【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
144 / 415

62.まねきババア②(怖さレベル:★☆☆)

しおりを挟む
そして、その日の午後。

ぐったりと疲れた身体を引きずりつつ、
あたしはタイムカードを押しました。

「お疲れー、染谷さん」
「あ、お疲れ様です……」
「ねっ、スゴかったでしょ」
「は、はい……」

羽田さんに苦笑交じりに声を掛けられ、私は頷くほかありません。

特売チラシが入っていただとか、
タイムセールがあっただとかいうことは一切ないというのに、
レジに並ぶ客はいっさい途切れることはありませんでした。

「いや~、給料が時給制の私たちにはなんのメリットもないけど、
 店にとっちゃ大助かりよねー。
 だからまねきバアさんなんて言われてるわけだけど」

そんな風に言いつつ帰り支度をする彼女に、
あたしはどうしても気になって尋ねました。

「まねきバアさんって……人間、なんですか」
「さァ? 店長なら知ってるかもね」

ケラケラと屈託なく笑いつつ、
羽田さんはそれ以上の追及を逃れるかのように、
そそくさと帰宅していきました。

(まねきバアさん……まねきババア、かぁ……)

妙なジンクスがあるものだなぁ、
とその日はただただ感心するしかありませんでした。



「新しく入りました、飯野塚です。よろしくお願いします」

ようやくスーパーに勤め続けて一か月もした頃、新人が入ってきました。

彼女は勝気なまなざしの少々派手めな女性で、
若干口調はキツいものの物覚えが良く、
かなり早い段階からいろいろな仕事を任されるようになっていました。

(仕事ができる人っていうのは、なんでもそつなくこなすねぇ)

あたしは自分より後に入ってきたにも関わらず、
すでにベテランのように客をさばく姿に感心しつつも、
彼女とはシフト時間が見事にズレていた為、
ほとんど接点らしい接点を持つことはありませんでした。

そんなこんなで、あたしは彼女の評判も知らず、
ただただ働き者だなぁ、くらいの印象だけを持っていました。



と、そんなある日のことです。

あたしはいつも通り、少し早めに家を出て、
自転車置き場にやってきていました。

財布と携帯だけが入ったカバンを抱え、
もはや習慣となっている朝のまねきババアの有無を
チェックをしようとして――目を見張りました。

「え、ち、ちょっと……飯野塚さん!?」

珍しく早番のシフトだった彼女が、
スーパーの入り口のところに居たまねきババア相手に、
何ごとかを怒鳴りつけていたのです。

「ここ、お婆さんの家じゃないですよ! 邪魔してないで帰ってください!」
「…………」
「聞こえてないんですか!? 警察呼んで引き取って貰いますよ!」

ヒートアップしていく彼女の声に、
あたしはカバンを放り投げて慌てて止めに入ります。

「い、飯野塚さん、ちょっと!」
「あ……パートの。あなたも言ってやってくれません!? 迷惑だって」

不機嫌さを隠しもせず、彼女はイライラと足を踏み鳴らします。

「だ、ダメですって! まねきバアさんの話、
 他の皆さんから聞いてないんですか!?」

そう、このまねきババアと呼ばれるお婆さん。

このスーパーに富をもたらす福の神――なのですが、
ゼッタイに声をかけてはいけない、というルールが存在したのです。

あたしも、何度かこの老婆を見かけて、気にかかっていたものの、
同じパートの方たちに、キツくそう言い聞かされていました。

その理由に関しては、
「ま、変人には関わらない方が良い、ってコトよ」
と曖昧な返答ではあったものの、
そうすることが暗黙の了解となっていたはずなのに。

「あー……まぁ、聞いてますけど。
 でもこんなトコにいられちゃ迷惑でしょ?
 そんな迷信、みんな信じちゃってバカバカしい」

彼女は元来の性格ゆえか、それとも入ったばかりで
まねきババアの影響を実感していないのか、
あたしの慌てっぷりを鼻で一蹴しました。

「でもこの人、さっきから何の反応もないんですよ。
 だから、あなたもちょっと言ってやってくれませ……ん?」

彼女が、小馬鹿にした表情で老婆に向き直った、その瞬間でした。

フッ

その老婆は、あたしたちの前で、
まるで蜃気楼のように一瞬で姿を消してしまったんです。

「えっ……」
「あら、どっか逃げたのかしら。まったく」

しかし、彼女はちょうど見逃したのか、
尻尾を巻いて逃げ去ったとしか思っていないようでした。

そんな彼女に、ただでさえ見下されているらしい身分で意見することも出来ず、
プンスカと未だ怒りの収まらぬ様子で肩をいからせている飯野塚さんに、
ただただ苦笑いを向けることしかできませんでした。



「……うーん」

その日の仕事が終わった後。

普段であれば大勢の客の訪れる、
まねきババアの現れる日、だったのですが。

その日は、別段普通の日と変わらない客入りです。
むしろ、若干来客が少ないかな、と思うほどの。

(これ……やっぱり、飯野塚さんがまねきババアを追っ払ったから……?)

今までの流れからしても、十中八九間違いないでしょう。

あたしがここに勤め始めて二か月。

まねきババアを見た回数は今日で四回目ですが、
それまでの三回は、皆総じてバタバタと客が入っていたのですから。

(何者なんだか……)

目の前で、パッと魔法のように消え去った老婆。
やはり、只の人間ではないのでしょう。

>>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ママが呼んでいる

杏樹まじゅ
ホラー
鐘が鳴る。夜が来る。──ママが彼らを呼んでいる。 京都の大学に通う九条マコト(くじょうまこと)と恋人の新田ヒナ(あらたひな)は或る日、所属するオカルトサークルの仲間と、島根にあるという小さな寒村、真理弥村(まりやむら)に向かう。隠れキリシタンの末裔が暮らすというその村には百年前まで、教会に人身御供を捧げていたという伝承があるのだった。その時、教会の鐘が大きな音を立てて鳴り響く。そして二人は目撃する。彼らを待ち受ける、村の「夜」の姿を──。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

処理中です...