあげを齧る宮田に呆れつつ、
あと何を買おうかとグルグルと屋台を見回していると、

「おっ……なつかしー、お面売ってんじゃん」

道路のわきで、
ひっそりと屋台が立っていました。

定番のひょっとこやオカメの面の他に、
流行りのマンガキャラクターや、
戦隊もの、動物を模したものなど、
多岐にわたる種類の面がズラリと並んでいます。

「親に買ってくれってねだったなぁ……」
「オレんとこ、親がムダになるからって言って、
 買ってもらえなかったよ」

幼い頃、ロボットアニメが好きで、
屋台の面にもそのキャラクターのお面があったが為に、
何度も母親にすがったものです。

が、どうせすぐ使わなくなるからと、
けっきょく一度も買ってもらったことはありませんでした。

「値段……へぇ、ぼちぼちするな」
「なんだ? 記念に買ってくのか」
「いや……使い道ねぇし」

あの頃は喉から手が出る程に欲しかったそれ。

しかし、三十路にもなって被る機会もなければ、
部屋に飾るのもな、と同僚のなぜか期待に満ちた表情に
フルフルと首を横に振りました。

「なんだー。山崎の秘められた趣味がわかるかと思ったのに」
「アホか。……って、お前、買うのか」

ひょい、とかけられた一枚のお面――
それもかなり可愛らしい、
女児向けの面を手に取った宮田に、
オレは引き気味で尋ねました。

「うちの姪っ子、このキャラ好きでさぁ。
 来週末にうちに来るっていうから、プレゼントにね!」

たしかに、彼は以前から姪を溺愛していて、
よく子供服やおもちゃなども買ってやっている話を聞いていたので、
オレは半ば呆れつつ、隣の塩キュウリを購入していました。

「だいたい回ったか?」
「だなァ」

ウロウロと祭り会場を巡り、
舞台上の催しなども堪能し、
だんだんと周囲もお開きのムードが漂ってきました。

「車で来てるし、ビール飲めないのがつらいよなぁ」
「おー、んじゃ、宅飲みいくか?」
「イイねぇ! 酒買ってこーぜ」

などと、帰り際に二つ三つつまみになりそうな
屋台飯を買い、車までの道のりをのんびりと歩いていました。

「今年の祭りはこれで終わりか」
「年開けたら、初詣で屋台くらいはでるけどなー」
「まーな。でもやっぱり、祭りの雰囲気っつーのが」

と、ダラダラと話をしていた同僚が、
唐突に言葉を切りました。

「どした?」
「……トイレ」
「ああ?」
「ちょっ、ヤバ、急に来た。祭り会場の方にトイレあったよな?
 ちょっと行ってくる! 先、車行っててくれ!」

腹を押さえて少々青い顔をした宮田が、
スタタタッと駆け足で来た道を引き返していきました。

「騒がしいヤツだなぁ」

苦笑しつつ、
オレ自身はまったく催していなかったため、
のんびりとしたペースで一人、歩きはじめました。

滅多に訪れないこの街。

見慣れぬ街並みはどこか新鮮で、
キョロキョロと周辺を眺めまわします。

祭りの中心地は駅も近いアーケード街でにぎわっていますが、
そこからだいぶ離れたこの辺りは、かなり閑散としています。

シャッターの下がった商店街は、
かつてはそれなりに栄えていたのでしょう。

チカチカと点滅する街灯の照らす風景は、
どこか物悲しささえ感じます。

「えーっと、こっち曲がって……で、いいんだよな」

ボーッと歩いてきてしまい、
ハッと周囲を確認しました。

さほど難しい道を通らない為、
迷うことはないだろう、とタカを括っていたのですが、
夜の暗さと土地勘の無さが、
不安に妙に拍車をかけてくるのです。

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