【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
41 / 415

20.望みを叶える本・裏①(怖さレベル:★☆☆)

しおりを挟む
(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
『20代女性 鈴木さん(仮名)』

……ええと、こんにちは。
私、鈴木チエコと言います。

昔から、勉強……特に、
地質や地理と、それに関わる民俗学などが好きで、
幼い頃から、よく親にはそういう本をねだっていました。

社会人になってもその興味は衰えず、
OLとして働く傍ら、
そういう方面の勉強会や同好会にも、
頻繁に参加していたんです。

そして、もう一つ。

あの、突拍子もない発言だと思いますが……

私、その……見えるんですよ、昔から。

……その、オーラ、
っていうんでしょうか。

幽霊とか、そういうモノとはまた違う、
その人自身がまとう気、みたいモノ。

その人の性質を表す色のほかに、
運気や気分を表すのがオーラの量や形で、
私は例えば、その人を一目みるだけで、
その人の性格や体調などを当てることができました。

そして、話は戻りますが、
社会人の民話同好会に参加した時のコトです。

その日のメンバーは七人で、
いつもSNS上でやり取りしている気心の知れた人たちの集まり。

オーラが見えるとはいえ、
さすがにSNS上での透視までは私はできないので、
こういったオフ会でいろいろな人の気の変化を見るのを、
ちょっとした楽しみにしていたのです、が。

「……え」

その日。

いつものメンバーの中に一人、
異彩を放っている人がいたのです。

その同好会でよく見る坂本という四十代の女性は、
いつもおだやかな黄色のオーラに包まれているのですが、
今日に限っては――妙なものが見えるのです。

それは……
ドス黒い、渦。

それが、彼女の黄色いオーラのまわりに、
いくつもいくつもいくつも存在しているのです。

「……なに、アレ」

あんなもの、今まで生きてきた中で、
一度としてみたことがありません。

あっけにとられている私を置き去りに、
彼女は同好会のリーダーであるニッシーと何やら談笑しながら、
資料用だという本を卓上に取り出していきました。

「今日も気合入れてきてるねぇ、サカモトさん」
「ええ、つい張り切っちゃいまして」
「いやぁ、いいことだよ。ねえ、チョコちゃん」

ニッシーは、
不意にこちらに話を振ってきました。

チョコというのは、チエコという本名をもじった、
SNS上で使っていたHNです。

「……そーですね」

私は内心の動揺を押し殺しつつ、
返事をしました。

ドロドロと渦巻く黒いそれに苛まれつつ、
坂本は気にならぬのか、ほがらかに笑っています。

その渦は、見た目通りにどこかまがまがしい雰囲気を放っていて、
私は、もしかしてこの人は死期が近くて、
それでこんなモノを身にまとってしまっているのではないか、
と悪い予感に身震いしていると、

「あれ? ……この本」

この会の主催であるニッシー。

その彼が、積み上げられた本のうちの一冊を
ひょいっと手に取ったのです。

「……あっ」

その途端。

ニッシーの、
おだやかな緑のオーラの上に、
ポン、と黒い渦が浮かんだのです。

「……ま、さか」

私はハッとして、
彼の手のうちにある黒い本を見つめました。

『望みを叶える本』と書かかれたそれは、
タイトルに反してやたら重厚感があります。

表紙に描かれた、真っ赤なルージュのひかれた唇が、
妙に生々しく見えて、私はゾッと目をそらしました。

別の人に呼ばれ、その場を離れた坂本さんをしり目に、
ニッシーは何気ない風でペラペラと本のページを捲っています。

「へぇ……」

なにごとか頷きつつ、
彼はドンドンと本を読み進めています。

そして――そのたびに、
彼のまとう緑の光がみるみるうちに弱く、
あの黒い渦に侵食されていくのです。

「に、ニッシーさん!」
「……ん、チョコちゃん。どうしたんだい?」

思わず声をかけて読むのを中断させれば、
風前のともしびのごとく薄まっていた緑の光が、
いくらか息を吹き返しました。

「あ、あの……ど、同好会、始めませんか」
「あ、ああ! そうだったね……
 せっかくみんなに集まってもらったんだから、そろそろ始めようか」

パタン、と閉じられた本は卓上に置かれ、
坂本さんたちのいる方へ彼は声をかけに向かいました。

私は、あの奇妙な本の置かれた場所に近寄り、
ジッとそれを見下ろしました。

「あれ? ……この本」

その表紙。

真っ赤な唇が描かれていた部分。

その唇の合間に――なにやら、
黒い汚れのようなものがあるのです。

私は無意識に、
その汚れを落とそうと、
スッと指を表紙に伸ばし――、

バチン!!

「わっ……!」

ビリッと触れた右手が弾かれ、
ハッと目の覚めるような心地で飛びのきました。

「な……何……?」

私は、
どうしてアレに触れようとしたのだろう。

どう考えても、ニッシーがアレに触れた瞬間、
渦に取り込まれそうになったのを、
確かに見ていたはずなのに。

引き込まれそうになったことにゾッとして、
私は慌ててその場から皆のいる机の方へ逃げ去ったのです。



そして、同窓会が終わり、
いつもよりも数倍疲れた気分でトボトボと駅から自宅への
道のりを歩いている途中でした。

ピッ

「ん?」

メッセージの通知でした。

相手は――坂本さん。

私は胸騒ぎがしつつ、内容に目を通して、
愕然としました。

あの本が、無くなった?

あの、触れた人のオーラすらも取り込んでしまう、
危険な本が?

私は今まで、何人もの人のオーラを見てきましたが、
オーラの色がドス黒く変色している人というのは、
軒並み命に危険があるような人ばかり。

それも、あんな渦に取り込まれるようなものではなく、
もっと足元からぼんやりと燻っている
程度でしか見たことがありません。

それなのに、あの本に触れた二人は、
まるで食われでもしているかのようにオーラが減って、
あげくに、
それを見ていた私すらも取り込まれそうになってしまった。

あの時弾かれたのは、
本当に運が良かったとしか言えません。

そんな――
そんな危険なモノが、行方不明に?

私はゾワゾワとした悪寒に苛まれる身体を抱きしめながら、
慌てて自宅へと逃げこみました。

もう、関わりたくない。
ただただ、その一心であったのです。



しかし、その夜のことでした。

昼間のできごとが否応なく脳内に思い浮かび、
私は眠れぬ身体をゴロゴロと布団の上で転がしていました。

夜も更け、時計の針が十二時を回ったころ、
ようやく私はウトウトと眠りの世界に入ったのです。



ハッ、と意識が戻ったのは、
どこかのアパートの一室でした。

「……ここは」

自宅とは違う間取りの、
一人暮らし用の寝室、
といった部屋。

キョロキョロ、と周囲を見回していれば、
不意に”それ”が目に入ってしまったのです。

>>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

処理中です...